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ガンとアーユルヴェーダ B.S.D.T.財団の「癌治療と研究統合センター」からの講演を聞いて(後篇)

がん治療にアーユルヴェーダは有効なのか―答えはイエスだという。しかしアーユルヴェーダだけでがんが消滅するわけではない。アーユルヴェーダは基本的にQOLを上げるものだと考える。体力が落ちて化学療法が受けられない時に力をつける。副作用が最小になるように働きかけ、苦痛を和らげる。得意なのは炎症を抑えてなだめることだ。そして「病気のない余命期間」を伸ばすのが、アーユルヴェーダなのだ。

前篇に書いたように、講演の前半ではがん治療に用いるアーユルヴェーダのさまざまな方法や取り組みが紹介された。病気の治療だけでなくふだんの生活にも取り入れたい食事療法や生活習慣も紹介された。後半では稀有な症状、重篤な症状にアーユルヴェーダを補助的に用いてQOL改善と治療後に「病気のない状態」を延長でできている症例が報告された。

6人の症例紹介

ステージ4の悪性黒色腫を患った40代のドイツ人男性や胃がんで肝転移のある82歳の男性、複雑な遺伝子変異のある乳がんの女性など、6例が紹介された。それぞれがんも違えば受けたアーユルヴェーダの治療も違う。治療の内容も紹介されたが、例えば「ふだんからターメリック水を持ち歩いて飲む」などと聞くと、うっかり私もやろうかなと思ってしまう。けれど、それはその患者に合わせた治療や療養で「手軽にできるから」といって真似をしてもだめなのだ。手術や化学療法の後に20年間にわたって再発がない例や、10年生存率10%のところを10年間を過ごし、一度転移があったものの6年以上はまったく疾患のない状態で過ごしている人のことを聞くと、新たな希望の光となってくれるだろうと思う。

質疑応答で出てきた「本人不在の善意」

質疑応答の時間となった。受講していたのは50人ほどだろうか、その中にがんサバイバーや治療中の患者がいるのかどうかはわからない。伝統ヨガを学んで治療に取り入れている消化器内科医がいた。質問をした中にはヨガの指導者もいて、その病院でのヨガや瞑想の取り入れ方などへの質問も出ていた。もちろんアーユルヴェーダの施術者も少なくなかっただろう。が、出てきた質問のいくつかに私はぞっとした。

1つは質問者の家族ががんで闘病中とのことだった。その質問者はアーユルヴェーダの知識があるのだろう、専門用語を交えながら食事はどのようにしたらよいのかを質問した。いや、正確にはどのようにしたらではなく「この症状にはこれだとなっているからその食事を用意するのに、食べたくないと受け付けない、どうしたら食べさせられるか」というものだった。別の質問ではやはり家族が闘病中で、とても痛がるのでオイルマッサージをするのだが、すごく嫌がる。どうしたら受けさせることができるだろうかというものだった。
ちょっと待って、と思った。どちらも患者本人は嫌がってるのに? それ以外の方法を調べたり試したりせずに? さらなる苦痛を与えていると思わなくて?
回答者からの言葉は、まず「全てのケースに1つの治療はあてはまらない」とのことだった。痛がったり苦しいことを無理にしてはいけない。病気の痛みや辛さからマッサージを嫌がるというのは、体力が落ちている可能性が高いので食事療法などから強壮にアプローチする。またマッサージといっても用いるオイルからやり方まで千差万別なのだから、そこは専門家(アーユルヴェーダの専門医)に任せた方がよいとのことだった。その答えに質問者が納得したかどうかは、よくわからない。

民間療法の恐さ

ここが民間療法の恐ろしいところだな、と思わずにいられなかった。今はネットで材料なりやり方を知ることができる。もしその技術や知識を学んだことのある人なら、身近で苦しんでいる人に施してあげたくなるだろう。その、善意がおそろしい。漢方でもサプリでも、霊験あらたかな水でも同じことなのだ。もちろん、患者本人が藁にもすがる思いで探し出し、試したりはまったりすることも多い。でも、それも本人にじゅうぶんな専門的な知識があるわけではないし、検証する余裕もない。それでも本人が納得して満足するのなら悪くない選択かもしれない、と私は思う。けれど「まわりの善意で」されることは、断ることも難しく相手を、多くはとても近くにいる大事な相手を否定してしまうので、さらにやっかいなことになる。私は、今回の講演も他のことにしても、ついついまず自分に対して考える。その後に現在闘病中の友人や知人のことを思い浮かべる。そして機会があれば、自分がうまく説明できるぐらいに咀嚼できていれば勧めたいな、と思うのだ。

大切なのはどう生きていきたいか

前篇にも書いたことだが、いちばん重要なのは病気の本人が「どう生きたいか」を持つことだ、とこの講演を聞いて再認識した。もし、余命がほぼ決まってしまってそれが長くなかったとしても、死の瞬間までは生きているのだ。その直前までをどうしたいのか、があれば段階をふんで実行していくべきことも見えてくるし、優先順位も決まる。そのためにどんなサポートが必要なのかもわかりやすいだろう。そういったことを冷静に考える為にも体力は必要だ。ひっきりなしに痛む体では考えられないし、自分におこなわれている治療の内容がわからなければ不安にさいなまれて先のことは考えられない。そのためにもこの西洋医学と連携して行うアーユルヴェーダは、とても有効かもしれないと思った。伝統的な医療(中医学、漢方なども含め)は、長年のノウハウとデータが積み上がっているから、補助的にあるいはその後の生活のために、QOL改善には相性がいいだろう。がん患者は、たとえ同じがんであったとしても年齢、性別、環境、性格などによって苦痛や悩みは千差万別だ。伝統医療がバッチリ1点に治療対象を絞り込む性質でないことも相性がいいと思う。それぞれにオーダーメイドが可能だからだ。けれど、そこまでもっていくには信頼に値する専門家に出会わなければならない。患者の訴えに果てしなく耳を貸してくれる、他人と比較せず何度でもトライしてくれる、そしてどうなりたいかの希望を聞いてくれる専門家に。

私自身は、やはりインドに行ってこの病院の治療を受けようとは思わない。自分の生き方の中でその必要は感じない。でも、明確に自分の生き方を持っている闘病中の人には知らせたいな、と思った。別の闘病中の、本当にぶじに治療が進んで元気になって、まだまだ生きてほしい人は、本人がそう思っているかどうかが疑わしいので、勧めても知らせてもわかってもらえないだろうな、と思う。でも、私がこういう治療法があるという知識を持っておくのは、とても意味があるような気がしている。どこでなんの役に立つのかはわからないけれど、サバイバーならではの経験や感覚をもって知識をそなえておきたいなと思っている。

まあ、そうは言っても帰宅したらすぐにムング豆とレンズ豆を楽天で注文しちゃったけどね。ちょびっとだけど取り入れていこうと思って。

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