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【気まぐれ日記】#17「第一宇宙速度と第二宇宙速度」

大学の一般教養の科目で
「地球と宇宙の科学」という講座をとっていた。
もう30年も昔の話だ。

(同講座については、「Say When!」シリーズの
#3話で語っているので、よかったらこちらも。)

ある日の授業の話題は、
「第一宇宙速度」と「第二宇宙速度」だった。

地球には重力がある。
モノを空に向かって高く投げても、
重力に勝てずに落下する。
ごくあたりまえの話だ。

ロケットでも、石でも、なんでもいいのだけど。
最初にある速度を与えて(これを物理では「初速」という)
天に向かって発射しても、
初速がある一定の速度に満たない場合、
ロケットも、石も、放物線を描いて落下する。

地球の重力にあらがうことのできない限界の速度を
第一宇宙速度」という。

それは、およそ秒速7.9Km

秒速7.9Kmに、0.0000000000000000000………1Kmでも足りなければ、
どんなに上空まで達しようとも、
やがて地球に向かって落ちてくる。

ところが、わずか0.000000000000000000000………1Kmでも
第一宇宙速度を超えることができれば、
そのモノは地球の重力とつりあって、落ちることなく
地球の周りをまわり続ける。
人工衛星のように。

でも、第一宇宙速度を超えただけでは、
ロケットは宇宙には行けない。
地球の重力とつりあっているから、
地球から離れることができないのだ。

地球の重力に勝つには、
第二宇宙速度」に達しなければならない。

それが、およそ秒速11.2Km

秒速11.2Kmを超えてはじめて、
ロケットは宇宙への旅に出発できる。

というような、講義だった。

第一宇宙速度や第二宇宙速度と呼ばれる速度があって、
ロケットが人工衛星になるか、宇宙へ旅立てるかのわかれ道になる
という話もおもしろかったのだが。

それよりも、私の心をとらえたのは、
第一宇宙速度に、0.00000000000000………1Kmでも届かなければ
物体は落下してしまい、
逆に0.00000000000000000………1Kmでも超えれば、
落ちてこない、ということだった。

私はこの事実を知ったとき、
「あの感覚と同じだ」と思ったのだ。

大学1年のときに受けた講義だったから、
まだ高校生の自分をひきずっていた。
教授は宇宙物理の深淵について語っていたのだが、
私はその高尚な話を、ごく卑近な例に勝手にあてはめ、
ひそかに納得し、感動したのだ。

高校2年の秋の話だ。
理系科目がからっきしダメだった私は、
数学と物理が大の苦手だった。
私の目の前には、常に数学の高い壁がそびえ立っていた。
どのくらい高いかの検討さえつかないほどで、
いくら勉強してもわからず、いつも暗澹たる気持ちでいた。

当時、まわりの学友は皆、通信添削のZ会を受講していた。
私も受講していたのだが、Z会の問題は良問というか、
とにかく考え抜かないと正答が導きだせないようにできていた。

数学のある問題がずっと頭に引っかかっていた。
体育の長距離走の授業中で、
グラウンドをだらだらとしゃべりながら走っていた。
誰からともなく、その数学の問題が話題になった。
「今回の問題は、すごく簡単だったよね。」
「○○〇するだけで、いいんだよね。」

私は「あれ?」と思った。
そんな単純な問題ではなくて、条件を細かく場合分けしなければいけないはずだが、私はその場合分けをどうすればいいのかで悩んでいたからだ。

その一瞬、私は気づいた。
彼女たちには見えていない景色が、
私には、いつのまにか見えるようになっていたのだと。

いつからかは、わからない。
やみくもにジャンプを繰り返すうちに、
気が遠くなるほど高くそびえていた壁の上に
乗ることができていたのだ。
それは不思議な感覚だった。

山を登るように、一歩一歩確実に
頂上に近づいたわけではない。
跳んでは落下し、跳んでは落下しを繰り返していた。
いつ果てるともわからない挑戦を繰り返しているうちに、
あるとき、ひょいっと「第一宇宙速度」を超えていたのだ。
そんな感覚だった。
ただ、超えた先に、また一段と高い壁がそびえていたのだが。

けれども、その感覚が勇気になった。
コツコツが、目に見える形の成果にあらわれなくとも。
何度挑戦しても挫折の日々でも。
どこに出口があるのかわからなくても。
オール・オア・ナッシングの繰り返しでも。

挑戦し続ければ、ある日突然、霧が晴れるようにわかる日が来るのだと。
そして、いったんその高みに手をかけることができれば、
もう、落ちることはなく、そこから別の景色が見えるようになるのだと。

その感覚が、「第一宇宙速度」の原理と同じに思え、
私は教授の語る声をミュートさせて
一人、勝手な発見に興奮していた。

あれから10数年たって、
息子たちに別の意味の「第一宇宙速度」を
講義して聞かせたのだが。
はて、彼らの心にひっかかっただろうか。







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