【連載小説】「北風のリュート」第18話
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第18話:糸口(5)
「結婚式の前日に母に呼ばれてね。座敷に桐の箱が一つ置かれてたの」
美沙の実家は岡崎にあるという。
「庭のハナミズキが満開で、空に捧げられた薄紅の花束のようだったわ」
記憶をたどるように美沙は目を閉じる。
「桐箱には、銀に光る弦楽器が一棹入っていて。娘が生まれたら必ず嫁入りのときに持たせなさいといわれた。もらったのは、それだけ。他には何もなかったはず」
美沙は静かに目を開けた。流斗は美沙から目を離さずに聞いていた。
「龍秘伝なんて巻物、渡され