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シロクマ文芸部 課題作品

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シロクマ文芸部の課題で作った小説などを編集したマガジンです。
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#掌編小説

玉むすび(#シロクマ文芸部)

 朧月が蒼天に白くにじんでいた。  戎橋の欄干に背を預け、数馬は道頓堀に目をやる。北岸に…

deko
3か月前
82

万年、どこの夢(#シロクマ文芸部)

 布団から芽が出ておった。  文字にすればそれだけか、つまらぬの。   締め切りの迫った…

deko
4か月前
72

オールドウィッチの化粧水(#シロクマ文芸部)

「雪化粧水を……ください」  ガラン、ガラン。  錆びた音を立ててドアベルが揺れた。  そ…

deko
5か月前
93

海とメロンパンとヒダカさん(#シロクマ文芸部)

「最後の日ですからね」とヒダカさんがいう。  ヒダカさんは黒いビロードの毛並みが美しいく…

deko
5か月前
82

帰蝶(#シロクマ文芸部)

「振り返るなど胸糞悪いわ」  眼前の敵を槍で突き、背後で剣を振るう蘭丸に信長は吐き捨てる…

deko
6か月前
81

ガトーじい(#シロクマ文芸部)

「ありがとう。いい天気ですな。お達者で」  冬空をかさかさ擦る調子っぱずれの声が、通りの…

deko
6か月前
68

十二月屋(#シロクマ文芸部)

「十二月屋はまだじゃろか」  ちりん。  片付け忘れた軒先の風鈴が鳴った。  文机にひじをつき、ぼおっと出格子越しに路地を眺めていた橙子は、耳の後ろでかすかに鈴のような声がふるえた気がして、 「十二月屋って、なあに?」と振り返った。  黒髪を肩で切り揃え、梔子色の縦縞のきものに、黒地に椿柄の被布をはおった六歳ぐらいの少女が、橙子の肩越しに窓の外をうかがっている。 「あなた、どこの子? かってに人の家にあがったら、あかんよ」  少女は、しまった、という顔をする。 「あなたのおう

夢のあとさき(#シロクマ文芸部)

 ――『逃げる夢の法則』というのを知っているかね。  消えかけの燭台の炎のような声が、店…

deko
7か月前
62

誕生日を盗め!(#シロクマ文芸部)

「誕生日を盗んでいただけないかしら」  マイアミのビーチに面したカフェで、リックはジョッ…

deko
7か月前
79

妻恋い(#シロクマ文芸部)

「紅葉鳥よ!」  恵映子が声を落としてささやく。  残暑の影響か、紅葉は五分といったところ…

deko
7か月前
49

Love Letter(#シロクマ文芸部)

 珈琲と似合うのは、こんな小糠雨だ。  細かな雨粒が通りに面した窓をすりガラスに変え流れ…

deko
7か月前
65

玉の秋桜(#シロクマ文芸部)

 秋桜がうすい秋の空に群れて揺れていた。 「まあ、ほんに、みごとに咲いてますこと」  モス…

deko
8か月前
102

文芸部(#シロクマ文芸部)

 文芸部にはクマがいた。  あのときは驚いたなあ、とクラブハウスの屋上でプランターに水を…

deko
10か月前
62

平和とは。(#シロクマ文芸部)

「平和とは……、清純な処女みたいなもんさ」  腰に提げたステンレスのスキットルの蓋を歯でこじ開け、干からびた喉にバーボンを流し込む。苦い酔いを噛みしめる。なんでそんなことが口をついたのか、たちまち後悔が滲む。錆びた風が粉塵を巻きあげる。 「処女……ですか」  アッシュがまだそばかすの残る丸い鼻をふくらませる。四十過ぎのおっさんが何を言ってるとでも思っているのだろう、若者特有のしらけた侮蔑を口もとに微かに漂わせる。世界のことをまだ何ひとつ知らないのに、もうすべてをわかっている気