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『残像に口紅を』

本小説は物語が進むにつれて、使える言葉が消えていくというルールのもと作者が考える現実とも虚構とも言えぬ日常を綴ったものである。
最後の言葉「ん」がなくなり、本小説は終わりを迎える。

私は全ての小説には物語を通して作者が読者に伝えたいことがあると考えている。
では、本小説ではそれがなんなのか。
残像に口紅をというタイトルが指す意味は。
上記二点について私なりの考えを述べていきたいと思う。
まずこの小説には物語の話に一貫性がない。ただ言葉が消えていくことでどうなるのか。それ自体を目的にしているようにも捉えられる。物語についても実験的に消えていく言葉に面白みを持たせるために書かれている場面が多いように感じた。
非常に理解し難く、人によっては飽きてしまう可能性もある小説であった。

私なりに解釈した本小説によって伝えたかったであろうものは一つ。
現実は虚構で虚構は現実であること。これは作者も小説で述べていることである。矛盾しているようだがとてもしっくり来る表現だった。夢を見ている時にそうであるように、時に現実と虚構の区別がつかなくなる時が私が現実だと信じているこの世界で私にも起こることがある。それは非現実的なことが起こった際である。例えば、間近な人の死を知った時、火葬して箸渡しまでしてもこれが私のよく知る人のものだと実感が湧かないこと。逆も然り、嬉しいことや幸せすぎることが起こった時にもそのようなことを感じる。
虚構のように現実を生きること。消えてしまっては取り戻せないあれやこれを悲しむことができるこの世界に感謝することを伝えたかったのではないかと思いました。
残像に口紅を。
消えてしまった言葉と共に消えたものに。残像のような記憶に。言葉を発する口へ色をつけようという意味だと私は解釈した。

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