見出し画像

日本一小さな本屋さんで屋上ライブ

公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木雄高

いつもの「研究員の雑記帳」よりも、ゆるい内容でお届けします。「雑記帳」に記された、ある日の身辺雑記だと思って読んでみてください。


レトロなビルの4階にある日本一小さな本屋さん

私が住む千葉県市川市では、ここ数年の間に、駅前の書店が立て続けに何店舗も閉店しています。これは、何も市川市に限ったことではなく、国内のいたるところで見られる現象です。

閉店する書店がある一方で、個人が経営する小さな個性的な書店が新たにオープンするというニュースを目にすることも少なくありません。千葉県でいえば、2019年にオープンした幕張町(千葉市)の「本屋lighthouse」は、本好きや書店好きには、名を知られた存在です。

本屋「lighthouse」外観。2023年5月13日撮影。

幕張町の「本屋lighthouse」に続いて、2020年、私の地元である市川市にオープンしたのは、「kamebooks」でした。

市川市の大和田、江戸川にもほど近い場所にあるレトロな「123ビルヂング」。このビルの4階に「kamebooks」があります。

「kamebooks」は、「おそらく、日本一小さな本屋」(店主談)です。

市川市の大和田という町にある、築56年のレトロなビル、いやさ、ビルヂング、その最上階である4階、というか、3階の上、階段の最上部の傍らにぽっかりと空いた押し入れを思わせる狭い空間に、「kamebooks」はあります。狭い空間に店主選りすぐりの本やZINEだけが並んでいるその場所は、さながら秘密基地のようです。

小さな本屋の「小さな」を大事にしたい。
小さいから見えてくるものが、きっとあると思うのです。
誰ともつながっていなくても安心できる場所にしたい。
安心して、自分を閉じることが出来る場所。
この「小さな本屋」は、誰ともつながらなくても安心できる場所にしたい。
安心して、自分を閉じることが出来る場所に。
亀が甲羅に引っ込むように、安心して引っ込める場所に。
甲羅は、亀に静かに「安心」をくれます。
「小さな本屋」が、来てくれた方にとって「甲羅」のような存在になったら嬉しい。

kamebooks公式Webサイト「小さな本屋」https://kamebooks.jimdofree.com/%E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%AA%E6%9C%AC%E5%B1%8B/、2023/09/06訪問

上の文章に書かれているように、「kamebooks」は店であると同時に、甲羅のようなでもあるのです。「え?甲羅のような本屋さん?」と思った方は、是非一度足を運んでみてください。ビルにエレベーターはないので、階段で頑張って上ってください。

ところで、個人経営の書店の店主さんには、SNSなどを通じて、営業日や入荷した新刊の情報、イベント開催情報、社会問題に対するご自身の意見などを、積極的に発信する人が多いのですが、「本屋lighthouse」も「kamebooks」も、SNSで情報発信をしており、多くのフォロワーを抱えています。

このような書店のユーザーには、実際に店舗を訪れる機会は多くなくとも、いつもお店の動向を気にしている私のような人(いわば「ファン」)が多いのではないかと推察しています。

ある夏の日、いつものように「kamebooks」のSNSをチェックしていたら、9月上旬に開催するイベントが告知されていました。イベントに冠されていた名前は、

屋上で音楽と夕暮れビール

というもの。これは気になります!何としても行きたい!

屋上で風に吹かれて(お酒を飲んで)音楽を堪能

というわけで、過日、「kamebooks」の屋上で開催された演奏会に足を運びました。

この日、夕方に雨が降るとの予報が出ていたので、演奏会開始時間が予定より前倒しされていました(これもSNSで知りました)。

現地、「123ビルヂング」の屋上に到着すると、やや雲が多い空は眩しく、日差しはそれなりに強いものの、その暑さは耐えられない程ではありませんでした。風のおかげで暑さが和らいで感じられたからでしょう。屋上の良いところは、空が広いこと、そして、風を感じられることですね。

「123ビルヂング」の屋上で撮影した一枚。

演奏していた音楽家は3名で、ジャズの影響を受けながらも、アバンギャルド、歌謡曲、チンドン屋など、特定のジャンルの枠には収まらないアレンジを施された楽曲を、オリジナルとカバーを織り交ぜて聴かせてくれました。

kamebooksさんの屋上で開催された演奏会にて。左から、山本恭子さん(コルネット)、瀬戸信行さん(クラリネット)、宮坂洋生さん(コントラバス)。

私は(ビールではなく)ライムサワーを飲みながら、目を閉じたり開けたりして、何も考えず、音楽を存分に楽しみました。

太陽と風の中で。

演奏の合間には、メンバーの1人である山本さんと、音楽の話をしました。演奏と、この時の会話、ここで見た景色が、セットになって、胸に焼き付いています。これから、記憶は少しずつ色あせていくと思いますが、それでも、(音楽を)聴きながら(お酒を)飲み、(風と太陽を)浴びながら覚えた満ち足りた感覚は、失われないでしょう。

演奏会の後で買った2冊の本

屋上での演奏会に満足した私は、「kamebooks」で久々に買い物をしました。「本屋lighthouse」にも言えることですが、小さな個人書店のこだわりの品揃えは、店主の思想を反映しており、もっと言えば、社会がこうあってほしい、あるいは、こんな社会は嫌だ(だから自分はこう生きたい)という考えを具現化、結晶化したものだとも思えます。

この日、私が購入したのは、これら2冊でした。

演奏会の後、「kamebooks」で購入した2冊。買った後で気付いたのですが、2冊のタイトルには共通点があります。わかりますか?

個人が経営する小さな書店は、その品揃えも、そこで行うイベントの内容も、そのすべてが、店主が、お店が放つ、強烈なメッセージです(たとえ、声高に発していなくとも)。これからも私は、それらをしっかり受け止めたり、強すぎるメッセージに目がくらんで受け取れなかったりすると思います。

日頃、研究員という立場で、小売店舗に関する調査・研究をしていますが、その対象はほとんどの場合、大規模チェーンストアです。そんな私も、私生活ではチェーンストアのみならず、個人店を積極的に利用しています。

というわけで、本稿では「最近行ってよかった店」という主題で、身辺雑記風の文章を綴りました。時にはこんな文章も悪くないですよね(どうですか?)。

また、「最近行ってよかった店」があれば、その時はツラツラと綴りたいと思います(他の研究員やスタッフにも書いてほしいと思っています!)。


 #最近行ってよかった店 #kamebooks #本屋lighthouse #出版 #SNS
 #市川市 #123ビルヂング #書店 #個人店 #個人経営 #本屋 #店主 #小さな本屋