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幸せについての学問 「ウェルビーイング学」とは!? 武蔵野大学ウェルビーイング講演会レポート&前野教授インタビュー(前編)

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美

こんにちは。今回は、7月20日に武蔵野大学で開催された教養講座「幸せについての学問 ウェルビーイング学とは!?」に参加した様子をご紹介します。
2024年4月に武蔵野大学で開設された、世界初の「ウェルビーイング学部」とはどのような学部なのでしょうか。その特徴やウェルビーイングとビジネスの関係、ウェルビーイング人材の育成について、学部長である前野隆司教授の講演と、直接インタビューで伺った内容についてご紹介します。


講演:幸せについての学問 「ウェルビーイング学」とは!?

武蔵野大学・慶應義塾大学 教授 前野 隆司 氏

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

はじめに

 今日は、「ウェルビーイング学とは何か」というテーマでお話しします。皆さんの中には、ウェルビーイング学という言葉を初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。実は、ウェルビーイング学部という学部が令和6年4月に新しく設立されました。今日はそのウェルビーイング学について詳しく説明していきたいと思います。
 ウェルビーイングとは何か、ということですが、後ほど詳しく触れますが、簡単に言うと「健康」「幸せ」「福祉」などを指す概念です。多くの方は「健康」という側面を想像されるかもしれませんが、私自身は特に「幸せ」や「幸福」に焦点を当てた研究を行っています。ですので、今日のお話もその「幸せ」に関する内容が中心になります。

 私たちの研究結果を基に、これから学生たちにウェルビーイング学を教え、ウェルビーイングの専門家を育成していくことを目指しています。では、なぜこの「ウェルビーイングの専門家」が今後の社会において重要なのか、という点についてもお話ししていきたいと思います。

Well-beingとは

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

 さて、そもそも「ウェルビーイング」とは何でしょうか?この概念は、少しわかりにくいかもしれませんね。また、「ハピネス」との違いも説明したいと思います。
 皆さん、「ハピネス=幸せ」と英語の授業で習ったかもしれません。しかし、厳密には少し異なります。「ハピネス」というのは、感情としての幸せを指しています。感情とは「楽しい」「嬉しい」などのポジティブなものや、その逆である「怒っている」「悲しい」「落ち込んでいる」といった状態です。つまり、ハピネスは「ニコニコしている感情」であり、短期的な幸せを表しています。
 例えば、昼食を食べて「幸せだなぁ」と感じるとき、その感情は「ハピネス」と同じ意味で使うことがあります。しかし、「私の人生には辛いことも多かったけど、全体として幸せだったな」としみじみ振り返るときは、笑顔で「ハッピー」とは言わないですよね。ハッピーな感情ではないけれど、心の深い部分で幸せを感じている、そういう状態もあるのです。
 ここで重要なのは、ハピネスは短期間の感情を表すのに対し、幸せ(幸福)は長期的な状態を示すことがあるという点です。ハピネスは数秒、数分、長くて数日間の感情ですが、幸せは人生全体にわたる長期的な満足感や充足感を含む場合があります。ですから、幸せは単なる感情用語ではなく、人生の長いスパンで感じる心の状態も指すのです。

 では、「幸せ」は英語で何と言うべきか?ハピネスでは少し狭すぎるので、私は「ウェルビーイング」という言葉が適切だと考えています。ウェルビーイングは、直訳すると「well(良好な)」と「being(状態)」を合わせた「良い状態」という意味です。この言葉は、1946年に世界保健機関(WHO)が健康の定義で使ったのが始まりです。WHOの定義によれば、健康とは「身体的、精神的、社会的に良好な状態であり、単に病気や虚弱ではない」ということです。この「身体的、精神的、社会的に良好な状態」を表現するために作られたのが「ウェルビーイング」という言葉です。
 つまり、ウェルビーイングは「身体的」「精神的」「社会的」の3つの側面から良好な状態を指し、ハピネスよりも広い意味を持っています。身体的に良好な状態、つまり狭義での「健康」も含まれるため、ウェルビーイングはより包括的な概念です。ウェルビーイングとは、「体と心と社会のすべてが良い状態にあること」を意味し、幸せを超えた広い範囲で人々の幸福を捉えようとしています。

 1980年代頃から、心理学では幸福について様々な研究が進められてきました。その一例として、視野の広さと幸福度の関係に関する研究があります。
 
 少し失礼な質問かもしれませんが、皆さんは視野が広いですか?それとも狭いでしょうか?この視野の広さは、ある図形を使って客観的に測ることができます。
 同時に、アンケートを用いて皆さんがどれくらい幸せかを測定することもできます。例えば、「とても幸せ」「かなり幸せ」「やや幸せ」「どちらでもない」「やや不幸せ」「かなり不幸せ」「とても不幸せ」といった7段階の選択肢を用意し、自分の主観的な幸福度を直感的に答えてもらうのです。これで「主観的幸福度」が測定できます。
 もちろん、心の幸せは主観的なので多少の誤差はありますが、大まかにその人の幸福度を知ることができるのです。そして、この視野の広さと幸福度のデータを統計処理すると、驚くべき結果が得られます。
 幸福な人ほど視野が広く、視野が狭い人ほど不幸せであるという傾向が見えてくるのです。この結果から、視野の広さと幸福度には比例関係があることがわかります。視野が狭いと、様々なことがうまくいかないことが多くなり、その結果として不幸せに感じることが増えるかもしれません。例えば、視野が狭いと他人の気持ちが理解できず、「なんであの人はあんな行動を取るんだろう?」と感じたり、人間関係がうまくいかなくなることも考えられます。
 この研究結果からわかることは、視野を広く保つことが幸せに繋がるということです。視野が広がることで、多くの物事を前向きに捉えることができ、人との関わりも円滑になるかもしれません。心理学の知見を日常生活に取り入れ、視野を広げていくことが、幸せを感じやすくする一つの手段であるといえるでしょう。
 
 他にも、協調性が幸せに大きく影響するという話があります。皆さんは協調性が高い方でしょうか?それともあまりない方でしょうか?周りの人と一緒に何かを成し遂げたい、みんなのために役立ちたいという気持ちがある人は、実際に幸福度が高いことが多いです。一方で「自分さえ良ければいい」という考えを持っている人もいるかもしれませんが、心理学の研究では、自分勝手な人の方が幸福度が低いという結果が出ています。やはり、利他的で親切な人の方が幸せを感じやすいのです。
 例えば、PTA活動に参加した経験はありますか?「やりたくないけど仕方なくやる」という気持ちではなく、協調性を持って人のために何かしようとすることで、自分も周りも幸せにすることができます。ボランティア活動や地域での活動も同じです。誰かのために貢献することで、私たちは自分自身の幸福度を高めることができるのです。もちろん、自分のための趣味も大事ですが、その中に他者のために役立つ要素を取り入れると、さらに充実した幸せな人生を送ることができるでしょう。

 ここでお話ししてきたように、ウェルビーイングとは、「心身が良好な状態にあること」を指します。「幸せ」という言葉と「心の良い状態」は少し違うニュアンスがあるかもしれませんが、心理学的に見て、幸せな人とは、視野が広く、チャレンジ精神があり、協調性が高く、やる気や思いやりのある人だということがわかっています。
 ウェルビーイング学は、心と体、そして社会全体の良好な状態を追求する学問です。社会の中で思いやりを持って他人と接すれば、人間関係も良くなり、それが社会全体の健康にもつながります。福祉活動はその一例です。他者のことを考えて行動する人たちが、社会の良い状態を作り出し、最終的には広い意味での健康、つまりウェルビーイングを実現しているのです。
このように、ウェルビーイングは単なる個人の幸せにとどまらず、社会全体に良い影響を与える広い概念であり、その追求がより豊かな人生を築く鍵となるのです。

幸福度とパフォーマンスの関係

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

 幸せであることが、働く人にとってどれほど重要かということについて、数多くの研究が示しています。幸せな人は仕事ができる人なのです。例えば、幸せな人は不幸せな人に比べて、創造性が3倍高いという結果があります。さらに、生産性も約3割高く、売り上げに関しては37%も向上します。また、欠勤率が低く、離職率も少なく、業務上の事故も少ない。これだけでも、幸せであることが仕事においていかに大きな利点をもたらすかがわかりますよね。
 特に創造性が3倍高いという点は重要です。困難な状況で新しいアイデアを生み出す力が高まるということですから、例えば起業家であれば新規事業を立ち上げる力が3倍、特許を申請する力や改善提案を出す力が3倍、イノベーションを起こす力も3倍です。これが実現すれば、日本でももっと多くの新しい発想やビジネスが生まれ、生産性の向上にも繋がるはずです。
 現在、日本の生産性は国際的に低いと言われています。真面目で細やかな働き方が評価される一方で、過度な残業やストレスが生産性の低下に繋がっている部分もあるのではないかと思います。しかし、幸せであれば生産性は3割上がるわけですから、働く環境を改善するためにも、幸せの重要性に目を向けるべきです。

 社員が「辞めたい」「休みたい」と感じにくいという点も大きな利点です。学校の例で言えば、今、不登校の子どもたちが増えていますが、幸せな環境であれば子どもたちも積極的に学校に行きたくなるはずです。働く人々にとっても、リタイアした方々にとっても、幸せを感じられれば、休むことなく新しい活動にチャレンジする意欲が湧くでしょう。
 このように、ウェルビーイングがもたらす効果は、働く人々に限らず、学生や高齢者など、すべての世代にとって非常に大きなものです。ウェルビーイングが促進されることで、個人の生活が豊かになり、社会全体の活力が高まる。つまり、幸せな社会は、より持続可能で活力に満ちた社会となるのです。

「幸福学(well-being study)」の基礎

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

 私の研究の中で「幸せのメカニズム」として取り上げているのが、「幸せの4つの因子」です。これは、幸せになるための4つの重要な要素を示したもので、私はこれを「幸せの四つ葉のクローバー」として説明しています。この4つの因子は次の通りです。

  1. やってみよう

  2. ありがとう

  3. なんとかなる

  4. ありのままに

 ぜひ覚えて帰ってください。これらの因子は、幸せを感じるためにとても大切な要素です。

 まず「やってみよう」という因子は、主体的に行動することが幸せに繋がるという考え方です。皆さん、日々の仕事や地域活動、趣味に対して、どれくらい主体的に取り組んでいるでしょうか?それとも、誰かに言われていやいややっていることが多いでしょうか?例えば、家事やゴミ出しを「今日は自分がやろう!」という前向きな気持ちで取り組むのと、「今日は俺の番か…」と嫌々やるのでは、全く違いますよね。
 主体的に行動することは、幸せを生む大きな要因です。仕事でも同じです。やらされ感を持って仕事をすると、やる気がなく、幸せを感じにくいですが、主体的に「よし、私がやってみよう!」という気持ちで取り組むと、自然と幸せを感じやすくなります。このように、活力を持って行動することが、成長や達成感に繋がり、それがまた幸せを引き寄せるのです。

 「やってみようか、やめておこうか」と迷うことって、よくありますよね。例えば、日曜日に集会に行こうと思っていたけれど、疲れているから家でゴロゴロしようかな、と迷うことがあるかもしれません。そんな時は、やってみることをお勧めします。もちろん、心から疲れていて休むべき時はしっかり休んでください。でも、迷った時は、やってみる方が得るものが多いのです。
 たとえ失敗したとしても、その経験が成長に繋がり、次に成功するためのステップになります。逆に、やらなかった場合は成長のチャンスを逃してしまい、結果として活力を失ってしまいます。成長や挑戦を続けることが、幸せに繋がる大切な要素です。
 これは、健康に気をつけることと似ています。毎日ジョギングや筋トレを続ける人がいますが、やる気が出なくて3日坊主になってしまうこともありますよね。健康に気をつけるためには、習慣的に運動したり、食事に気を配ったりと、自分を律することが必要です。幸せも同じです。少し面倒に感じても、やってみることで幸せに繋がります。迷った時には「やってみよう」という気持ちを思い出してください。
 まとめると、やるかやらないか迷った時は、「やってみよう」という姿勢を持つことが、幸せに向かう第一歩です。それが、成長や達成感をもたらし、長期的に幸せを感じるための重要な鍵なのです。

 2つ目の因子は「ありがとう因子」です。やはり、感謝の気持ちを持つこと、そしてそれを伝えることが、幸せに繋がります。皆さん、日頃から感謝の言葉をきちんと述べていますか?感謝というのは、つい忘れがちになり、当たり前になってしまうことがあります。例えば、家族の誰かがゴミ出しをしたとしても、「それが当然だ」と思って感謝の言葉をかけないことが多いかもしれません。
 でも、もし「ありがとう」と言われたら、どうでしょう?例えば、「お父さん、ゴミ出ししてくれてありがとう」と言われると、「よし、明日もゴミ出しを頑張ろう!」と自然に思うものです。逆に、感謝の言葉を交わさないで「なんでゴミ出ししてないの?」と責めると、相手も反発しやすくなります。小さなことでも「ありがとう」と感謝することで、家族や職場での人間関係が良くなり、幸せな環境が作られるのです。

 ある時、私は職場についてインタビューを受けたことがあります。そこで「感謝を10倍にしましょう」と提案しました。職場でも家庭でも、感謝の気持ちを10倍にすることは可能です。「ありがとうございました」と軽く言うのではなく、心を込めて「本当にありがとうございました。助かりました」と感謝を伝えることが大事です。心からの感謝が伝わると、相手も「こちらこそ感謝しています」と返してくれることが多いのです。
 この話をした後、ある女性ライターからメールをもらいました。彼女は「感謝を10倍にする」というアドバイスを試してみたところ、冷え切っていた夫との関係が一気に良くなり、なんと1週間でラブラブな関係に戻ったと言ってくれました。これは嬉しいエピソードです。彼女が夫に「ありがとう」と言葉をかけ始めたことで、夫も「今はこれしかできないけれど、定年後はもっと手伝うよ」と前向きな返事を返すようになったそうです。
 このように、感謝を伝えることで相手の気持ちも変わり、ポジティブな連鎖が生まれます。職場でも家庭でも同じです。「ありがとう」を10倍にすることを意識すると、関係が良くなり、幸せが増していきます。

 そして、感謝を通じて得られるのは、繋がりです。感謝の気持ちが増えると、人との繋がりが強化され、孤独感が和らぎます。孤独感は、幸福度を大きく下げる要因の一つです。特に、コロナ禍で自宅勤務が増え、人と話す機会が減ることで、多くの人が孤独を感じるようになりました。しかし、コミュニケーションをきちんと取り、感謝の気持ちを伝え合うことで、孤独感は軽減されます。
 もし寂しいと感じた時は、遠慮せずに友人や家族に連絡を取りましょう。昔の友達に連絡を取って「お茶でもしませんか?」と声をかけるだけでも良いのです。話をすることで、相手が「実は私も同じ気持ちだった」と共感してくれることがあり、そこから新たな幸せが生まれます。
 職場でも孤独感を感じることがあります。たとえ多くの同僚がいる環境でも、自分が役に立っていないと感じたり、居場所がないと感じたりすると、孤独感が生まれます。そんな時、誰かが「あなたがいてくれて助かっているよ」と声をかけてくれるだけで、その人は安心し、幸せを感じることができます。
 ですから、感謝と繋がりが幸せを育む大切な要素なのです。感謝の言葉を忘れず、利他的な行動を心がけ、他者と積極的に繋がっていくことが、幸せな人生の条件になります。

 3つ目の因子は「なんとかなる因子」です。この因子は、前向きで楽観的な姿勢を持つことが、幸せに繋がるという考え方です。前向きで楽観的な人は、困難な状況に直面しても「なんとかなるだろう」と信じて行動します。一方で、後ろ向きで悲観的な人は、「どうせダメだろう」「やめておこう」と思いがちで、その結果、幸せを感じにくくなります。だからこそ、多少の楽観主義を持つことが大事なのです。
 沖縄には「ナンクルナイサ」という言葉がありますが、これは単に「なんとかなるよ」という適当な意味ではありません。実際に沖縄で公演した時、ある方に教えていただいたのですが、「ナンクルナイサ」は本来「まくとぅそーけーなんくるないさ」という表現で、「正しいこと、誠実なことをしていれば、なんとかなるさ」という意味だそうです。つまり、誠実に日々を過ごし、人との繋がりを大切にしていれば、困難があっても助け合い、乗り越えられるという深い意味があるのです。

 この「なんとかなる」という考え方も、単なる無責任な楽観主義ではなく、日々の努力や人間関係を大切にした結果、最後は自然に良い方向に向かうという信念に基づいています。オリンピック選手の例でも、「自分のために楽しむ」といった前向きな姿勢が、緊張を和らげ、実力を発揮することに繋がります。かつては「日本のために金メダルを取る!」というプレッシャーが大きすぎて、実力を発揮できないこともありましたが、自分自身のために楽しむという心の余裕が、結果として成功に繋がるのです。
 これはスポーツ選手に限った話ではなく、私たちの日常生活や仕事にも当てはまります。営業の例を考えてみましょう。「この商品は売れないだろうな…」と思いながら商品を紹介する営業と、「この商品は本当に素晴らしい!皆さんに役立つはずだ!」という前向きな気持ちで紹介する営業では、結果が大きく変わってきます。前向きな気持ちや自信が相手に伝わると、自然と良い結果を引き寄せることができるのです。

 ですから、「なんとかなるだろう」という前向きな気持ちを持つことは、幸せだけでなく、成功にも繋がる大切な要素です。この前向きな楽観性が、周りにも幸せな雰囲気を広げ、結果として仕事の成果や人間関係の改善にも貢献します。
 「なんとかなる因子」は、決して無責任な考え方ではなく、日々の努力を積み重ねた上で、最終的には良い方向に向かうだろうと信じる気持ちです。これを心に留めておくことで、私たちはもっと幸せに、そして前向きに人生を歩んでいけるのではないでしょうか。

 4つ目の因子は「ありのままに」です。これは、自分をありのまま受け入れ、他人と比べずに自分らしく生きることが幸せに繋がるという考え方です。皆さんは日常で人の目を気にしていませんか?あるいは、他の人と自分を比べていませんか?実は、人と自分を過度に比べることは、あまり幸せに繋がりません。
 たとえば、「地位財」、社会的な成功は、他人との比較で感じる「財産」ですね。人と比べて勝ったとき、一時的に幸せを感じることはあるかもしれませんが、その幸せは長続きしないことが多いです。反対に、負けたと感じたときには、自己肯定感が低くなり、幸せとは遠くなってしまいます。
 かつて「勝ち組」「負け組」という言葉が流行りましたが、実際にはどちらも幸せではありません。勝ち組と言われる人たちは、成功を手に入れたとしても、その満足感は一時的なものであり、すぐに次の目標を追いかけることになりがちです。そして、負け組と呼ばれる人たちは、他者を羨んでしまい、さらに不幸せな気持ちが募ることがあります。しかし、幸せは勝ち負けではなく、「自分らしく」生きることにあります。

 「自分は自分、人は人」という考え方が大切です。人と比べて羨ましく感じても、それは仕方のないことです。私たちは自分が生まれた場所や外見を自分で決めることはできません。だからこそ、自分自身の個性や特徴を楽しむことが、より良い人生を送るための鍵となります。
 自己受容は「なんとかなる因子」とも関連しています。自分の欠点や弱点を嫌いすぎると、自己否定に繋がり、幸せを感じにくくなります。しかし、誰にでも欠点はあります。私にもありますし、皆さんにもあるでしょう。それを無理に変えるのではなく、「これが自分だ」とありのままを受け入れ、「なんとかなるさ」と楽観的に捉えることで、幸せを感じることができるのです。
 このように、私たちは幸せに気をつけることができます。「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」、これら4つの因子が高い人が、より幸せであるということが研究で示されています。
 もちろん、全てを完璧にこなすのは難しいかもしれません。最初から完璧に実践する必要はありません。少しずつ、健康に気をつけるのと同じように、毎日少しずつ取り組んでいけばいいのです。たとえば、今日から何か小さなことにチャレンジしてみたり、誰かと話してみたり、前向きに考えてみる。そして、自分の個性を少しだけ磨いてみる。1日少しずつ行動を変えれば、1年後には大きな変化が現れます。10年続ければ、さらに幸せな人生に近づいていけるのです。
 日本は安全と健康においては世界一の国です。日本人はコツコツと努力することが得意な国民ですから、幸せも少しずつ気をつけていけば、より良い国になれるでしょう。私たち一人ひとりが、少しずつ幸せに気をつけて、日本が世界一幸せな国になる日を目指していきましょう。
 少子高齢化の時代が訪れる中で、それを「幸せ化の時代」と捉えることができれば、さらに豊かな社会が作れると思います。そして、その幸せな国づくりを担うのが、武蔵野大学に新設されたウェルビーイング学部の役割です。

💡中編では、前野教授のご講演の後半、2024年4月に設立された、世界初のウェルビーイング学部について、設立の目的や詳しいカリキュラムの内容、育成したい人材像などをご紹介します。

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💡流通経済研究所「サステナビリティ経営~ケーススタディ集~」

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