How to 障害者雇用

障害者雇用でお困りの企業・ご担当者の方々へ、 私の経験で得た how to/know how をお届けします。
*写真や図表等、随時追加して、見やすくしていくつもりです
*障害者雇用についてのご質問等、ご遠慮なくお寄せください(できる限り本欄で公開していきたいと思います)
*SNS等での共有・紹介、歓迎です!
*一部有料コンテンツとする予定ですので、予めご容赦ください

障害者雇用義務と罰則

障害者雇用促進法(正式名称:「障害者の雇用の促進等に関する法律」)により、すべての企業および公的機関(以下、「企業」とのみ表記)は、障害者を雇用しなければなりません。その数(割合)も同法によって決められており(=法定雇用率)、2023年末現在、全従業員数の2.3%以上となっています。つまり、従業員が1,000人の企業においては23人(*1)以上の障害者を雇用しなければならないということです。なお、従業員100人の企業では2人となります(小数点1位切り捨て)。2.3%の逆数(1/0.023)は、およそ43.5となりますが、小数点1位を切り上げた44人以上(*2)の従業員を擁する企業が同法に基づく「雇用義務」があることになります。ここでいう雇用義務とは、それをクリアしなかった場合に、同法に基づく「罰則」があるということです。
罰則規定をもつ法律は少なくありませんが、労働法領域において、これほど広範にわたる罰則のあるものは見当たらないほど、厳しい法規制となっています。その罰則とは、法定雇用率(数)に1人/月不足するごとに(1ヵ月間、1人不足の状態があること)5万円の「納付金」という名の罰金を払わなければならないというものです。1人不足の状態が1年続くと、5万円×12で年60万円となります。大企業等に所属されていると、意外と軽いと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これはキャッシュアウトの金額であり、たとえば売上高営業利益率が3.2%(*3)の企業においては、1,875万円の売上高に匹敵するものとなるのです(60万円÷0.032)。
それでもなお、障害者雇用に苦戦している大企業等においては、「罰金で済まそう」と考える向きが以前はありました。しかし、この不足数が「5人」以上などの場合(*4)には、「『障害者雇入れ計画』の作成命令改善命令」という行政処分が下され、定期的に監督官庁(通常は所管のハローワーク)に改善状況を報告することになるのですが、改善状況が芳しくない場合は、さらに「適正実施勧告」→「特別指導」、そして最後には「社名公表」という処分の累積が行われることになります。つまり、いくら納付金(罰金)を払っても、法定雇用率を達成しなければ、容赦なく追及されることになるのです。(ちなみに、5人年不足の場合の売上高換算は9,375万円!)
また、ある年に法定雇用率を充足していたとしても、雇用している障害者が離転職してしまった場合、(追加の採用・雇用がなければ)再び採用活動(*5)または納付金対応を迫られることとなるため、障害者の雇用維持は一般従業員にも増して重要であり、中長期的に考えて対応していかなければならないのです。
ところで、法定雇用率は、定期的に(概ね3~5年)に一定の方程式によって見直されることになっており、2024(令和6)年4月に2.5%に、2026年4月に2.7%にと、大幅に引き上げられることが決まっています。

(*1)実際には、「人」ではなく「ポイント」です。重度障害者などは2人扱い(2ポイント)、短時間勤務者は0.5人扱い(0.5ポイント)などとなります。
(*2)従業員43人以下の企業にも、罰則が適用されないだけで、雇用義務はあります。
(*3)経済産業省「企業活動基本調査 」(2021年)による主要産業における売上高営業利益率の平均値
(*4)a 実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5人以上の場合
b 実雇用率に関係なく、不足数10人以上の場合
c 雇用義務数が3人から4人の企業(労働者数150人~249人規模企業)であって雇用障害者数0人
(*5)採用コストは、一般の従業員(新卒・中途)とあまり変わりません。詳細は別項で述べます

「障害者」とは


そもそも、「障害者」とはどんな定義でしょうか?
「障害者」の定義は、国によってさまざまですし、日本国内でも法律によって定義が異なったりします。「障害者雇用促進法」における障害者とは、①「身体障害者手帳」、②「療育手帳(知的障害のある人。自治体によって手帳名称が異なる)」、③「精神障害者保健福祉手帳」の所有者となっています。「発達障害」は?・・・とお気づきの方もいらっしゃるでしょう。発達障害については、「発達障害者支援法」という法律もあるのですが、障害者雇用促進法においては、発達障害のある人のうち、知的障害があるひとは知的障害に、ない人は精神障害に分類されます。
上に、「手帳の所有者」と書きました。医師等により、各障害があると診断された人でも、手帳を申請・所有しなければ、障害者雇用促進法に定義する「障害者」とは認められず、したがって障害者の雇用カウントともなりません。
各障害については、「障害者基本法」および障害種ごとにそれぞれ独立した法律がありますが(身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神障害者福祉法)、障害に係る医学的定義を明示しているのは身体障害者福祉法のみで、知的障害・精神障害については、数値等の明確な定義がなく、医師の診断・意見書に負うところが大きいと言われています(知的障害については、IQ(Intellectual Quotient、知能指数)が主要な判定基準とされている)。
ところで、「障害者」とか「障害のある人」と見聞きしたとき、みなさんは「手足や視聴覚が不自由な人」「知的能力(IQ)が低い人」などと思っていませんか?実はそれは間違いなのです。このように、本人に医学的な心身の機能不全等があることをもって障害者と定義するのは「医学モデル」といい、古い考え方であり、いまは間違いとされています。現代の考え方は、本人の医学的な心身の機能不全等に対して社会が適切に対応していないために(社会の側にバリア・問題がある)、本人に生活のしづらさ・生きづらさがあることをもって障害者といい、これを「社会モデル」といいます。社会モデルの考え方は、障害者権利条約(2008年発効、2014年日本批准)に示された世界共通の理念・概念であり、日本の障害者基本法においても、障害者の定義を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」と、社会モデルの考え方を明記しています。
<私見>障害者について、「障害をもつ人」には本人が医学的な機能不全等がもつことを連想させる(医学モデル)一方、「障害がある人」は社会の側に問題があるため本人に生きづらさがあるという意味合いを感じさせるため、後者(障害がある人)のほうがより適切な表現であると考えます。

企業における障害者雇用のありかた

企業における障害者雇用のありかたには、いくつかの方法・考え方があると思います。
①障害者雇用専任組織・会社
障害のある人を一つの組織または会社(特例子会社が典型例)に集めるかたち。多くの障害者を雇用しなければならない企業等によく見られる。障害者雇用を目的とした組織であるため、ジョブコーチ(*1)や障害者職業相談員など、専任の上司・支援者・指示者・指導者なども配置されている。また、これに準じた例として、たとえば大きな音のする職場(印刷室とか工場など)に聴覚障害者を重点的に配置するようなこともある。
②一般の職場に、専任の支援者と共に配置
比較的小規模の企業や、雇用障害者数が少ない場合などに見られる。ある職場またはその職場のある人のアシスタント的な業務を担う。多くの場合、専任の支援者や指示者(必ずしも上司とは限らない)がおり、適宜、業務指導や相談対応を行う
③いわゆる一般就労
障害のない人と同じ職場で、障害のない人と同様・同等の職務を担う。必要に応じて障害特性に対する配慮は行われるが、職務の難易度等はあくまで人事制度(職能や評価)に基づく。
④リモート
身体障害や精神障害により通勤が困難な人や、求人倍率の低い地方の障害者を都会等の企業がリモートで雇用する。主にPCを利活用した業務がアサインされる。業務の指示や会議、報告・連絡・相談等もリモートで行われる。業務の指示者等は、上司または専任者であることが多い。
また、上記の地方ー都会のリモートと逆で、都会等の企業が地方で行う農業経営に障害者を雇用する、いわゆる「農福連携」という形もある。
⑤他社サテライト(丸投げ)
障害者が地方の農場やサテライトオフィスで働くが、その所属はそれらの職場とはまったく関係のない企業である。たとえば、X社が運営する農場に地元のAさんが働いている。しかし、AさんはQ社と雇用契約を結ぶQ社社員である。X社は、Q社から雇用管理料的な費用を徴収する仕組みである。上記④に似ているが、実質X社への丸投げであり、「Q社の障害者雇用」とは言い難い。X社もX社だが、Q社のような利用企業が跡を絶たないことも問題である。厚労省は黙認状態だが、障害者雇用の本来の目的・目標からかけ離れており、私は「絶対反対!」である。(⑤は「論外」と考えるので、以後言及しない)

①~④のうち③を除くと、概ね「障害者雇用枠」として、待遇が一般社員に比べてかなり低い(給与水準や非正規雇用など)場合が多くなっています。特例子会社などでは、人事制度を制定し「正社員」になれることも少なくありませんが(一部、入社時点から正社員待遇も)、親会社に比べると給与水準の天井が相当低かったり、親会社への正社員登用制度がなかったりするなど、障害者雇用の枠組みが固定化している、すなわち、障害当事者にとって「ガラスの天井」となっている特例子会社が多いことは否めません。

さて、上記①~④のうち、「理想の障害者雇用」はどれでしょうか。
昨今、外資系企業やSDGsを進める大企業等を中心に、DE&I(Diversity, Equity and Inclusion)という考え方が標榜・実践されるようになってきました。ダイバーシティ(多様性)というと、国籍や性別、年齢、また最近ではLGBTQなどが話題となることが多い印象ですが、障害(の有無)ももちろん多様性を構成する属性の一つです。しかし、ほかの属性が概ねinclusive(配置や職務が他者と隔たりがない)なのに対して、障害者はexclusive(配置や職務が一般社員と異なる)ことが多いように思います。①②④は、exclusiveですね。したがって、DE&Iの理念に照らせば、唯一のinclusiveな就労形態である③が「理想」と言えるでしょう。
しかし・・・。
安定的な(まずは「勤続」)障害者雇用のためには、当該障害者の障害特性を理解し必要な配慮を行う必要がありますが、障害の種類や程度は人によってまったく異なりますし、同じ診断名であってもやはり個別性が高いものです。その理解や配慮のためには、ある程度の知識や経験が必要であると考えられますが、いきなり③の形態を障害者雇用の知見の薄い部署に適用するのは、障害当事者にとっても、上司や同僚にとっても、難易度が高いと言えましょう。実際、このような配属をされた障害者が、周囲の理解や支えがないために、早期に休職・退職となる例は、枚挙にいとまがないほどです。特に、規模が大きく、多くの障害者を雇用しなければならない企業において、各部署にまんべんなく、またはランダムに配置することは、双方にとって負担やストレスとなり、口コミやSNSによる企業批判の可能性も含めて、リスキーと言えます。
そういう意味で、規模の大きい企業における①のような形態は、exclusiveではありながら、障害者雇用の入り口としては、むしろお勧めと言えるでしょう。ただし、これを本人にとって恒久的な組織・仕組みとするのではなく、本人への配慮の仕方が本人自身および周囲に理解・実践できるようになったら、その知見を引き継いで、本人のスキルや能力に合わせて③へ移行していく(ルートを用意しておく)のが望ましいと考えます。端的に言えば、本人のスキル・能力さえ整えば、障害者雇用枠を超えて、一般の人と同様の人事制度を適用する/配置する、特例子会社から親会社に登用する(親会社の人事制度を適用)ということです。

(*1)ジョブコーチは、厚生労働省が規定する公的資格。企業に所属し当該企業内の障害者を援助する「企業在籍型職場適応援助者」と就労支援機関等に所属し当該事業所のみならず企業等に出向いて障害当事者やその支援者を指導・サポートする「訪問型職場適応援助者」の2種がある。

障害種別の障害者雇用

私は、約10年の障害者雇用経験のなかで、身体障害(四肢、視覚、聴覚、心臓、腎臓)・知的障害・精神障害・発達障害(知的障害の有無両方)と、多くの障害種の方々を採用・雇用したり、共に働いてきました。
ここでは、それぞれの障害種について、感想を含めた特徴を書いてみたいと思います。

身体障害

「障害者とは」で触れたように、身体障害については、法律によってその定義および等級が細かく規定されています。大分類としては、①視覚障害、②聴覚又は平衡機能の障害、③音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害、④肢体不自由、⑤内部障害となっています。障害自体の等級は重い方から1級~14級まで定義されていますが、障害者手帳を交付されるのは、7級までとなっています。このうち、1級と2級は「重度障害」とされ、1人で2人分(2ポイント)のカウントとなります(週30時間以上就労条件の場合)。
車椅子や白杖(はくじょう)の使用など、他の障害種に比べて「見た目でわかりやすい」ため、配慮についても比較的理解しやすいと言えましょう。ただし、⑤内部障害は、心臓(ペースメーカー等)・腎臓(人工透析等)・エイズなどであり、ほかの身体障害と比べて、「見た目でわかりにくい」ですし、その程度によって配慮事項も異なるため、本人とのコミュニケーションがより重要となります。
身体障害者のなかには、高等教育の修了者も少なくなく、そのような人たちは、いわゆる一般枠で採用・雇用されることも珍しくありません。
初めて障害者雇用または障害者雇用の経験が少ないとき、「軽度の身体障害者を採用したい」という声をよく聞きます。しかし、「軽度の身体障害者」の多くはすでにどこかで働いているので、(求職)市場にはほとんどいません。一方、障害程度の軽重にかかわらずスキル・能力の高い人に対する企業の採用ニーズは高いため、転職市場(エージェント)に登録している人も多くいます。ただ、私の経験・実感で言うと、より良い待遇を求めて離転職する人は、さらにより良い待遇を求めて去って行く可能性が比較的高いので、このような採用(エージェント経由)はあまりお勧めしません。むしろ、自社で大事に育成することで、本人に会社への帰属意識を高く持ってもらうほうが、勤続そして貢献に繋がると思います。

知的障害

知的障害は、概ねIQ(70以下)が基準と言われています(*1)。障害の程度(重さ)は4段階に分かれており、重い方から「最重度」「重度」「中度」「軽度」となります。自治体によっては、それぞれ「A1」「A2」「B1」「B2」または「1度」~「4度」またはと呼んでいます。このうち、最重度と重度は「重度障害」と規定され、2人分(2ポイント)カウントとなります(週30時間以上就労条件の場合)。しかしながら、最重度・重度の人が企業で働くことは、実際には相当難しく、私自身、ほとんどお目にかかったことがありません。一方、中度および軽度の人のうち、都道府県障害者職業センターが行う「職業判定」によって、「重度判定」となることがあり、その場合は2人分(2ポイント)カウントとなります。
知的障害者の特徴は、文字通り「知的」な機能不全があることで、一般的に理解力や記憶力・計算能力等が低いと考えられています。また、発達障害、特に自閉症スペクトラム(ASD)(*2)を重複するなど、相互コミュニケーションが難しいとも思われているかもしれません。たしかに、そういう人もいます。しかし、企業就労ができるほどの人たち(主に「軽度」)について言えば、理解力やコミュニケーション力など、いわゆる健常者と遜色ない人も多くいます。
1998年に知的障害者が雇用義務化されたこともあり(*3)、2000年代から2010年代にかけて、知的障害の人向けの業務(清掃や名刺印刷、シュレッダーなど)を「切り出し」て、知的障害者ばかりの、あるいは知的障害者を多く含む会社や組織がたくさん生まれました。実は、私が最初につくった障害者雇用専任組織(会社)も、知的障害者(だけ)を採用・雇用の対象としておりました。当初は、やはり清掃や消耗品の補充など、単純・定型かつ納期に縛られない業務からスタートしました。それでも、理解・習得が遅いこともありましたが(「できない」のではない!)、一旦覚えると忘れないし、仕事ぶりは非常に丁寧という知的障害者一般の特長(「長」所です)も、さまざまな場面で見られるようになりました。また、徐々に業務難易度を上げていくと、やはり習得はゆっくりながら、いろいろなことができるようになり、ポテンシャル(潜在可能性)の大きさを感じるようになりました。そして2年後には、社内の郵便集配(*4)や住民税業務(*5)など、それまで正社員が相当の工数を掛けて担当していた業務を移管されるほどにまでなったのでした。
企業の中には、知的障害者の成長や挑戦にあまり目を向けず、何年も(何十年も!)、単純・定型の「作業」(*6)ばかりをやらせているところがあるようです。しかし、しっかりと育成(*7)すれば、知的障害者の業務領域は驚くほどに拡大します。これを読んでいただいている企業の担当者のみなさん、ぜひ彼らの成長のため挑戦の機会をつくってあげてください!

(*1)必ずしも、IQ70以下=知的障害ではなく、理解力やコミュニケーション力、手先の器用さなどを総合して診断されます。逆に、IQ=70より高くても知的障害と判定されることもあるわけです。
(*2)自閉症は、「発達障害」のいち類型であり、こだわりが強いとか、コミュニケーションがスムーズでないなどの特性が典型とされます。しかし、必ずしも「自閉≒自分の殻に閉じこもっている」わけではなく、むしろ社交的な(過ぎる?)人もいますので、字面に惑わされないようにしましょう。そして、これらの特性は、数値で定義できるものではなく、いわゆる濃淡であるため「スペクトラム」と称されています。ちなみに、ひところ「アスペルガー症候群」が話題になったことがありましたが、2013年に国際的な診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)が改訂されたことによって、この診断名はなくなり、自閉症スペクトラムに包含されるようになりました。
(*3)障害種別の「雇用義務」とは、行政が法定雇用率を算定する際に当該障害種を分母・分子に含めるという意味であり、すべての企業がその障害種の人を採用なければならないということではありません(他の障害種で法定雇用率を満たせばよい)
(*4)その会社では、4フロア・約400人の社員が一人ひとり投函口のあるメールトレイをもっており、その人宛の郵便物を間違いなく投函するというのが仕事でした。だれのメールトレイがどのフロアのどこにあるのか、社内ネットワーク(PC)で確認して、予め仕分けしてから配布します。もちろん、名前や部署名など漢字も読まなければなりません。また、頻繁に人事異動や部署改編があるので、そのたびごとに情報が更新されるなど、難易度の高い業務です。当初は、指導員が手取り足取りに近いかたちで教えていましたし、誤配も少なくなかったのですが、3ヵ月もすると、いちいち検索しなくてもメールトレイの在処の多くを暗記してしまい、配達スピードが格段に向上しました。そして、5ヵ月後には誤配ゼロを達成し、その後数ヵ月誤配ゼロ連続記録をつくったのでした。
(*5)毎年6月頃、社員個々の当該年度の住民税確定のお知らせが、当該社員の居住地役所から会社に届きます。これを部署ごとに仕分けし、また内容物を入れ替え、配布するのと併せて、そのデータベースを作成するという煩雑な手順となります。私の務めていた会社では、いくつかの事業所約1,000人分を処理しなければなりませんでした。従来、この季節になると、人事部員だけでなく経理や総務など、大勢を動員して残業してやる大がかりな仕事でした。それらの業務が一掃されて(正)社員の負荷やストレスが大幅に軽減されただけでなく、その分の人件費換算を考えると、大きなコスト削減ともなったわけです。
(*6)私は、(障害者が行う)「作業」という言葉から、生産性や付加価値が低い、考えなくてもできる仕事ーーというニュアンスを感じていました。それは、一生懸命働いている彼らの仕事の価値を侮っていると思ったのです。どんな仕事であっても、誰かの役に立ち、会社に直接・間接に貢献しているわけで、彼ら自身だけでなく会社全体に、その事実や思いを伝える意味も含めて、「作業」という言葉を禁句にしました。ちなみに、特別支援学校ではやたらに「作業・軽作業」という言葉を使います。それもあって、採用する企業側も、いわゆる「(軽)作業レベル」の仕事が彼らにふさわしいと勘違いする要因の一つにもなっているように思います。特別支援学校には、ぜひ上記の趣旨を以て、改善していただきたいと思います。
(*7)ここでは敢えて一般的な言葉として「育成」と書きましたが、私は「育成」なんておこがましく(私にそんな能力はありません・・・)、あくまで「成長支援」だと考えています。具体的な成長支援策については、別項で詳しく述べたいと思います。

精神障害(含む発達障害=知的障害を伴わない)

精神障害と発達障害の違いって、ご存知ですか?
端的に言えば、発達障害は脳機能(感受性)の特性であり生まれつきのもの、精神障害は後天的に得た精神疾患の後遺症と考えるとよろしいかと思います。発達障害は脳の特性なので、必ずしも病気とは言えず、したがって基本的に「完治」もありません。精神障害は病気に起因しているので、「完治」することもありますが、手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得する人の多くが、長年の後遺症や再発に悩まされています。
いわゆる発達障害は、現在のところ(*1)、「自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)」「注意欠陥多動性障害(AD/HD: Attention Deficit/Hiper-activity Disorder)」「学習障害(LD: Learning Disorder)」の3つのいずれかが診断名となっています(重複の場合もあります)。(*2)
ASDは、「こだわりが強い」とか「空気を読めない」など、典型的な発達障害の特性がありますが、一方で発達障害に対する典型的な誤解を生みがちでもあるので、少し説明したいと思います。
俗に「発達障害」と言いますが(法律用語にさえなっている!)、私はこの呼び方は当事者の特性や症状を正しく捉えていないだけでなく、「発達に障害(機能不全)がある」という誤解を招きやすい、不適当な表現だと思います。別の呼称として、「非定型発達症候群」というのがありますが、こちらのほうがずっと実相を表していると思います。ASDのSは「スペクトラム≒グラデーション」であり、多くの人々(もしかしたら私たち全員)が、なんらかのこだわりや(好き嫌いと言ってもいい?)、他者との関係性づくりがうまくいかないことがあるでしょう。その特性の強さや範囲がスペクトラム≒グラデーションなのであり、その特性の出方が社会生活等に支障をきたすほど、つまり生きづらさがある/困っていることが「障害」のゆえんなのです。(参照:「障害者とは」の項)
なぜ、そんな生きづらさがあるかというと、彼らが「非定型」、つまり現代(日本)社会の中で少数派であるために、多数派である「定型発達者」から「変わってる」とみられているからなのです。ここで重要なことは、単にある集団の中での「多数(majoriy)/少数(minority)」であるに過ぎず、両者の間に優劣や正誤があるわけではないということです。定型発達の人はASDやADHD(非定型発達)の人を「変わってる」と思うかもしれませんが、非定型発達の人にとっては定型発達の人こそ、自分とかなり違った捉え方や行動をする「変わった人」であり、実は「お互いさま」なのです。また、「定型発達=多数派」は、地域や時代によって変わり得るものであり、現代日本で定型または非定型発達と区分されても、ある外国ではそれが逆転することだってありえます(*3)。
ところで、「生きづらさがある/困っているから障害」と先述しました。ということは、こだわりが強めだったり、他者との関係づくりがうまくいかないことがあっても、本人が「(それほど)生きづらさを感じない/困っていない」場合は障害(者)ではないということです。ASDやADHDの(特性のある)人には、学業や仕事に優秀な人が多く見られます。あなたの上司や同僚に、そのような特性・傾向をもった人がいませんか?(私の周囲には大勢いました!)これをみても、ASDやADHDの人たちが劣っている/正しくないというわけではないことがわかります。ただ・・・、障害の有無は「本人が」困っているかどうかであり、周囲の人たちがその特性に翻弄されて(?)困っているという例も、少なくないように思います(苦笑)。

精神障害については、前述のように病気(精神疾患)が由来しています。精神疾患の種類(診断名)はそれこそ何百もありますが、障害者雇用市場では、「鬱(含む気分変調症)」「統合失調症」「双極性障害(以前「躁鬱病」と呼称)」の3疾患で8割ぐらいを占めていると思います。実際、私は100人ほどの精神障害のある人の採用選考に関わりましたが、上記3疾患が9割以上でした。よって、精神障害者の採用や雇用をご検討されるときは、この3つを最低限押さえておけば、精神疾患についての理解は概ねじゅうぶんだと思います(ただし、症状の出方や重さは個人差が大きいので、あくまで個々人の理解に努めることが大事です)。
前述のように、精神疾患はほぼすべて後天的なもので、たとえば鬱(病)は、みなさんの会社(や学校)でも、在職中(在学中)に発症した人をご存知の方も少なくないでしょう。また、統合失調症などは思春期から若年期にかけて発症する人が多いとされています。
これも前述しましたが、精神疾患は病気なので治療で完治する場合もあります。しかし、手帳(精神保健福祉手帳)所有者は、病状が長引いているか、繰り返しているかなど、後遺症に悩んでいる人たちなのです。精神障害のある人の就業や勤続のカギとなるのは、「悪化を(事前に)食い止める」ことです。長年、病気と共存している彼らのなかには、症状が悪化するきっかけや予兆を把握している人も少なくありません。管理者・同僚のみなさんは、そのきっかけや予兆を知り、観察や声かけによって、または休養をとらせるなどして、症状悪化の未然防止に協力することができます。

精神障害・発達障害者は、高学歴・高スキルの人が多い、というのが私の印象です。実際、私は延べ50人ほどの精神障害・発達障害のある人を採用しましたが、約8割は大卒(院卒を含む)でした。病気や障害がなければ、さまざまな分野で正社員や研究者として大活躍していたであろうと思われる人も少なくありません。たしかに、病気や障害によってある程度の能力・スキル低下はあります。しかし、職業リハビリテーション(*4)によって、それらの能力・スキルが回復したり、さらに伸長したり、新たなものを身につけたりすることを、私が採用・雇用したすべての人で体験しました。そして、彼らは自身が成長・チャレンジすることにより、会社に対して大きな貢献をしてくれるに至ったのです。
私は多くの企業・担当者の方に、ぜひ積極的に精神・発達障害のある人を採用・雇用していただきたいと、強くお勧めする次第です。

(*1)精神疾患・メンタルヘルスに関する診断名は、アメリカ精神医学会が定める診断基準、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders。現在はDSM-Ⅴ(ブイではなくファイブ))に依っていますが、DSMは不定期に変更・更新され、ある診断名がなくなったり(アスペルガー症候群など)、新たに加わるものや、診断基準が変わることがあります。したがって、現在3つの診断名で規定されている発達障害も、今後変更される可能性があります。
(*2)ASDを「自閉スペクトラム症」、ADHDを「注意欠如多動症」などと表記される場合がありますが、どちらが正しくどちらが間違っているということもなく、まったく同じ意味です。
(*3)卑近な例でいうと、「ズケズケものを言う」人は、空気が読めないなどとして日本では敬遠されますが、欧米ではむしろ歓迎されることがある、など。
(*4)「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること」(障害者雇用促進法による定義)ですが、私はもっと端的に、「企業等に所属し、仕事をすることによって、心身ともに元気になり、併せて職業能力・スキルが上がっていくこと」と理解しています。

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