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#21 雨下の迷い者たち

 それは、次の日の放課後だった。僕はイズに花火うちあげマシンについて話を聞くため、理科室へ行った。ドアをたたいて入ろうとしたとき、中から話し声が聞こえてきた。ドアを挟むとなかなか聞き取りづらかったが、必死で耳をすませる。
「……雨を降らせ……はい、でも……意味ないんです…………あ、それは、……はい、大丈夫です。でも……」
イズの声だった。とぎれとぎれの声に、僕は記憶をたどる。そういえば、イズは僕たちが『雨を降らせる機械』を頼んだとき、すごくびっくりしていた。同じ依頼をほかの子からも受けていたからだ。テンが、自分たち以外に雨を降らせたいと思う人がいるのか、と疑問に思っていたことを思い出す。
「体育館の件はどうなりましたか」
たいいくかん、の単語が聞こえてぎくりとした。僕たち以外に依頼していた子と会話しているようだ。その子の声はほぼ聞こえない。多分、ドアから結構離れた場所にいるんだ。
「え、それはまずいです……はい、……ですよね」
体育館が、そのまま爆破予告の話をしていることにつながらないことはわかっていたが、それでも、つなげずにはいられなかった。イズのつくった、『花火うちあげマシン』、それと、僕たち以外に雨を降らす依頼をした子、そして爆破予告、体育館、つながらないけど、なんだかつながってしまいそうになる。カラスが飛び立ってなしが落ちるみたいに、なんだか、関係があるように思えt
「依頼ですか?」
後ろからいきなり声をかけられた。なんか、デジャブだ。ふりかえると、大量に機械を抱えている男子生徒が僕の顔をのぞきこんでいた。初めてものづくり部室に入った時にも、機械を抱えていた、ものづくり部員だ、そう気が付いた。
 
「ははは、いやあ、メイ先輩は言いすぎですよ」
僕の、『花火うちあげマシン』について知っていることを話すと、その男の子、一年の山川くんは大笑いした。僕はあれからとなりの理科準備室に案内され、てきとうにおいてあったいすにてきとうに座る。山川レンくんは、持っていた機械を片付けながら、僕の話を聞いてくれた。となりの部屋にいるというのに、理科室のイズたちの声は、ドアごしに聞いていた時よりも聞こえなくなった。
「イズはすごい発明家ですけどね。本人も、『花火うちあげマシン』って名前は気に入ってないんですよ。だって、実際、花火を夜空に打ち上げるマシンじゃないですから」
そうなの? と驚いた僕の顔を見て、山川くんはまた笑いだした。よく笑う好青年という感じだ。夏のなごりのように少しだけ小麦色の肌が、冬の白い景色に映えている。
「手持ち花火あるじゃないですか。あれを自分たちの背たけくらいの高さで花火みたいにうちあがった感じにすることができるのが、あのマシンです。手持ち花火についている火薬とその機能を応用しているっていう感じなんで、イズが一から作ったっていうわけでもないし。
 一回、うまくいかずに火花が四方八方にとびちったことがあって、多分メイ先輩はそのことを爆発したって言っていたと思うんですけど、当然体育館爆発させることはできませんからね」
体育館爆発の話はしないつもりで来ていたが(スイがなるべく人に言ってほしくないと言っていたし)、どうやらこの子も爆破予告については知っているらしい。
「そうなんだ。じゃあ、『花火うちあげマシン』と爆破予告は関係ないと思っている?」
「僕はそうだと思いますよ」
またにこやかに笑う好青年。僕もにこやかに返して、そのまま準備室を出ていった。
「ありがとう。助かったよ」
 
「ユウくんのだめなところは人をすぐ信じるところだよね。あと、関係ないことも関係あるように考えちゃうところ。あ、それと、できない、やりたくないことでもうなずいちゃうところも」
僕の二日間の結果報告をしたとたん、テンにものすごいダメ出しをくらった。うう、頼りない男と言われたみたいだ。傷つく。
「その山川くんが犯人かもっていう可能性は考えなかったの? うそついているかもしれないんだよ」
「そんな風には見えなかったぞ。好青年って感じで」
「意外な人物が犯人だったなんて、映画ならよくある話じゃん」
こういう犯人捜しみたいなやつは、僕には向いていないようだ。そんな可能性、考えもしなかった。
テンはそう言いながら、おもむろにカバンからノートを取り出した。みんな帰ってしまった僕の教室で、ノートが夕日のオレンジに照らされる。
「怪しそうな人の行動をまとめたの。イズは最近、なぜか体育館に行くことが多い。運動なんて大嫌いなイズくんが、だよ。何をしているのか聞いてみたら、ライトを調べているんだって。体育館のステージ上の照明。あれを調べているんだって。依頼だって言っていたけど、なにかおかしい気がする」
ノートの中の出雲テルの名前の横には、星マークがついていた。
「あたしはとりあえずイズを見張ることにする。何かあったら、また伝えに行くね」

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