ディープサウス

日本のディープサウス(相当な山奥)に暮らす、米国南部産ミュージック好きのファーマーです。

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最近の記事

Bobby Charles - Bobby Charles(1972)

蕎麦打ちとか、手捻りの蕎麦ちょこ作りとか、Eddie HintonとかBobby Charlesとか、どうしておじさんの趣味は画一的なんだろう……若いころは不思議に思っていた。俺は絶対にあんなベタなおっさんにだけはならない!と、巷の無個性なおじさんたちを憐んですらいたかもしれない。 それがどうだ。どこに出しても恥ずかしくない立派なおじさんになった今、手捻りで無骨な蕎麦ちょこを作りたくて仕方がない。というか、先日実際に作ってみた。器の出来はともあれ、とても楽しかったことを告白

    • Chris Bell - I am the Cosmos

      Big Starの首謀者であり創設者であるChris Bellが残した唯一のシングル"I Am the Cosmos / You and Your Sister”が、Chris StameyのCar Recordsよりリリースされたのは1978年のこと。ただ実際にレコーディングされたのは1974年のことらしい。 ちょうど半世紀前につくられたこの作品は、2024年作だと言われても信じてしまいそうなほどタイムレスな輝きを放っている。同い年にリリースされた僕とは、どこでどう違って

      • Liam Gallagher & John Squire (2024)

        1980年代〜1990年代初頭のUKロックがすっぽりと抜け落ちているクソ田舎の農夫が、どうこう批評すべきアルバムではないのかもしれない。しかし、そんなアラフィフですら虜にしてしまうのがこの作品の不思議なところ。 どれくらいUKモノに無知であるかというと、このアルバムをストリーミングで耳にして気になったので、John Squireの名前をググってしまったほど。そんなことも知らずに、よくぞ今まで自称音楽好きとして生きてこられたな!という同年輩の声が聞こえてきそうだ。 その点に

        • Norah Jones - Visions(2024)

          おいしいワインは感動的においしいが、おいしくないワインが壊滅的においしくないのはなぜなんだろう?  一方、同じ醸造酒である日本酒はだいたいおいしい。地球上にあるすべての日本酒を試したわけではないが、北海道、東北、北陸、関東、中部、四国、九州まで、各地の代表的な銘酒を味わった経験上、好みかどうかはさておき、おいしくない日本酒を飲んだ記憶がほとんどない。それは僕がどうしようもなく日本人である証かもしれないが。 それは日本酒造りの工程が複雑なので不味くなりようがないのかも知れな

        Bobby Charles - Bobby Charles(1972)

          The Lemon Twigs - A Dream Is All We Know (2024)

          農夫に休日というものはない。作業のない日が休みというだけのこと。今は正午過ぎ。いただきもののワインを飲みながら、こんな駄文を書いている農夫は今日も休むつもりなのだろう。 BGMは、The Lemon Twigsの新譜『A Dream Is All We Know』。「複雑なものをシンプルに」というクリエイティブなデザインのお手本のような作品だ。 国内外の関連記事を漁っていたところ、本作のコンセプトが「マージー・ビーチ」というものであることを知る。なるほど言い得て妙だ。その

          The Lemon Twigs - A Dream Is All We Know (2024)

          Nina Simone - Little Girl Blue (2021 STEREO REMASTER)

          「マトがどうとか気持ち悪い。アナログ盤ならどれでも同じでしょ?」などと乱暴なことを口にする人の言葉より、「ゴールドパーロフォンを聴いたことがないやつは、ビートルズを語る資格がない」と宣う人物の言葉のほうに僕は耳を傾ける用意がある。 などと偉そうなことを書いているが、若気の至りとはいえ恥ずかしながら前者はかつての僕だ。いや、若気の至りなどではなく、己の怠惰のせいだ。 そもそもなぜ、オリジナル盤にこだわる人がいるのか。それは音がいいから。マスターテープもレコードをプレスするス

          Nina Simone - Little Girl Blue (2021 STEREO REMASTER)

          Aretha Franklin - Amazing Grace (1972)

          開け放った窓から流れ込む冷気が、幾分穏やかになってきた。とはいえ、やはり日没後の一杯はまだまだ焼酎のお湯わりがいい。最近のお気に入りは粕取り焼酎。ソーダ割りも抜群だが、酒粕の香りが湯気とともに鼻腔をくすぐってくれるお湯割りが今の気分だ。 身も心も温めるべくチョイスしたのは、すべてのセリフを覚えるくらいに見まくった不朽の名作『ブルース・ブラザーズ』。やはりいい映画は何度鑑賞してもいい。凝った脚本とか、カット割などに頼らずとも、絵になる役者さえいればそれだけでいい。そんな暴論を

          Aretha Franklin - Amazing Grace (1972)

          Sheer Mag - Playing Favorites (2024)

          その昔、大型レコードショップには試聴機というものがあって(今もあるのかもしれない)、気になったものを片っ端からチェックしていた。とはいえ、そこに何十分も齧り付いていたわけではない。どういうわけか、ギターのワンストローク、ドラマーのワンショット、ヴォーカルが歌うワンフレーズを聴けば、それがどういう音楽であるかがわかった(つもり)ので、ひとつの試聴機(だいたい5枚くらいのCDが入っている)につき1分もあれば十分だった。 極論すれば、10秒聴いてピンとこないものは3分粘っても同じ

          Sheer Mag - Playing Favorites (2024)

          The Long Ryders - Psychedelic Country Soul (2019)

          雨ふりしきる肌寒い春の午後、人里離れた日本のディープサウスに暮らす農夫は、いただきもののワインをちびちびと、いや、途中からごくごくとやりながら、このアルバムを聴いている。半径50km以内では、そんな物好きはこのしがない農夫くらいかもしれない。そもそも2019年にThe Long Rydersの新作が出る!と狂気した酔狂がこの日本に何人いたというのだろう? このレコードの何がいいって、やっぱこのタイトル--"Psychedelic Country Soul"に尽きる。このサウ

          The Long Ryders - Psychedelic Country Soul (2019)

          Best Albums of 2023

          生成AIが今後どんな音楽をクリエイトしてくれるのか、単純に楽しみでしかない。ただし、AIがつくった作品をアナログ7 inchなどのフィジカルで購入するだろうかということに関しては自信がない……。ということに思い至り愕然としている。 たとえば、今話題の若手醸造家による¥8,000ほどのワイン(そんなもの気軽に飲めないが)よりも、¥1,000ほどの無名だがとびきり美味しいチリワイン(そんなものがあるとすればだが)を、正しく評価できる人間でありたいと思ってはいる。 そうは思うも

          『TAR/ター』をみた

          『TAR/ター』を鑑賞。アマプラで。できれば劇場で観るべき作品だった。今さらである。 冒頭からなんかうっすら怖い。どこかの民族的な調べが流れる中、暗い画面が続き、現代音楽ばっかり聴かされるのではないか、とか色々不安にさせられた後に、ベルリン・フィルの女性首席指揮者に就任し、キャリアの絶頂期にあるリディア・ターが登場するのだが、その輝きの裏に静かに忍び寄る影の存在を我々は感知せざるを得ない……。巧妙な明暗のバランスが、中盤以降どんどんと崩れていき、観客の鼓動も速くなっていく-

          『TAR/ター』をみた

          Benny Sings - Young Hearts (2023)

          "おじさん"の音楽的感性が死んだわけではない--そんな"おじさん"擁護記事に対し、僕のようなクソ田舎に暮らす初老の農夫は、どう反応すべきなのかがわからずに困っている。まさにそれ! よくぞ言ってくれた!と快哉を叫ぶべきなのか。あるいは、そんなこと臆面もなく主張するから老害って言われるんだよ、とか同輩のくせに斜に構えるべきなのか……。 「経験があるのだから仕方がないのだよ」というロジックは、おじさんには気持ちのいいものであり、若者に対する巧妙なマウンティングでもある。手練れのや

          Benny Sings - Young Hearts (2023)

          Daryl Hall & John Oates - Abandoned Luncheonette(1973)

          半世紀にわたる時の試練を耐え、今もなおその輝きを増しているDaryl Hall & John Oatesの初期の傑作『Abandoned Luncheonette』と、クソ田舎の片隅に半世紀ほど前に生まれ落ち、今や朽ち果てつつあるしがない農夫とは、どこでどうちがってしまったのか。いや、そうではない。生まれ落ちた瞬間から、この作品は特別だったのだ。 なにしろプロデュースはArif Mardinである。しかも演奏陣は、Richard Tee、Bernard Purdie、Hug

          Daryl Hall & John Oates - Abandoned Luncheonette(1973)

          The Rolling Stones - Exile on Main St.(1972)

          クタクタのレザージャケット、うっすらと緑青の浮いたZIPPO、色落ちしたデニム、乳白色に日焼けしたヴィンテージウォッチの文字盤--プロダクトに刻まれた年月に価値を見出すこうした態度は、人のどのような本能に由来するものなのだろうか。 自分が生まれる前の古いレコード(とはいえ、うちにあるのは古くても1950年代のものだが)に耳を傾けるという行為もまた、プロダクトがつくられた時代、あるいはレコードが辿った歴史に思いを馳せるという点で、過去との繋がりを意識させる体験である。 そも

          The Rolling Stones - Exile on Main St.(1972)

          Peter Gallway - Ohio Knox (1971)

          訃報を目にするたびに、まだまだ若いのにと嘆くと同時に、己の残り時間について考えてみたりもする。つい最近も、音楽評論家の小尾隆氏が亡くなったことを知ったばかり。『Songs』(1997)をはじめとした氏のテキストは20代前半の田舎者にはバイブル同然だった。 米国ロックやソウルの素晴らしさについて、ロックおじさんのように独善的な主張を撒き散らすのではなく、あくまで客観的な事実を丁寧に積み重ねながら、それらが生まれた風景を(行間に情熱を滲ませながら)、丁寧にかつ簡潔に描こうとした

          Peter Gallway - Ohio Knox (1971)

          Margo Guryan - Take a Picture

          日本のディープサウスの里山--要はクソ田舎だ--では、僕が敬愛してやまないソングライターの囁くような歌声が、乾いた秋晴れの空に天たかく響き渡っている。レコード針を交換したばかりのせいか、安物だけど中域にハリがあって、スネアの音とか、声の芯の部分が盛り上がっているように聞こえてとても気持ちがいい。 ここ数日スピンし続けているのは、Margo Guryanの『Take a Picture』(1968)。芸術家の一生は短いが、その作品は永遠である--このフレーズが幸運にも(不幸に

          Margo Guryan - Take a Picture