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暮らし

子どもの頃、学校から帰宅すると、よくビートルズが流れていた。

それは母の機嫌をはかるバロメーターみたいなところがあって、レコードが回っている日はたいてい、クッキーかパウンドケーキが焼いてあった。昭和の主婦はどこのうちもよく焼き菓子を作っていた。

昨年、仕事を辞め、昼間も家にいる生活をしている。私は15歳の娘と実家暮らし。

記憶の中の母は30代半ばで、あれから40年も経っているが、階下からは相変わらずビートルズやカーペンターズが流れてくる。あぁ、まだ聴いていたんだ、と。

働いていたころは、両親がどんな生活をしているのかなんて気にもしなかった。

しかし、家で過ごすようになって1カ月もしたら、時計を見れば、母がいま何をしているか、かなりの高確度で当てられるようになった。

とにかく規則正しいのだ。

5時に起きて、ゴミを出し、孫娘の登校を見送ったら、そのまま庭に回って草花に水をやる。そのあと少しソファで横になって、9時少し前から音楽を聴きながら、家事をする。

午後はサブスクで海外のミステリーを見て、4時になったら夫婦で海までお散歩。食事の支度を終えたらミステリーの続きを見て、7時に夕食。

孫娘が帰ってきたら、英語の宿題に付き合って(母は通訳だった)、9時にお風呂に入って、10時になると本を持って自室に消えていく。

週に1度か2度はミステリーを見るかわりに、孫娘の好きなスイートポテトかクッキーを焼いている。火曜日と金曜日は習い事のダンスの日だ。

25年後は、私もこんな暮らしをしているのだろうか。母と違って私の老後はきっとひとりだろうけど、人生に退屈していないといいな。


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