夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】9
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
数日後。
雄平は自室のベッドで眠りこけていた。
ようやく起き出して一階へ行き、顔を洗った。
母のおはようの声が耳に優しい。
『母さん。俺、この前に由里たちとバーで歌を聴いて以来、記憶がないというか、思い出せないんだよ』
『バーで倒れてから病院に運ばれて、三日間の点滴を受けて昨日に帰宅したのよ。私と話したことも覚えてないの?』
雄平は歯を磨きながら首を縦に振った。
その後、母に心配はいらないよとだけ伝えて、玄関の扉を開けた。
いつものようにギターを抱えて自転車にまたがり、バイト先のコンビニへと向かう。
その頃、由里は柴田に悩みを打ち明けていた。
いつもの公園。今は雄平の姿はなく、誰一人として居ない。
『由里ちゃん、いったいどうしたんだね?』
『彼のことが心配なの』
柴田はスーツの上着の裏ポケットから葉巻を取り出した。
由里の顔はド真剣だ。
柴田は困り果てた。
必ず決まっていいほど葉巻に火を点ける役割を誰かに委ねていた。
切実に悩みを話そうとする彼女にチャッカマンを渡すことなど、辛すぎてとても出来なかった。
しかたなく運よく通りすがりの子供にチャッカマンを渡して、葉巻に火を点火してもらった。
『で、雄平くんの何が心配なのかな?』
『彼、本気でプロになれると信じているの・・・』
『意気込みは夢を叶えるうえで、もっとも大切な要素だから評価してあげるべきだ』
『でも、いまだに彼はプロどころか、アマとしても認めてもらえないのよ』
柴田は数歩、足を進めて由里に言った。
『彼には一つ大きな欠点がある』
『大きな欠点?』
『そうだ』
由里は首を掲げ、柴田を見つめた。
『何か、教えてくれませんか?』
『雄平くんにはけして言わないか?』
『はい』
『じゃ、特別に教えよう。実はな・・・』
空が赤褐色に染まる。
夕焼けが街を照らす。
行き交う人々が公園前の交差点を活気づける。
そのなかに雄平の姿があった。
やがて柴田と由里を見つけ、手をあげて大きく左右に振った。
自転車を片隅に停めて、ギターを片手に砂場の横までやってきた。
『二人とも久しぶり』
『雄平くん、ほんと心配したんだから。もう、大丈夫なの?』
『由里、ありがとう。ごめんな、もう大丈夫さ。点滴の最中も傍に居てくれたみたいだな』
『かまわないのよ。それよりも今日も歌うの?』
『勿論』
雄平は柴田に深く一礼をした。
『柴田さん、この前のライブに招待してくださったこと感謝します。本当に勉強になりましたよ。ほんと出場者の方々、音楽を舐めきってます俺はああはならないっすよ』
柴田はにんまりと笑った。
『何、笑っ照るんすか?』
『雄平くんも由里ちゃんも最後の出場者の林の歌を聴いてないだろ』
『聴かなくても分かりますよ』
雄平は溜め息を深くついた。
由里は思わず、雄平に話しかけようとしたが、柴田に『由里ちゃん、由里ちゃん』と遮られた。
そうだった!
雄平の欠点を、ミュージシャンになれない致命的な欠点を、林の歌を聴くことで克服できるのだった。
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