夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】16

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

翌日の朝。
『起きなさい、ボケ』
いつものように目覚まし時計が起床セット時刻を告げる。


なかなか起きない雄平には程よい響きだ。
『さっさと起きろや!こら』


今日は昨日の思いがけない出来事もあり、疲れは極端に激しかった。


数分が経過した。
『起きろ言うとるやないかい、おどりゃ~』
目覚まし時計とは思えぬ迫力を感じるのはやはり、音声に吹き込まれた生の人間のものだからだろう。
もしかしたら本物のやくざを起用したかもしれない。

カーテンの隙間から白い粉がちらりほらりと飛来している。


まだ雪は降り続けているようだ。
ようやく目が覚めた雄平は早速、柴田に電話を入れた。


『柴田さん、次のライブには俺も出るのですよね?』
『もちろん、出てもらう』
『同じバーですか?』
『いや、違う』
何か柴田は急いでいるようで、改めて連絡すると伝えて携帯電話の通話を切った。

林からメールが届く。
一度、練習して息を合わせておこうというものだった。


雄平は月曜日が空いていることを返信して、素早く着替えを済ませてアルバイト先へと急いだ。


今日はギターを持たずに出掛けていく。
林から渡されていた曲たちのコード進行が記載されている楽譜で、バイトが終わって帰宅次第、練習してマスターする気でいた。

アルバイト先のコンビニへ着く。
制服に着替えて店内のお客様に元気よく声を掛ける。 


『いらっしゃいませ』
そこに小林店長がやってきた。
『川端、お前、大丈夫か?』


『店長、何がですか?』
『何がじゃないだろ。先日、お前のお母さんから連絡があって、三日間ほど入院したそうじゃないか。いきなり倒れたって聞いたぞ』


『すみません、店長。心配かけまして。しばらくバイトも休ませてもらったので、もう大丈夫です』
『本当か?』
『はい』


そう言って雄平は普段通りに作業を始めた。
小林は少し不安さを募らせながら、バックカウンターに入っていった。

その頃、由里は柴田と会っていた。
いつもは雄平と利用している喫茶店で二人は話しをしていた。


『彼は本当にギターの才能があるのですか?』
『ギターはプロで通用する才能がある。練習を重ねるだけだ』
『歌は駄目ですか?』
『悪くはないが感情移入しすぎている。聴き手が愛想を尽かすだろう。共感と感動を与えないとならない』

由里は尋ねた。
『林さんはすんなり、雄平くんをパートナーにすることを認めているのですか?』


『林は元々はギタリストだった。自分の歌に必要なギタリストを本人が一番、感じ取っている』
由里は注文したバナナジュースを口にした。
『人にはそれぞれ、才能があり、何かに属する。正しい努力の前に必要なのが、自分自身にとって適した道だ』

グラスをテーブルに置いて由里は言葉を返した。
『それが林さんの場合、ギターではなく歌であり、雄平くんの場合、歌ではなくギターだったのですね』
『そうだ』


柴田もまた注文したジントニックを口にした。
今日は珍しく葉巻を吸っていない。
由里は何故、葉巻を吸わないのか、内心聞きたくて聞きたくてうずうずしていたが聞けなかった。


柴田もまたけして聞かれたくはなかった。
たはだ単純に不覚にも持ち忘れただけだった。

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