殴屠

 朝起きると思い出すはず、元カノが結婚した記憶を……。それはたぶん午前三時頃の記憶。めっちゃ笑顔。空気が焦げ付くような笑顔じゃん。うぉえ。誰か元カノの写真で泣きながら思考る小説書いてくれよ、と八枚切りのパンにピーナッツバターとチーズを塗ったくった、なんちゃって・エルヴィス・プレスリートーストをもぐもぐす。

「小説の改行とWordやExcelの改行は違う」とあたしの中のモルカーが囁く。基本的に、魔術的ちちんぷいぷいに飢えているが、「ヴォウェ」吐き気に中断される。誰に断ったの?

 ここは川越、みんなの大好きなまち。(きゅるん)

 お昼は元祖川崎ニュータンタンメンを食べるはずだった。でも、先日放映されていたシークレットな県民ショウのせいで大行列。あいつら、俺も含めて埼玉県民の癖に。仕方泣く泣く、左折して立川マシマシに。「麺の量はどうしますか?」「どのくらいありましたっけ?」「中が300gです」「じゃあそれで」着丼。多すぎィ! いけると思ったけど無理だった。昔は食べられたのによう。俺の記憶は高校生に戻る、あれは高校生のころだったか……(覚えたての意識の流れ(笑)が延々と続く)……その時おれはドトールに対して思ったのだ、「このヤンキー女にコーヒー注ぐ技術だけ教えて、他には何も教えてやらなかったのか」と。

 多すぎた小麦と脂と肉が胃の中でむせび泣くはずだ……。それを君は知っている……。たぽたぽと揺れる水とスープがおれにそうやって理解を促してくる。おれは行きつけのカフェィ↑(語尾を上げる)に赴き、おもむろに今日のブレンドを注文したのち、トイレットで嘔吐す。コツは受胎告知みたいに膝をちゃんとつくこと、牛の出産みたいに声を出すこと。便所に膝をつけることを怖がるな。お前の膝はそこまで軟弱ではない。黙した嘔吐のどこが嘔吐か。気合入れて吐け。今お前はローマ人だ。ひとしきり吐いた後は、スッキリしてコーヒーを頼めばいい。この店は行きつけだ。何を頼んでもうまい。ホットケーキはさすがにやめとけ。人生にいくらかのストレスが必要だと、こっちの気も知らない奴がかつて言った。それと同じように、人生には少しの嘔吐感が必要だ。おれは今少しだけそう思っている。だって本当に本当だもん。

 家に帰ると母親がお肉たっぷりの弁当をおれに笑顔で差し出してくる。「いつ働くの?」とも言ってくる。それは「いつ屠殺するの?」に空耳にも聞こえる。おれは豚じゃない。豚ではない。そうあれは忘れもしない五年前の第二新卒の時……(トイレの流れ)……殴ってやる、殴ってやる。次こそは殴る。おれを見下したやつ。おれに正論を言ってくれるかけがえのない友達。ありがとう。吐いた時に便器に着地したあと口内に戻ってくる唾液。てめーおれの口からバンジージャンプしてんじゃねえよ。衛生観念、知ってますか?

 

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