「がんばれよ」という言葉をもらった日のことを思い出す。
午前10時前リビングにやってくる。
コーヒーメーカーのスタートを押すと自分の中でも仕事への起動ボタンを押している感じがする。
世の中には仕事や遊びの切り替えが瞬時にできる人もいるだろうけれど自分はそうではなかったらしい。
仕事・家事・遊び・・・一日の中のいろんなモードの間にグラデーションがあってゆっくりと変わっていく。
だからモードを切り替えていくきっかけが常に必要。
シロカの全自動コーヒーメーカーで3杯分のコーヒーを作ってもらうためのスタートボタンを押すのが私の仕事モードへ切り替えていくきっかけなのだ。
ガガガガガという豆を砕くウルサい音も私が少しづつ仕事モードに入っていくのを感じさせる。
だけどまだまだ不十分。まだ私は仕事をしたくないと言っている。
だからシロカが頑張ってくれている間に自分自身を仕事モードに移り替えていくグラデーションを意識的に作っていく。
顔を洗い、パジャマにしているシャツと短パンを脱いで自分の好きな服に着替える。
しばらくするとリビングからピーピーと音がする。
珈琲ができたらしい。
着替え終わってリビングに戻ってきて陶器のコップに珈琲を入れる。自分の中でそろそろ仕事をしたいなって気持ちへと移り変わっていく。
廊下を渡り仕事部屋に入る。
椅子に座りPCのスイッチを入れる。
最後に普段使い用にしている眼鏡を仕事用のものに変える。
視界がぼやけてもう一度クリアになる。
WindowsHelloが起動しディスプレイが私を呼びかけてくる。
「おはようございます、田口さん」
顔認証でロックが解除されBing Wallpaperが日替わり壁紙を映す。
仕事で使うCLIPSTUDIOのアプリをクリックし立ち上がるのを待っている間に陶器のコップに入ったコーヒーを一口飲む。
陶芸家の叔父さんに作ってもらったコップ。
コップと一緒に言葉をもらった。それを最初の一口のときに毎回思い出す。
「 人と違う道を選ぶと歩んでいく苦労とは違う苦労も待っている。
けどがんばれよ 」
10時。さあ仕事だ。
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