見出し画像

『第一次にじさんじARK戦争』考察

 3月23日の夜、一つの戦いに終止符が打たれた。といっても現実の出来事ではなく、あくまでゲームサーバー内の一コマである。
 この日開催されたのは、にじさんじARKサーバーでのPvPイベント、『にじさんじARK戦争』とも呼ぶべきイベントである。サーバー内でARKを遊んでいるライバーが2つの同盟に分かれ行われたこの戦争、ルールとしては以下のようになっていた。

①マップ内で指定された地域の中に両チームが前線拠点を建てる
②拠点か地域内のどこかにベッド(リスポーン用アイテム)を5つ設置
③戦闘に使用する恐竜・武器・装備・その他アイテムは各々で持ち込む
④22時に戦闘開始の合図を行い、23時を終了時刻とする
⑤相手の拠点か地域内にあるベッドをすべて破壊すれば勝利確定
⑥23時の時点で破壊したベッドの数が相手よりも多ければ勝利
⑦破壊したベッドの数が同数ならサドンデスマッチを行い決着させる

 また、戦争に先立って提示され承認されていた制限事項は以下の通りだった。

①ギガノトサウルス(攻撃ダメージが強力な恐竜)は各チーム1匹まで
②その他の恐竜については数の制限なく持ち込んで良い
③武器・装備の品質や水準についても制限なし

 この戦争でゲーム内資源をかけて争ったのは、夜見れなの率いる同盟『ヨルミナティ』と、加賀美ハヤトが代表者を務めるトライブ『アルファスレイヤーズ・キングダム(以下ASKと記す)』である。当初はヨルミナティが優勢と見られていた戦争だったが、開戦直前には前評が覆り、いざ蓋を開けてみれば際どいながらもASKが勝利を獲得する結果となった。この裏には様々な交渉や思惑が絡んでいることもあってか、視聴者側は賛否両論の様相を呈している。
 そういうわけで、今回は戦争前の動きから両チームを分析し、戦争の勝者がいかにして決まっていったのかを考察していく。第一次戦争後のにじさんじARKの展開にもかかわる話なので、興味のある方はご一読いただけると幸いである。

宣戦布告前の動向:戦争はすでに始まっていた

 そもそも今回の戦争は、ARKをプレイしていたライバーの一人がASKのいたずらに巻き込まれたことに端を発したものである。

 当時、視聴者や一部ライバーから『四皇』と称されていた廃人プレイヤー4人が一堂に会し、今後のサーバー内での活動について話し合っていた。しかし、その最中にASKのメンバー達がシェリン・バーガンディを連れ去り、自勢力の拠点に作られた牢屋へ彼を監禁するという事件が発生する。
 シェリンは夜見の管理するトライブ(アイテムや恐竜を共有できるクラン)のメンバーである。しかも四皇会議においては、悠々自適な彼に手を出さないという取り決めまで行われていた。そんなタイミングでの拉致監禁となったことで、ASKは夜見から敵視されることとなってしまう。

 この時点では、夜見とそのトライブがASKを上回る戦力となっていた。夜見は途中から参加し始めたライバー達をトライブに引き入れて面倒を見ており、また拠点の整備も手際良く進めていたことから、頭数において他者を追随させない存在であった。
 一方、ASKはメンバーの忙しさや拠点づくりへの興味の薄さから、喧嘩を売っても返り討ちになると見られる状態となっていた。拠点の崖下に陣取っていたイブラヒムとの水供給を巡る確執もあり、十分な物資や戦力を確保できるかは疑問視される部分があった。
 それにもかかわらず、ASK側は闘争の意志を明確にしていた。詰問する夜見に対し、騙して牢屋へ監禁するという蛮行を働き、彼女に開戦を決意させる。とはいえ両者ともに戦いに長けた戦力自体がなく、改めて宣戦布告を行うということで同意がなされることとなった。

 この直後から、ASKは急速な軍備拡大と外部交渉に乗り出すこととなる。まずは既に高い技術を獲得していた渋谷ハジメを訪ね、戦争に必要な物資の調達に算段をつけた。続いて、開戦焚き付けの材料にされたことで猜疑心を膨らませていたイブラヒムを訪問。問答と決闘を行った上でわだかまりを解消し、戦争への合意と正式な同盟を締結させた。この2つの行動は、ASKに勝利をもたらす間接的な要因となっている。
 一方、ASK自身の戦力強化を図るために採掘し始めたのが大量の金属鉱石である。ゲーム内の高耐久力装備や建築物、一部のアイテムは、作成に多くの鉄を必要とする。物資の対価として要求された大量の鉄を調達するため、ASKのメンバーであるライバー達は繰り返し採掘遠征を実施していた。この過程で発見し捕獲した恐竜などもあり、結果として保有戦力の増強に繋がった。

 対する夜見側も行動を始めていたが、トライブメンバーのスケジュールや技術格差などの影響もあり、実質ワンマンの状態となっていた。人数の差を長時間のプレイで埋める形となっていたことや、トライブ内や新参プレイヤーのケアに忙殺されて外部交渉にかかれない状況は、宣戦布告後にまで尾を引くこととなる。
 ただし、拠点の建築についてはASKと比べ力の入ったものとなっており、拠点の攻略を前提とする戦争になっていた場合は防御面で優位に立てる可能性が高かった。また、保有する恐竜についても戦闘面で有用なものを中心に集めていたため、この時点ではまだ優勢を保っていたと言える。

宣戦布告後の動向:人の城を築く者達

 宣戦布告を直前に控え、トライブリーダーの夜見と中核メンバーの天宮こころ、ネタ寄りの遊びを楽しんでいた鷹宮リオンや椎名唯華らにより、同盟『ヨルミナティ』が立ち上がった。後に戦争においても中心人物となっていくライバー達である。
 同盟旗を掲げて開戦交渉に臨んだヨルミナティだったが、ここで再びASKによるいたずらを受けることとなった。PCの不調でシャットダウンしてしまった天宮を、交渉のどさくさに紛れて監禁されてしまったのである。再起動し復帰した天宮の困惑したVCを受け、停滞していた話し合いは一気に開戦へと傾いた。後日詳細を話し合うとした上で、ヨルミナティはASKに宣戦布告を行うこととなった。

 しかしながら、この時点でヨルミナティ側は敵陣営の人数や戦力を十分に把握していなかった。ヨルミナティ自体、実働状態にあるライバーは一部に限られていたのだが、それでもASKの4人との戦争であれば同等以上の条件である。また、当日の頭数が揃えば恐竜を貸し与える形で参戦させることも可能であったことから、やや楽観の姿勢が伺える状況であった。
 実際には、イブラヒムの率いるコーヴァス帝国のメンバーが直接戦力となる見込みがあった他、物資面ではハジメの協力が得られることから、既にASKが戦力面で追い越しつつあった。また、後にベルモンド・バンデラスという頼もしいメンバーが加わり、後発ながら成長性の高かったエクス・アルビオやアルス・アルマルが手を貸したことで、開戦直前の時点ではASKが完全な優勢となっている。
 一方で、恐竜の調達についてはブリーディングが可能な高レベル帯をいかに確保していくかという点や、有効な恐竜の種類についての知識不足の点から、勝ち目を見出すには至っていなかった。叶やハジメの保有状況から見様見真似で揃えようとしている時期もあり、そのまま突き進めば惨敗を喫していた可能性すらあった。

ここから先は

3,450字
この記事のみ ¥ 100

記事を読んでご興味を持たれた方は、サポートいただけると幸いです。deagletworksの執筆・調査活動の資金に充てさせていただきます。