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2020年のにじさんじは、アーティスト・パフォーマー路線を目指しているのか

新人達がやってきた

 4月2日、にじさんじに新しく加わるライバーの告知が行われた。驚くべきことに三人とも男性のライバーである。女性ライバー多めの構成で始まり、以降もデビュー比率として女性(あるいは女性と思われる声質)のライバーが多かったのを鑑みると、今回の新人登用は思い切った取り組みであることが伺える。

 ユニット名を『VΔLZ』とした彼らのメンバー構成と、一リスナーとしての所感は以下のとおりである。

長尾景(ながお・けい)

 祓魔業(ふつまぎょう)を営む青年で、お金が出るならどんな仕事も引き受ける。剣術のほか武術、呪いの知識などがあるということで、初配信の自己紹介では退魔のほか、解呪やお祓いといったこともやっていると語っている。
 口調はやや乱暴な印象があるが饒舌。脱線気味に延々としゃべり続ける様はまさしく立て板に水といった調子。敬語を使った方が良いと諭されていると言い、努力はしているがすぐ素の話し方に戻る。
 ツィッターアカウントのヘッダー画像や配信画面のサムネイルなどは、独特なセンスを感じさせる。
 初配信企画と題して発表された楽曲では歌詞の発表を担当。担当箇所での言葉選びや韻の踏み方は、素直で型を大事にしている印象を受けた。また、サビの歌詞ではキャラクター性にも合致するような、厨二病めいた雰囲気を表現している。

甲斐田晴(かいだ・はる)

 出身地では著名な『魔』の研究者で、屋敷に籠りがちで主に彼らの生態を調べている。外面的にも内面的にも、温和な優男らしさが前に立ったキャラクターである。
 穏やかな口調を基本としながらもツッコミのキレは鋭く、コントチックな流れにも対応できる柔軟性がある。初配信では芸人のコントをパロディした一席で自分の特徴を茶化しながら周知するなど、エンターテイメントとしての掴みを意識した内容でリスナーを引き込んだ。同期メンバーと比較して、攻守両面のバランスが取れた人物であるという印象が強い。
 ツィッターアカウントやサムネイルからはおしゃれなセンスを漂わせている。ただ、配信画面で背景と文字色が被るといった状況もあることから、技術的なあれこれを熟知しているというよりは、直感的なものが働いているようである。
 初配信企画では完成した楽曲を披露。ここでも同期から振られたネタ音源ファイルを淡々と捌くなど、見事な芸人ムーブを発揮していた。

弦月藤士郎(げんづきとうじろう)

 出身地では『神』の管理や連絡役を担う官吏として働いている青年で、同期三人の中で最年少の22歳。ゆったりとした雰囲気を漂わせながらも抜け目のない仕事ぶりで評価されているという。もっとも、彼自身は初配信で
「自分で『周りからの評価が高い』って言うの変でしょ」
と困惑していた。
 ツィッターの時点でも既に多くのネタフリやボケを見せていたが、初配信においては積極的にネタ発言や悪ふざけに走る傾向があるということが発覚した。従来からのにじさんじらしさという意味では、一番らしいライバーと言えるかもしれない。激辛のペヤングを頬張り、その強烈な刺激に喘ぎながらネタ発言を繰り返す様は必見の価値あり。
 音楽づくりに造詣のある人物であり、初配信企画に打ち込みの和物ロック楽曲を持ち出すなど、既にアーティストとしてのセンスが光っている。また完成版では自ら書き下ろしたパート歌詞をラップ調に歌い上げるなど、歌唱力の高さを伺わせる内容となっていた。一方でリズムに合わせて「おさるのかごや」を吹き込んだバージョン、NGシーンをそのまま収録したバージョンなど、再生担当の晴に容赦なくネタ音源を振る一面もあった。

 初配信の内容を見る限り、彼らもまたにじさんじのライバーとしての個性や素質を感じさせる部分が多々あったように思う。その一方で、彼らに与えられたバックボーンや企画内容からは、「これまでとは異なる流れを引き込もう」というにじさんじを運営するいちからの戦略思想が垣間見える。
 イベントや企画番組を含め、所属するライバー達をアーティストやライブパフォーマーとして規定する路線は、2020年に入ってから顕著になりつつある。運営は、果たしてアーティストとしてのライバーをどこまで押し出していく考えなのだろうか。

先例:冥府(メイフ)の役割分担とエンタメ性

 参考として、2020年1月にデビューしたにじさんじライバー三人の設定と活動を振り返ってみよう。

 メリッサ・キンレンカ、フレン・E・ルスタリオ、イブラヒムからなるユニット『冥府(メイフ)』。彼らの設定において特徴的だったのは、出身地の統一と役割の明確な分担である。
 当初はフレン・E・ルスタリオの出身地が『コーヴァス帝国』という地域であり、他二人の出身地については不明だった。しかし、初配信においてフレンから
「方向音痴の自分を案内するためについて来てもらった」
「三人ともコーヴァス帝国の出身である」
といった情報が提示され、その後はリスナー達も彼らをコーヴァス帝国の出身者という捉え方で接するようになった。出身地が明示された上、全員が同郷であるというユニットのあり方は、統合後のにじさんじにおいて珍しいものである。
 また、活動内容やコンテンツからは、メンバーそれぞれで明確に役割が分かれていることが伺える。たとえばメリッサの場合、アーティストとしての面を積極的に見せており、エモーショナルなイラストやカバー楽曲をツィッター・YouTubeなどで公開している。彼女の絵のセンスや歌唱方法は独特の魅力を放っており、『メイフ』における芸術家としての立ち位置をはっきり際立たせている。
 同様に、フレンはゲームリアクションや推し対象のトークなどで『面白いお姉さん』としてキャラを立てているし、イブラヒムは『メイフ』『コーヴァス帝国』という属性を前に立てたロールプレイとツッコミ芸でリスナーを引き寄せ、パフォーマーとしての存在感を示している。三者三様に目立ちつつ、それぞれの良さを希釈せず補完するという関係性は、この三か月足らずの時間の躍進を大きく助けていると言えるだろう。

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