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『運動の娯楽化』VRスポーツという概念

 コロナウイルスの感染拡大によって、2020年のスポーツ界隈は苦境に立たされ続けている。オリンピックイヤーを迎えたにもかかわらず、各国では候補者選出を兼ねた大会が中止され、プロリーグにおいてはシーズン開幕を目前に試合日程の延期が発表されるなど、深刻な状況となっていることは連日の報道でもご存じかと思う。
 個人で嗜む範囲のスポーツや運動にも影響は及んでいる。外出の自粛やフィットネスジムでのクラスター感染報道で、共用施設を借りての運動というのは難しい。自宅でフィットネスや筋トレに勤しむ、というのが妥当な選択肢になるわけだが、いまいち乗り気になれないという方も多いのではないだろうか。

 自宅での運動が面白くない理由としては、自由に動き回れるスペースが制限されていることや、使える運動器具が限定されること、知識・教養にもとづいた指導を受けられず自己満足に頼らざるを得なくなることなどが挙げられるだろう。
 とりわけ重大なのは、運動へのモチベーションが得られないことだ。スポーツジムやプールでは考えるより先に体が動くのに、いざ自宅でトレーニングとなると気分が乗らない。せっかく筋トレ専用のマシンを買ったのに、取り出すこと自体が億劫になって埃を被っている、なんてこともよくある。
 こうしたシチュエーションによる意識の差は、その場の気合だけではどうにもならない。なぜなら、その人にとってスポーツ施設の空気感、場の雰囲気がモチベーションの根拠になっているからである。動いて汗を流す行為を娯楽として消費していると言っても良い。したがって、自宅でも同様のやる気を得るには、何らかの形でシチュエーションの代替をしてやる必要が出てくる。そこで役立つのがVR(仮想現実)系のガジェットである。

 今回は、VRスポーツというジャンルが自宅での運動をどのように楽しくさせてくれるかを考えていく。同時に、これからVRコンテンツを考える方々にとって、アイデアのヒントとなるものも提示していこう。

1.動きがフィードバックされる面白さ

 VRのガジェットで普及率が高いものといえば、任天堂がリリースしているフィット関連の商品である。体重計のような形をしたWiiフィットボード、樹脂製のリングにコントローラーをはめて使うリングフィット。プレイヤーの動きと連動して操作を伝える周辺機器と、それを使って遊ぶゲームアプリを販売・配信しているのがこの会社だ。
 記事を執筆した現在、リングフィットが品薄になっていることは周知の事実だ。しかしながら、任天堂の商売が上手であるとか、コロナウイルスのせいで外に出られないであるとか、そんな理由だけで多く売れることはない。このゲーム機器の『動きのフィードバック』にこそ、人を惹きつける魅力があるのである。

 たとえばリングフィットは『リングフィットアドベンチャー』というゲームアプリとセットで提供されている。このゲームは、輪っかのようなコントローラーに力を加えたり振り回すことで操作ができるアクションゲームである。
 ゲーム内ではトレーニングのポーズや運動がキャラクターの攻撃や防御、移動に当てはめられており、プレイヤーが指示に従って体を動かすとゲームが進行する。言ってしまえばそれだけなのだが、エフェクトやキャラクターのモーションがいかにも面白そうに作り込んであるため、黙々とフィットネスだけをやっているよりも楽しい気持ちになってくる。また、ゴールが明確なことで『ここまでやったら一休みしよう』という区切りをつけやすくなっている点は、継続性や習慣をつけたいプレイヤーにとって便利な要素と言えるだろう。

 画面内でキャラクターが同じトレーニングのモーションをとる点も、フィットネスというジャンルにおいては大きな長所となっている。
 おもりを持ち上げたり、アームを引き寄せるような器具のトレーニングは、その構造を見ればおおよその動きが予想できる。しかし、ストレッチやヨガ、エアロビクスのように体ひとつで行うトレーニングの場合、見よう見まねだけでは動きの程度がわからない。
 リングフィットでは、キャラクターが自分と連動して動き、その結果に対してエフェクトやメッセージの形でアプリから評価が返ってくる。こうしたフィードバックを通すことで、自分の動きが適切かどうか、効果が出ているのかどうかを、素人ひとりでも判断できるようになるのである。
 勿論、専門のトレーナーほど的確な指導を受けることはできないし、室内でできる動きに限定されてはいる。しかしながら、体力維持や運動習慣の確保という点においては十分なクオリティーである。何より、遊びという枠に当てはめたことで『フィットネスは楽しいもの』という認識をプレイヤーに与えられているのは、ゲームであるがゆえの長所と言える。

2.現実に囚われない遊びができるという体験

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