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新人ライバーが伸びを欠くことは、「衰退」と異なる現象

 最近、このような記事が注目を集めている。
 内容としては、にじさんじにおけるライバー同士の関係性や活動内容の変化を挙げ、「腐っている」と断じるものである。

 にじさんじについては、所属するVTuber(以降ライバーと称す)の数が3桁台に届くほど増えていることで、衰退というよりも埋没のしやすい環境ができつつあると言える。
 ライバーの生活リズムや他の仕事などによるばらつきはあるが、現在は毎日数十件単位でYouTubeなどでの配信や動画投稿が行われている。当然、配信スケジュールの重複は意識せずとも相次ぐ状況であり、にじさんじという枠の中で視聴者の取り合いが頻発している。
 そして表層的に見れば、デビューから日の浅いライバー達は視聴者を獲得できておらず、『はずれ番組』という印象が強い。同じタイトルのゲームでも、先輩ライバー達にダブルスコアやトリプルスコアを付けられている状況である。
その様子から、
「にじさんじは新規コンテンツが開拓できない衰退期に入った」
という見解を示す人が現れるのも致し方ないことかと思う。

 しかしながら、『新人ライバー達の活動状況が悪い』という見方は誤りである。むしろ、イベント出演や関連グッズ等の対応で多忙を極める先輩ライバー達に代わり、頻繁に配信活動を行っている。
 また、手探り同然だった一期生や、コラボレーション企画等に制約を課されていた統合前のメンバーより、活動の自由度は明らかに向上している。同じゲームをプレイすることによく批判が当てられるが、職場で打ち解ける理由付けに共同プロジェクトやレクリエーション活動が用いられるようなものであり、よこしまな意図はないであろう。
 つまり、ライバーとしての活動を行うこと自体には依然として怠慢も驕りもない。腐って熱量が失われているわけではないのだ。

 では、なぜ新人ライバーの人気が伸びづらいのか。これには、メンバーの増加によって、セルフプロデュースの要素における難易度が上がったことが絡んでいると言える。

 まず、にじさんじの第一期生である月ノ美兎や樋口楓、エルフのえるといったライバー達がデビュー時に置かれた状況を考えてみよう。
 彼らがにじさんじのライバーとして世に出た際、直接の競争相手となっていたのは『同時期にいたその他のVTuber達』である。そして、にじさんじというブランドは当時大した価値を持っていない。つまりは特に背負うものもなく、純粋に他者との差別化で競う状況にあったと言える。
 一期生は、にじさんじ≒自分達が他のVTuberと異なるコンテンツを提供できることを示すことで、そのまま差別化を図ることができた。それは配信内の独特な言動であったり、自身で考えた企画の内容であったり、同僚との関係性であったわけだが、これらが魅力となりファンの獲得につながったことで『にじさんじ』という独自のブランドが確立されていった。
 つまるところ、彼らは『他人と違う存在である』という点を主軸にプロデュースしていくことができたため、活動が比較的行いやすかったのである。この当時はまだVTuberに対する概念も固まりきっておらず、自由なメソッドを持ち込める余地があった。そうした環境の幸運も、一期生の躍進を支える要因となっていたと言えるだろう。

 にじさんじの拡大にともなって、二期生の他にSEEDsやゲーマーズなどのサブグループがいくつも構成されていったが、この段階でもプロデュースはまだ容易であった。運営側のコンテンツカテゴリーが定義されていたことで、活動内容やメンバーのキャラクター付けがわかりやすかったからだ。
 グループ統合後も、各グループの特徴やメンバーの活動傾向は「こういう方向性の人達である」という形で視聴者に十分理解されているし、それを踏まえた形で応援をしているファンも少なくない。その上で、統合前は関わることが難しかったメンバーとも交流を重ね、新たな活動の形を生み出している。
 二期生以降は、名前を売り込む難しさが緩和されるとともに、にじさんじ内での立ち位置をいかに定義するかが重要となってきた。その中で、グループ分けという運営方針は問題こそあれ定義づけに大きく寄与していたと言える。
 ただ、運営側の想定とライバーの希望が合致しないために齟齬を生じていた部分もあった。仮にあの状況を継続していた場合、グループごとの扱いの差異や活動の制限が悪影響を及ぼし、にじさんじというブランドが瓦解していた可能性も否定できない。グループ統合という方針転換は、そうした意味で必然の選択であった。

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