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発掘から育成への転換期

 2021年の後半から、えにからことANYCOLOR株式会社が取り組んできたプロジェクト。その結果の1つとして送り出されたRanunculus(ラナンキュラス)は、順当に成果を示しつつあると言っていいだろう。

 バーチャルタレントアカデミー(VTA)の1期生から選抜された先斗寧(ぽんとねい)、天ヶ瀬(あまがせ)むゆ、海妹四葉(うみせよつは)の3名からなる同期グループは、イメージカラーやキャラクターコンセプトなどの設定面からも、順当な地固めを行っていることが伺える。
 また、配信内容やトークテーマについても半年間のVTAでの活動で蓄積してきた各々の向き不向きを踏まえ、話の引っ張りやすい方向を定めた配信を行っている。こうした特徴は、これまでの新人にはあまり見られなかったものだ。

 これまでの試行錯誤感を漂わせる新人特有の空気が好きだった人にとっては、落ち着きがあり過ぎるという印象を受けるかもしれない。その一方で、わからないが故にやってしまうような失敗や炎上に繋がる火種が少ないことは、長く追い続けようと思っている視聴者に安心感を与えてくれている。
 すべて上手くいったとは言えないものの、全体を通して見れば、今回の社内育成という試みはそれなりの成果を収めたのではないだろうか。あくまで先陣を切った3人の印象ではあるが、この形を徐々に洗練させていけば、配信者をデビューから活動範囲の拡大までサポートする事務所として充実していくことは間違いない。

 えにからのVTAのように、人材を育ててデビューさせるという試みは、これまでの有望な配信経験者を引き入れるやり方と比べれば効率の悪いものである。
 人気商売としての側面が強い配信業界では、安定性よりも尖った面白さや唯一無二のタレント性が好まれる。しかも、そうした要素は教育や指導よりも、独自路線の追求や自発的な研鑽、元々備わっている資質などによって生じるものだ。今になって育成に取り組むよりも、オーディション形式で希望者を募り、より配信映えのする人材を発掘するという従来のやり方を通した方が、会社としても楽な筈である。

 では、えにからがそうした体制からシフトし、育成期間を設ける長期スパンのやり方を採り始めたのはなぜなのか。そこには、現在の配信業界が置かれている環境の変化が関わっていると言えるだろう。


もう配信界隈に『青田買い』できる土地はない

 えにからが自前での新人育成に乗り出した背景として考えられるのが、有望な配信者を引き込める可能性の低下である。

 その原因の1つが、ここ数年問題となってきている、配信業界における新規参入者の存在感のなさだ。
 YouTubeにしても、Twitchにしてもそうだが、サービス初期に見られた個人活動の配信者がキャリアを積み重ねて有名化していくケースは割合として少なくなってきている。代わりに増えているのが、タレントや芸能人の進出や事務所所属の配信者である。
 前者の場合は、既にある知名度を生かし、既存メディアの枠ではできなかったコンテンツを公開したり、普通の配信を行ったりしている。客層自体はもともと抱えていたファンが主となっているため、個人配信者との間で直接シェアを奪い合う関係にはならないが、再生数の多さや評価数の効果によってサイト内のおすすめやキーワードなどで上位に出てくる可能性は高く、間接的な脅威になっていると言えるだろう。
 また、後者の場合はバックに事務所がつき、配信以外の部分もサポートしているというのが大きい。SNSアカウントの運用もそうだが、プレスリリースやグッズ・外部案件の交渉など、個人ではなかなか手の回らない範囲をスタッフ陣で対処しているため、総合的に見て人気を伸ばしやすい体制が出来上がっている。また、事務所自体の知名度や同僚の配信者からもたらされる周知効果が、個人活動で得られない伸ばし要素として働くため、脅威度はかなり高いと言っていいだろう。
 こうした存在が台頭してきたことで、これまで個人活動のキャリアアップが主だった配信界隈は、「既にある状態から伸ばしていく」という形式に変わってきている。何もないところから物事を始めて関係を構築するのではなく、既にある程度整ったところから経験を積み増し活動を広げていくようになったのである。

 この変化は、企業側が配信業を進める上で追い風となっている一方、新規人材の獲得においては後ろ向きの影響を及ぼしている。
 個人活動が企業系と相対して伸びづらくなり、目立ちにくくなったことで、これまでの新規登用で頼りにしてきた『実績』を評価しにくくなった点は特に大きい。個人VTuberとしてある程度活動し、その成果を元手に事務所へ売り込むことを考えるにしても、世間の注目は大半が既にデビューしているVTuberに向けられている。新人を探す場合も、わざわざ個人をチェックする層は限定的だ。もし今から個人でデビューし、最低でも業界関係者が知るほどの注目を集めるとなれば、よほどキャラクターの立つ配信者でなければ難しいだろう。
 ゲーム実況やその他の動画ジャンルでもこの傾向はさほど違いがない。トレンドを取りやすい既存の有名人や企業系に真っ向から対抗し、無名の段階から実力のある配信者として名乗りを挙げることは厳しい状況だ。

 これまでメインで登用してきた叩き上げの世代のストックが枯れつつある中で、新鋭の注目株も上述の状況から現れにくくなっている。従来通りのオーディション制で有望株を見出すことは一層難しくなると見ても決しておかしくはないだろう。
 えにからが自社育成に取り組む背景には、そうした将来的な人材不足に対応しなければならない状況もあるのではないだろうか。

自社で育ててデビューさせるVTAの取り組み

 えにからが開始したVTAプロジェクトは、いわゆるスクール形式の育成制度を採っている。

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