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バーチャルの海より出でたもの

 バーチャルYouTuber、通称VTuberと呼ばれるタイプのネットタレントが世に現れてからはや3年あまり。カメラを使ったモーションキャプチャーでCGキャラクターの体や表情を動かし、リアルタイムで演じるというこの形式は、現在個人の趣味から商業分野にまで広く普及している。
 その一方で、VTuber側の炎上沙汰や運営体制のトラブルが絶えないのもまた事実である。数十万人規模の支持を勝ち取りながら、問題のある発言や行動、運営者との利害対立によって姿を消した者は決して少なくない。

 2019年においては、演者の方針転向に反対したアズマリム、突然の演者総入れ替えとなったゲーム部プロジェクト、いわゆる『お気持ち表明』から一部キャラクターの引退沙汰にまで発展した.LIVEなど、ネットの世間を賑わせた事件がいくつもあった。
 これらの問題に共通して見られたのは、『運営者のこだわりや方針が、演者や視聴者の求めるものと一致しない』というミスマッチの状況だ。
 ビジネス上の課題を解決するために、演者や演技への口出しを行うという意図は理解できなくもない。しかしながら、VTuberのファンとなった視聴者は、現在の演者や演技であることに満足を得ているため、そうした「無感情」な対応には強い反感を抱く。
「盛り上がっているが、今のままでは商売にならない」
「継続性のあるビジネスにしたいが、手を出すとファンの熱意を削いでしまう」
 このようなジレンマを抱えているために、VTuberの配信運営や活用にはまだ明確な道筋がつけられていない。

 ただ、VTuberの配信環境の管理やサポートについては一定の経験が蓄積されてきており、大人数を抱えるいくつかの企業がプロデュースの主導権を握りつつある。
 たとえば、株式会社いちからがVTuberに自社アプリを提供する形でサポートしている「にじさんじプロジェクト」は、ほぼ毎月に数名のペースで新規のVTuberをデビューさせている。この会社が採ったのは、配信スケジュールや配信内容をほぼVTuber自身に任せる自己裁量制の管理システムだ。
 企業とのコラボレーション企画などではいちからが対応することもあるが、個々人の行動にはあまり制約を設けていない。これによって、にじさんじ所属のVTuber達は自分の都合で配信の時間帯を定め、自発的に他のVTuberとコラボ配信を行うことができている。

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