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にじさんじライバーの変化とVTAがもたらす影響

大きくなって変わったこと

 2018年に、2次元CGのバーチャルライバーをデビューさせて始まったにじさんじ。当初は自社アプリのテスターや販促としての意味合いも含んでいた彼らだが、5年が経った今ではいくつもの企業案件にかかわり、オリジナル楽曲をリリース、現実の会場でライブイベントを開催するなど、タレントとしての精力的な活動を展開している。
 100人を超えるライバーがひしめく大型事務所となり、またある程度の年数と実績が積み上げられたことで、ライバーのキャリアプランやステップアップの道筋といったものも、大まかではあるが固まりつつあるように思う。全員が手探り状態で、組織としていつ倒れるかもわからない状況にあったことを考えれば、驚くほどの変貌と言えるだろう。

 ただ、その一方で、最初期のような冒険心やチャレンジ精神はあまり表に現れなくなっている。一部ライバーが独特な企画を持ち込んだり、グループやユニットのチャンネルで変なことをやっていたりはするが、昔ほど誰もが誰も奇行に走っているかのような印象はなくなったように思う。
 もちろん、そこには社会人として弁えるべき常識や礼儀作法であったり、法的なトラブルや炎上騒動のきっかけとなり得るものを避ける危機管理意識の強化が働いているという点も絡んでいるだろう。にじさんじという1つのブランドが確立された今、あえてその価値を揺るがしにいくようなリスクをとるライバーはいない。
 とはいえ、古くからファンとしてにじさんじを見てきた層の中には、時として斬新で苛烈なものに盛り上がるような展開が起こってほしい、と期待を寄せている方もいるだろう。そのような需要に応えていない現状に対して、「昔の方が面白かった……」と思ってしまう気持ちもわからなくはない。

 しかしながら、そういった変化は「つまらない」わけではなく、あくまでミスマッチの要素である。安心して視聴できる配信を求めている層にとっては、セーフラインを踏まえているライバーの方が良いと感じるだろうし、外部からの評判という点でいえば、破天荒で何をするかわからない人より、常識を弁えた範囲でネタを振る人の方が信用されやすい。
 また、ライバーの存在を疎ましく感じたり、排除したいと考えている層にとって、過激な行動が格好の攻撃材料となりうる点も、積極性を抑えた配信が増える要因となっている。法改正によってある程度司法での対処がスムーズになったとはいえ、誹謗中傷や風評の流布などの被害を受けてから加害者に適切な制裁が及ぶまでの間に、ライバーに対して致命的な名誉毀損が生じてしまう状況は依然として残ったままである。そのため、未然にリスクとなる要素を減らすことが、今もなお最良の防御方法となっている。

 つまるところ、今のライバーに求められているのは安心して応援できる内容や自らリスクを負わない姿勢であって、危険を承知で突っ込んでいくような方向性はメリットにならなくなってきている。株式会社としてマーケットに上場したことで、その傾向はより強くなったと言えるだろう。

VTAという取り組みがもたらしたもの

 にじさんじの運営元であるANYCOLOR株式会社が、次世代のバーチャルタレント育成を目指して設立したVTA(バーチャル・タレント・アカデミー)は、現状ほぼにじさんじライバーの養成所として機能している。
 オーディションを通して選ばれたVTAの生徒は、VTAが管理するSNSアカウントとYouTubeチャンネルを利用し、告知ツィートの発信や30分枠での個別配信、成果物である動画の投稿といった活動を行っている。その他にも歌唱やダンスなど、タレントに関係する技能を育てるために様々なトレーニングを受けているが、視聴者が確認できるのは上記2カ所での活動のみだ。
 生徒は半年から1年をかけてプログラムに参加した後、主ににじさんじからデビューする形となっている。数名は別の形で活動していると思われるが、ここではにじさんじライバーとしてデビューした元生徒について、その特徴を見ていきたい。

一期生グループ

 第一回のオーディションで選出されたメンバーで構成されたRanunculus(らなんきゅらす)やVoltaction(ボルタクション)は、一期生メンバーのみのグループとなっている。
 彼らの特徴としては、配信スタイルや自身の口調がある程度ライバー自身の中で固められている点だろう。当然、誰もがある程度キャラを作ってはいるわけだが、VTAという一種のサンドボックス環境で試す機会があったことで、「自分にとって無理のないやり方は何か」をそれなりに掴めているように感じた。
 たとえば先斗寧は、VTA初期は標準語で喋ることを意識していたが、活動の中ほどからイントネーションを強制しなくなり、関西訛りの口調で安定して喋るようになっている。このスタイルがにじさんじでデビューして以降も継続していることから、本人のやりやすい形を試行錯誤の中で見つけられたのだと思われる。
 一方、VTA時代とは全く名前を変えたセラフ・ダズルガーデンのような例もあり、最初のデビュー者ということでまだ個々にキャラ固めのバラつきが見られるのも特徴の1つだ。
 とはいえ、配信の流れの作り方や発声の仕方など、段階を積んで学んだことで我流から抜け出していると思われる箇所は多く、かなりの部分でVTAが活かされていると言える。

二期生・経験者混成グループ

 今年に入ってからは、一期生の鏑木ろこを含めたidios(いでぃおす)や男性ライバー4人で構成されたOriens(オリエンス)、Dytica(ディティカ)など、経験者との混成グループでデビューさせる流れが続いている。
 VTAで配信実績を重ねたとはいえ、自前で視聴者を抱えたことのある経験者とで活動への意識や物事の捌き方に差がつくのではと思っていたが、見ている限りではそういったこともなく、お互いに持ち味を出して絡みに行っている雰囲気だ。
 混成グループの中でのVTA出身者を見ていて特徴的と感じるのは、自身のネタの引き出しを明確に意識して、それを発揮しようと動いているという点だろうか。
 配信経験者の場合は、必ずしも自分の落としどころまで持っていくわけではなく、状況を見て適当にあしらっていることも多い。いちいち付き合っているとキリがなくなり、また身内のネタ擦りに近寄り過ぎてしまう。そういった煮詰まりを避けるためか、緩急をつけてやり取りをこなしていることが伺える。
 一方で、VTA出身者の場合はその辺りに不慣れなことがわかる。もちろん、そうした真摯さが一種の持ち味として成立している点もあるので、悪いわけではないが、若干肩肘の張った状態になっている感は否めない。配信上での塩梅を覚えていくには、やはり疑似ではなく自前のリスナーを抱えてでないと身につかない部分もあるのだろう。

スキル面の育成は良好だが、デビュー後に育つ面もある

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