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量産戦略から厳選戦略への転換 ~えにから2021の奮闘~

『手厚く抜け目ない』2021年の新人

 前回の『セレ女』デビューから約1年もの期間を置いて、2021年7月にデビューが発表された『エデン組』。前回と同じく同期5人体制となった彼らは、しかし前年と異なる様相をもってデビューを果たすこととなった。

 揃って5人のキャラクター新造ではなく、オリバーは募集段階で事前公開していたキャラクターデザインである。また、アクシアとローレンの衣装を見れば気づくだろうが、カラーリングや意匠など2人が対となるように意識されたデザインとなっている。つまりは、デビュー計画時からコンビ活動を見越して形作られたキャラクターということになる。これらの縛りを特に設けず、演者の希望とデザイナーのアイデアとをすり合わせて新造されたのはレオス・ヴィンセントとレイン・パターソンのみだろう。
 つまり、『エデン組』は5人の同期ではあるものの、実態はコンビ2人+キャラ付き1人+新造2人の複合ユニットということになる。実際、アクシアとローレンの2名は『スローンズ』として度々コラボ配信を行っており、ファンからもコンビとして認識されている。他の3名は各々のペースで他ライバーとのかかわりを開拓しているが、どこまでも我が道を貫くレオス、国際交流を盛んに行っているオリバー、デザイナー繋がりや先輩の反応をきっかけに他ライバーとの関係を広げていくレインというように、明確に路線を分けた活動を展開している。このようにデビュー当初からはっきりとした路線の色分けを提示して展開しているのは、これまでのにじさんじからすると異例である。

 もうひとつ、特徴的なのがにじさんじ公式による新人の盛り立ての熱心さだ。
 通例であれば、にじさんじでデビューしたライバーはほぼ自力で路線を開拓し、ファンを増やしていく。ニッチな方向に寄っていこうが、コラボに消極的だろうが、公式から積極的に新人を売り込みにかかるという姿勢はあまり見られなかった。
 しかし、『エデン組』についてはかなり積極性を見せている。たとえば夏休み限定の企画として2週間にわたって配信された『にじヌーン』では、平日の各曜日にそれぞれ1人がレギュラーゲストとして配置され、先輩ライバーとともに出演することとなった。約1時間の放送枠で新人が他のライバーと絡み、トークや企画を繰り広げるというのは、明らかに自力で集める以外の観衆に向けた『顔見世』である。

 その他、デビューを記念したグッズやボイスを販売したり、先輩ライバーの企画したゲーム大会に参加したりと、何かと手厚いフォローが入っているのが今回の新人である。その甲斐あってか、5人ともチャンネル登録数の伸びは良好であり、安定して多くのリスナーが配信枠を訪れている。これについては喜ばしいことであるし、今後も取り組んでほしいものである。

管理によってトラブルの芽を摘む

 一方で、この急な方針転換には戸惑いを覚える方も少なくないだろう。今までずっとライバー任せにしていた筈なのに、なぜ今更になって注力を始めたのか。もっと前から取り組んでいれば、ライバーの苦労も何割か軽減されたのではないか。そんなことを思う方もいるかもしれない。
 しかしながら、こうした積極策への転換は唐突なテコ入れではないと思われる。にじさんじが企業各社との案件を展開していく上で、『ライバーが何をしたいか』が重視される傾向は変わっていないし、3D配信などでライバーがやりたがったことにスタッフの技術で応えるという基本構成は相変わらず保っている。つまり、ライバーの意思を尊重し、それベースでの事業展開を行うという姿勢そのものに変化は生じていない。
 したがって、今回の新人に対する積極策は、にじさんじにとっての唯一『不本意な介入』ではないかというのが僕の見解である。

 なぜそのように異例の出方を採らざるを得なかったか。これはやはり、前年のトラブルや新人ライバーの不祥事が根底にあると考えられるだろう。
 2020年の新人ライバーは、従来通りの放任主義となっており、ファンの獲得はライバー自身の活動によるところが大きかった。結果、1月デビューの『メイフ』は順調に活動を軌道に乗せた一方、4月デビューの『VΔLZ』は当初のイメージでは思ったほどの反応を得られず、甲斐田晴の発言が取り沙汰されるなどトラブルに見舞われる状況もあった。そして、6月30日にデビューした『きらめろ』のうち、金魚坂めいろに至っては、度重なる問題行動と迷惑系配信者への情報流出という不祥事によって、公式から詳細な説明を出して対応せざるを得ない状況に陥った。

 こうした問題に直面し、明らかに度を超えた迷惑行為やSNS等でのアンチ活動が発生する中で、にじさんじとしても根本的な対処を採らざるを得なくなったのではないかと考えられる。新人に自身の舵取りを任せるというスタンスは、トラブルに見舞われた場合に『運営者の責任逃れ』や『管理体制の不足』という形で追及を受ける。ましてや情報漏洩という一大事案となれば、運営側は「知らなかった」では済まされなくなる。社会的な正当性を認めさせる上で、放任主義を貫くことが難しくなったというのが、今回の方針転換に繋がったのではないだろうか。

 ライバー側の良心に前提を置いて一任するやり方ではなく、ちゃんとライバーの活動実態を監督しながら、彼らの希望を叶えていくやり方。言うだけなら簡単だが、安易に行動を管理してしまうとライバーに『作り物感』が出てきてしまう。台本を読み、言われたとおりに活動をする操り人形のような配信は、にじさんじのリスナーからすると受け入れがたいものである。
 これまで通りの自由な風潮を保ちながらも、運営がプランを先導して活動を支えていく。そのための取り組みが、今回の新人のような積極的なテコ入れ策だろう。普段の配信活動とは違う領域をにじさんじ側で企画し、既存のライバーらとともに参加させるというアイデアは、結果的に新人の周知を促し、初動から安定して活動を軌道に乗せるという成功を収めた。
 ただし、『エデン組』についてはあくまで最初の1回が上手く回っただけに過ぎないと言えなくもない。次の新人でも同様に積極策を講じ、周知に貢献できれば良いのだが、必ずしも上手くいくとは限らない。決して慢心したりせず、いっそう企画の内容を洗練させる必要があるだろう。

品揃えは十分、質の向上が課題

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