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広島県のデジタル人材育成の取り組み⑤ 社会人編 パート1

社会人のための広島におけるデジタル人材育成


 
デジタル人材育成対象は学生だけでなく、社会人ももちろん対象となります。そして育成対象のポテンシャルはとても大きいものであり、リスキリングとデジタル人材育成という2つのキーワードの親和性もとても高くなってきています。本節では広島県が実施するデジタル人材育成施策をまとめるとともにその特徴や、実際県内で取り組まれているDX事例を通してデジタル人材育成のポイントを理解していきたいと思います。
 

社会人リスキリングのための広島県主体のデジタル人材育成施策


まず、2022年時点で広島県が主導して実施している企業・社会人向けのデジタル人材育成の事業について紹介をしたいと思います(下図参照)。広島県では多種多様なデジタル人材育成の事業を県として手掛けており、いわゆるDX推進に必要な人材類型(ビジネスアーキテクト/デザイナー/データサイエ ンティスト/ソフトウェアエンジニア/サイバーセキュリティ)を育成するために、ひろしまサンドボックスや「ひろしまものづくりデジタルイノベーション」創出プログラムなどデジタル技術を活用し社会・企業に貢献をしていく人材を育成する取り組みとともに、実践を通じた人材育成として「広島型MaaS推進事業」「広島デジフラ構想」など地域産業の特化型のための育成も手掛けています。
 
また前述した組織全体のリテラシー向上、DXへの理解・実践意識の醸成を目的とした施策も特徴的です。2020年に「広島県DX推進コミュニティ」を立ち上げ、広島県内の「企業・事業者、教育機関、行政等が、切磋琢磨したり、協調・協働しながら、デジタル技術やデータの力を有効活用して、将来の広島県を創っていくための実践」を促進するためのハブ的な機能を担っています。県内のDXを推進する方々のインタビューや企業のデジタル化の事例の共有また定期的にイベントを開催し、デジタル人材の育成に取り組まれています。中でも「みんなのDX研修」というコンテンツは「県内で働くすべての人のためのデジタルトランスフォーメーション基礎研修」をコンセプトに、いわゆる「デジタル人材育成」のエントリーという位置づけで開講されています。
 

社会人向けの県の人材育成の取組

 

広島県リスキリングのキーワードは“全方位型”


またリスキリングの一環で、広島県の商工労働局産業人材課リスキリング支援グループ主導で「デジタルトランスフォーメーション進展下において社会人共通に求められるデジタル基礎知識の習得を図るとともに,リスキリングに取り組む企業の拡大を図り,県内企業等の生産性向上や新たな付加価値創出等を促進すること」を目的として、ITパスポート取得支援補助金を出していることも特徴の一つです。県内企業に対して、対策講座受講及び受験を実施する事業に要する経費の一部を試験合格者数に応じて補助金を出すというもので、デジタル人材に向けたリスキリングを促進する施策として非常に興味深いものです。
 
県内の銀行・証券・リースから非金融の地域活性化やコンサルティング業まで手掛けているひろぎんグループにおいても、新しいデジタル戦略のもとで全社的にITパスポート試験の受験を奨励しています。2022年9月時点で全社社員の8割の方が申し込みをしており、デジタル・ITの基礎知識の取得に努められているとのこと。県内の大手企業の本取り組みは、上記の県主導のITパスポート奨励と呼応するものでありアナウンスメント効果としても大きいと考えます。
 
このリスキリングを広島県が重視している証左として、全国に先駆けて2022年4月に「広島県リスキリング推進検討協議会」を立ち上げました。「デジタル化が進展する中,生産性の向上や新たな価値創造,成長分野での競争力 強化に資するリスキリングを推進するとともに,将来の需給ギャップに対応した円滑な労働移動の実現を目指し,習得が必要なスキル,働きながら学ぶ労働環境や雇 用管理のあり方,労働市場の流動化に向けた社会システム等の課題などについて,公労使で検討する」(参考:「広島県リスキリング推進検討協議会について」)を目的としており、2023年7月を目指し、習得すべきスキルや企業の取り組み方針、広島県が担う役割について協議・取りまとめを本協議会が担っています。
 
本協議会の「雇用環境分科会」分科会会長で県立広島大学大学院経営管理研究科の木谷宏教授にインタビューをおこなったところ、「広島県のリスキリングの取り組みは、従来から県として重要視している教育への意気込みとデジタル人材育成の流れが合流したもの。広島県はものづくり・製造業が強い地域であるが、今後産業構造の変化も予想され、広島県知事のリーダーシップのもとでリスキリングに向けた取り組みを開始したことが大きい」と述べられています。この広島県のデジタル人材育成の特徴について、木谷教授は「一部の職種や領域にフォーカスをした育成ではなく、すべての人々がデジタル人材となる施策を進めていきたい。全員がリスキリングのシャワーを浴びれるようにしたい」とも述べられており、全方位型のデジタル人材育成を目指していると言えるでしょう。
 
県の取組としていわゆるAIやIoTなどの最先端のデジタル・ICT人材を目指していく「ひろしまサンドボックス」や「「ひろしまものづくりデジタルイノベーション」創出プログラム」の取り組みを行う一方で、リスキリングという社会全体のニーズをいち早く捉え「みんなのDX研修」やITパスポートの取得推奨などデジタル人材全体の裾野を広げていく、デジタル人材のためのリテラシー習得の向上に県が主導で行っていることも大きな特徴と言えるでしょう。
 
「誰も置き去りにしない全方位型のデジタル人材育成」の取り組みとして公益を担う広島県が担っていることはデジタル人材のアクターとしての行政の役割とは必然であるとともに、全国のパイロットモデル・ロールモデルとしてより今後注目が集まってくると思います。次節では、産業のデジタルトランスフォメ−ションという観点で様々なアクターが活躍する広島県の介護DXの事例を紹介したいと思います。

文責:デジタル人材育成学会副会長 中村

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