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店内の通路とか、踏み台に座るのとかは「文化の違い」って感じもするけどね

本屋は図書館じゃありません。
本は商品なので、大事に扱って下さい。

書店員ならば誰しも一度は、こんな想いを抱いた事があるのではないだろうか。
僕は大規模書店に勤める現役書店員なんだけれど、ほぼ毎日頭の中で先発のセリフが出てきてしまうくらい、書店におけるバッドマナーは横行している。
以下、具体的なケースを思い付く限り挙げてみよう。

①平台は荷物置き場じゃありません
自分のハンドバッグやリュック・買い物袋などを、平台に積まれた本の上に置かれる事がある。
他の誰かが買うかもしれない商品に、何かを乗せるという事自体、商品の破損・汚損リスクが発生する。
(本の上でメモや伝票を書いたり、カバーをかけたりする書店員は、書店員ではありません)
また、平台に置いている商品は、よく売れるか手に取られやすい商品であり、他のお客様が買い求める可能性が高い商品だ。
自分が欲しい本の上に、赤の他人の荷物が乗っかっていたら、購買意欲が削がれてしまうであろう事は想像に容易い。
このパターンでよく言われるのが、「スーパーでも同じ事をしますか」という喩えだ。
口に入れるものではないにしろ、人の手に渡る可能性があるものだから、その点でこれはうまい喩えだと言える。
また、食材や日用品の買い物に行く時、パンパンの手荷物を持っていくだろうか。
僕は、可能な限り手ぶらで買い出しに行きたい派なんだけれど、これは少数派なのだろうか。
確かに、本は長期保管を可能にすべく、人類が長い歴史の中で作り上げてきた形状が故、頑丈にできている。
だからといって粗雑に扱って良い訳ではない事くらい、注意されなくても気付いて欲しいものだ。
ちなみに、これは若い人もお年を召した方も、同じくらいの割合でやっていると思う。


②ベンチは飲食スペースではありません
皆さまが勤務している書店に、椅子やベンチはあるだろうか。
ちょっとした規模の書店ならあるかもしれないし、今は密を避ける意味で撤去しているところもあるかもしれない。
僕の働いているお店は後者なのだけれど、コロナが流行る前は、ベンチに座って飲み物を飲んだり、お菓子を食べたり、酷い時にはコンビニなんかで買ってきたパンやらホットスナックやらを食べているような事もあった。
「食」に関しては言語道断、商品が汚れてしまうので飲食はお控え下さい、で済む話なのだけれど、「飲」についてはこちらから強く言うのは難しい。
暑い時期にはこまめに水分補給をしないと脱水症状に陥ってしまうし、更に一般的に滞在時間が長い程、そのお店での購入金額が上がる事もある。
だからといって、「お店には長く滞在してお金を落として下さい、でも水分補給は厳禁です」というのは悦ばしくない。
そんな事情もあり、ペットボトルなど完全に封をする事ができるものについては、口うるさく注意する事はなかった。
でもね、カフェやコンビニで買ってきたカップコーヒーとか、びしょびしょに汗をかいたボトルなんかを、棚や平台にポンと置かれた日には、こっちは気が気でないわけです。
店員としては強く言いたくないし、お客様からしても強く言われたくない。
だったら、お互いがお互いを思いやって、グレーな行動は控え、気持ち良い関係を築いていくべきだと思うんです。
それでもその飲み物、店内に持ち込みますか?

③中の写真を撮らないで下さい
かつてないほど情報が溢れかえっている時代、本のマテリアルな側面がもつ価値も高まってきていると感じるのは、僕だけではないはずだ。
「デザインのひきだし」などに顕著なように、装丁や製本に拘った本が数多く出版され、それらはギフトやインテリアとしての需要もある。
その逆を行く電子書籍は、本の価値におけるモノ的な側面を切り落とし、情報商材としてのみ扱っているという特徴がある。
そう、本はモノであるだけでなく、根本的には情報商材なのだ。
つまり、僕らはモノであり情報でもある何かを、お金を貰って販売している事になる。
そこで撮影の話に戻ると、本のページを買わずにパシャリと撮る行為は、心情的には窃盗に他ならない。
とは言うものの、「形のあるものを盗んだ」わけではないので、実は本の中身の撮影は、窃盗罪には問われない。
撮影禁止を張り紙で明示しているとか、削除を求めたのに拒否したとかで、他の罪に問う事はできるが、そんな体力も時間も書店にはないのが現状だ。
それよりも僕が問題に感じるのは、情報をお金で買う、という意識がこれだけ根付いた情報社会で、未だにこんな「どうしようもない」行為が蔓延っているという事実だ。
書店における撮影とは、罪になるとかならないとかではなく、読者の情報リテラシーの問題だと個人的には思う。
一度、商品である本を折り目を付けて開き、あまつさえノートを取っていた壮年の男がいたのだけれど、これにはさすがに語気を強めて注意してしまった。
接客業に携わる人間として、冷静さが足りなかったなあと反省すると共に、いかに何十年と生きてきた経験豊富な人間であろうと、こういう感性は身に付けようとしないと身に付かないものなのかもしれない、とも思わせられる出来事だった。

④本は元の場所に戻しましょう
またスーパーの喩えになるんだけど、皆さんはお買い物中、お菓子の棚にお刺身が置いてあったり、パンコーナーに冷凍食品が置いてあったりするのを見た事があるだろうか。
当然、こういったケースの場合は保つべき温度が保たれなくなったために、あるいは異物混入のリスク回避から、商品そのものが廃棄になってしまう。
本来は廃棄しなくても良かった品物が廃棄になるのだから、器物損壊・業務妨害と言っても差し支えないだろう。
書店においても、商品が元の場所に戻されなかった場合、廃棄にこそならないが、やはり困った事態になる。
まずは同じ棚や平台の、違う本の上に手に取った本を重ねた場合。
この場合、その棚の担当者であればともかく、他の担当者やお客様からすれば、それが違う本である事に気付かないという事が起こりうる。
店員が本を探す場合は、こういった可能性を考えて平積み・面陳になっている本は1〜2冊めくったりするのだが、お客様は基本的に気になった本しか手に取らないので、見逃す可能性が格段に上がる。
本来、その本の後ろにある本が売れていたかもしれない可能性もあるのだから、これも立派な業務妨害だ。
次に、全く別の棚に本を置いた場合。
その置き方にもよるけれど、棚に差してしまった場合は結構よく見ないと気付かないので、あれ? と気付いてその本が元の位置に戻るまで、どれくらいの時間がかかるか分からない。
例えば、その間に他のお客様がその本を探しに来た際、店員がいくら探しても見つからないという事が起こりうる訳で、これも本来あり得なかった機会損失を被った形になる。
こういう話をしていると出現する、「商品を元の場所に戻すのは店員の仕事」論。
この論を持ち出す人は、ビジネスにおける生産性というものを、全く理解していませんという無知を曝け出しているに過ぎない。
商品を仕入れ、棚に並べ、販売するという一連の流れの全ては売上のためにあるのであって、「商品を元の場所に戻す」という行為は、売上には全くもって繋がらない。
そして店員は、あくまで売上を作るために賃金を貰って仕事をしているのであって、売上にならない行動は仕事ではない。
そもそもそんな事を言い始めたら、万引き犯を捕まえるのだって店員の仕事になり、ひいては地域の治安維持も店員の仕事になり、更には犯罪防止のための啓発活動なども、店員の仕事という事になってはしまわないだろうか。
商品を元の場所に戻さないだけで、スーパーの例では即ロスに繋がるわけだし、書店に関しても在庫不明品は、不要な支払いを生み出す結果になってしまう事もある。
「商品を元の場所に戻す」事は店員の仕事ではなく、「商品を元の場所に戻さない」事こそが営業妨害なのだという認識は、もっと広まって良いと思う。

⑤本の知識マウントは慎みましょう
「この作家のこの作品も知らないのか」
「この本はこの分野では定番だろう」
「店員ならこのくらい知っとけよ」
あなたが知っている本を、その店員はたまたま知らなかっただけだし、あなたが知らない本を、その店員はたくさん知っている。
そんな当たり前の事実を省みる事なく、恥知らずにも知識マウントを取ってしまうのは、軒並み高齢の人々だという現実がある。
自分の常識が世界の常識であるという錯覚は、若い頃ならまだ青いねえと可愛がれるものの、いい歳こいた人間がこれをやるのは、本当に恥ずかしい事だ。
極論、レジでの会計業務しかしない人が村上春樹を知らなくても何の問題も無いし、ラノベ担当がボヴァリー夫人を知らなくても、全く何の問題も無いのだ。
自分が担当する分野の事であれば、それは勉強になるお言葉なわけだけど、それにしてもいちいちマウントを取って優越感を得ないといけない、その浅はかな心性がどうしようもない。
……だんだん、ただの愚痴みたいになってしまっている気がするけれど、まあ良いだろう。
書店員として、知識を蓄えていく事は必須事項だと僕も思うし、その知識を元に棚が良くなっていく事も知っている。
けれど、書店は「今」営業しているわけであり、「今」売上を上げるために必要な知識とは、夏目漱石でもジェーン・オースティンでもなく、平野紫耀くんの所属グループ名であり、漫画アプリの週間ランキングであり、 毎日変わるSNSのトレンドをフォローする方法であるかもしれないのだ。
更に、書店員は幅広い分野の知識が必要とされるが、それは一人でカバーしなければいけないわけではない。
同じ店舗内に、ジャニーズに詳しい人、アニメに詳しい人、海外文学に詳しい人がいて、それぞれがそれぞれの武器を使って、売上を作っていけるのがチームの良いところなのだ。
その中のたった一人を捕まえて、自分だけの常識を押しつけてマウントを取った気になっているのならば、恥知らずもいいところだと思う。

⑥ビニールを破いて捨てないで下さい
これ、そんな事あるのと思われるかもしれないけど、本当にある。
コミックや付録が封入された本、一部の児童書などにはシュリンクと呼ばれるビニールがかかっていて、それは汚破損防止・立ち読み防止の目的があってかけられている。
もちろん、中を確認したいからと申し出てくれれば、ほとんどのお店ではその場で開封してくれると思うのだけれど、店員が捕まらなかったのか、破いたビニールが棚の後ろや下から出てくる事があるのだ。
これ、またまたスーパーで例えるならば、「このお菓子美味しそうだな、店員近くにいないしちょっと食べちゃえ、パクッ」というのと変わりないのではないか。
実際、開封する目的にもよるけれども、「自分が買った巻か確かめたい」とか「プレゼントしたいので中身を見定めたい」とかの理由であればだいたいオッケーなはずなので、レジの人間にでも申し付けて下さい。
ビニールが散らばっていると、それだけで万引きを疑わざるを得ないので余計な仕事が増え、更にビニールが外れた本が元の場所に収まってしまった場合、これも④の時と同じく、気付くのが遅れて商品価値が下がってしまう。
店員が少なくて探すのも大変なのは分かるけれど、こちらも人手不足で大変なので、どうかご協力願いたいところだ。

何というか、これだけ語ってもまだまだ語ってない事がある気がしてきて、うんざりしてしまう。
日本はモラルの国だとかマナーの国だとか言うけれど、本当にそうか? と疑いたくもなってしまう。
つくづく日本のサービス業、小売業の人間は頑張っていると思うよ。
もちろん、自分を含めて。

全ての小売店スタッフよ、幸あれ……。

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