第6回:デザインで人の行動を後押しするには
私たちDNPコミュニケーションデザインは、情報コミュニケーション分野において、常に新しいアプローチや手法を追求しながら、より効果的なコミュニケーションを実現するために努力をしています。
先日、私たちはサービスデザイン・ラボ(SDL※)の支援のもと「デザインシンキングをベースとした行動デザインワークショップ」を開催しました。このワークショップでは、参加者がデザインシンキングのプロセスを通じ、問題の解決策やアイデアを見つけ、行動デザインを実践するスキルを身につけられるように設計されています。
※SDLは、DNPの社内組織であり社内へのデザインシンキングや行動デザインの浸透、サービス創出を支援するデザインコンサルティングです。
今日はその参加者である企画制作ディレクターの山口さんに行動デザインについて、ワークショップを通じて感じたことを語ってもらいます!
それでは山口さんよろしくお願いします!
ご紹介いただいた山口です!よろしくお願いします!
私は入社3年になりまして、メディア企画制作ディレクターとして業務に従事しています。最近では、行動デザインに興味を持ち、その重要性について勉強しています。デザインシンキングは解決策を見つけるよりも本質的な課題を見つけることを重視した考え方で、行動デザインは、人々の行動を後押しするための手段であり、ビジネスや日常生活において大きな影響力を持つと考えているため今回のワークショップへ参加しました。そこでの学びを、皆様に記事を通じてお伝えできればと思います。
行動デザインとは
行動デザインとは、本人が“したほうがいいと思っていてもできていない行動”を、製品やサービス、環境のデザインを通じて支援する領域のことです。
行動デザインは世界中の大手企業で導入されており、その理由はビジネスが人々の行動に依存していると考えられているためです。ビジネスの成功には、人々の行動を理解し、最適なアプローチを考えることが欠かせません。この説明には私も納得しました。「この商品の良さを知ってもらい生活を豊かにしてほしい」「お客様の体験価値を向上させたい」等、多くの企業が抱えている課題は、結局は「人の行動」が重なった結果だと思いました。
行動デザインの重要な2つの要素
では、行動デザインではどのようにして「人の行動」を理解できるのでしょうか。行動デザインを実践する際に利用する重要な要素が2つあります。1つめは「認知バイアス」です。人々が情報を処理する際に合理的ではない判断や選択をしてしまう人間の脳のクセを「認知バイアス」と呼んでいます。
2つめは、認知バイアスを使って人が望ましい行動をとれるように支援するアプローチ方法である「ナッジ」です。インセンティブや罰則といった手段で行動を無理強いするのではなく、人が自発的に行動したくなうような仕掛けをデザインすることで、人の行動変容を促すのが「ナッジ」の特長です。
「認知バイアス」と「ナッジ」は学術的な根拠があるため、これらを利用して創出したデザインやアイデアは、得意先や上司に説得力を持って提案できると感じました。
ここで、行動デザインを活用した、なるほど!と感じた事例があったので紹介します!
これは2009年にスウェーデン、ストックホルムにあるodenplan駅で行われた有名なプロジェクトです。「どうやったら駅の利用者はエスカレーターではなく階段をもっと使ってくれるだろうか?」この問いに対して提案された、シンプルで分かりやすいアプローチ方法です。
画像の通りですが、階段をピアノの鍵盤に見立てて、階段を上がると音が奏でられるようにしたことで、多くの人がエスカレーターではなく階段を利用するようになったと言われています。これなら私も毎日階段を使いたい!と思いました。
健康のためにエスカレーターではなく階段を使おう!と無理強いするのではなく、階段を使うことが面白いと思わせ人の行動変容に成功したわかりやすい事例です。つまり、「やったほうがよい」よりも「やりたい」と思わせることが認知バイアスの一つなのだと感じました。
行動デザインの進め方
ワークショップでは、行動デザインについて実際に考える機会がありました。大まかなフローとしては、
①ターゲットとアクションの設定
②行動障壁診断
③アイデア発想
というステップを踏みます。
まず、ターゲットとアクションを明確に設定します。どのようなターゲットを対象にするのかを決め、そのターゲットの行動を具体的に設定します。そのためには、ペルソナを作成し、カスタマージャーニーマップを作成します。5W1Hの解像度をできるだけ高めることで、最終的なアウトプットの効果を増大させることができます。
次に、行動障壁となっている要因を分析します。人々が行動しない理由には、認知、反応、評価、能力、緊急度といった5つの障壁があります。これらの障壁を診断しながら、その原因を探っていきました。思いつく限りの障壁をポストイットに書き出し、それを5つのグループに分類することで、問題の本質や解決すべき障壁を分析できました。障壁を分類することは難しい作業でしたが、その過程で障壁が本質的にどのようなものかに向き合えました。
最後に、ナッジを活用してどのように行動を支援するかを考えました。ナッジは、認知バイアスを利用したアプローチです。解決すべき行動障壁に最適なナッジを選定し、それをアイデアの種としてデザイン案を考えました。DNPでは、さまざまな行動障壁に対応するためのナッジを独自にカード化しており、組み合わせ方や発想次第でさまざまなアイデアが生まれました。
ワークショップでの気づき~行動デザインを実践に活かすには~
今回のワークショップを通じて、思考の発散や手順に沿った考え方の重要性も実感しました。行動デザインでは、創造的な思考やアイデアの発散が求められます。自分の先入観や思い込みにとらわれず、多角的な視点で問題を捉え、様々な解決策を模索することが重要です。
また、行動デザインの手順に沿って進めることも重要です。手順に従うことで、重要なポイントを見逃さず、ユーザーの行動を観察して効果的なデザインを考えられます。正しい手順を踏むことで、アイデアやアプローチの質や効果が向上し、ユーザーのニーズや行動に合致したコミュニケーションデザインを提供できると思いました。
最後に
行動デザインは単なるビジネスの領域にとどまらず、私たちの日常生活でも活用できます。例えば、健康や環境意識の向上、持続可能な生活習慣の形成など、さまざまな課題を解決するために行動デザインを活用できると感じました。家族が洗濯物をかごに入れてくれない!ゴミの分別ルールを守ってくれない!など、日常生活における課題も行動デザインで解決できると思います。私自身も、日々の仕事に活用するだけでなく、楽しく生活するヒントとして行動デザインを活かしてみようと思いました。みなさんも行動デザインを、ぜひ一度試してみてください!
山口さん、ありがとうございました!
「やったほうがいい」よりも「やりたい」と思わせるなどの認知バイアスを活用しながらデザインやアプローチを発想し、ビジネスでも日常生活でも、さまざまな課題解決にぜひ行動デザインを役立てていただきたいと思います!
私たちはより多くの人々にこのワークショップ通じてデザインシンキングをベースとした行動デザインの重要性を広く認識してもらうために、セミナーやイベントの開催など、さまざまな形で情報発信を行っていく予定です。より創造的で効果的なコミュニケーションデザインを実現する手助けができることを願って。