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コラム Blender 5:本deドミノ奮闘記

 書こうと思いつつも、何故か暫く更新出来ていなかったnote。
 ようやく更新します。
 ただ連載中の小説をアップするにのには心のエンジンがまだ暖まっていない感じなので、手始めにコラム記事から(これも予告しておきながら続きが書けていないというやり残し感があったので)早速手を付けていきたいと思います。
 実は別件ですが、アドベントカレンダー用の記事を書くための練習も兼ねてます。
 さて、今回はAnigoAnimationネタの続きです。

 今から6年前の2015年7月12日、岐阜市が新しく建てた市立図書館(みんなの森 ぎふメディアコスモス)のこけら落としイベントとして「岐阜から世界記録に挑戦!本deドミノ」という立てた本でドミノ倒しの冊数を競うギネスチャレンジがおこなわれました。このイベントは日本人の本に対する価値観からネットで大炎上したことでもよく知られるイベントで、マスコミや影響力のある文化人などによって拡散され当時はかなり話題になりました。
 人生においてギネスにチャレンジするなんて事は、余程の事が無ければ普通の人は経験する事も無いでしょう。YouTuberのヒカルさんもギネスに挑戦した最近の動画で「殆どの人はギネス童貞」と言っていたので、炎上とかで色々辛いこともあったけど今となっては良い経験です。

 さて、ギネス挑戦のイベントの詳細や結果についてはインターネットに沢山上がっているのでそちらを見ていただくとして、此処では何処でも書かれていないインターネット生配信の為に作ったオープニングアニメーションについて述べたいと思います。
 元々、このイベントにおける私の役割分担は、イベント用のロゴマークのデザインとイベント公式サイトの作成と管理運営、FacebookやTwitterなどSNSでの告知などの仕事と、イベント開催当日の生配信の手配でした。
 ただ、私はDAICON3(天才監督庵野秀明を生み出した伝説の日本SF大会)の洗礼を受けてしまった世代です。イベント事となるとオープニングアニメーションというのがどうにも身体に染みついていてしまっているようで、必然的にオープニングアニメーションを作る事になっちゃったんです。

 しかし、オープニングアニメーションを作ろうと思い立ったのは、無謀にもイベントのほぼほぼ一ヶ月前! イベントの準備もかなり忙しくなってきている頃です。
 どういう形ならこの短い製作期間で成し遂げられるかを最初は真剣に考えました。今からキャラをデザインしてモデリングするには時間が無い。「そうだ!アリ物を利用しよう」と言うことで、AnigoAnimationの紹介ビデオに登場する女性キャラの『さゆみ』のデータを流用して、背景はイベント実働部隊のスタッフが撮影した図書館内のパノラマ写真を使って、それをバックにキャラを動かすという短期間で製作できそうな案を、アイスランドに住むAnigoAnimation CEOのヴィセンテ・カルロに示しました。

▲ AnigoAnimationのキャラ『さゆみ』
▲『さゆみ』のBlender Rigデータ


 ヴィセンテは時間も無いという事で、最初はその案に賛成してくれましたが、「ちょっと待て!コラボしてくれそうなスタッフを募る」と言い、以前ABC of AKARIのスピンオフ作品の『あかりの誓い - Akari No Chikai / The Oath of Akari - 』を作ろうとしていたデイヴ・クリストモ・ガドリナブというフィリピンでXygen CG Worksを主宰し活躍していたBlenderアーティストに声を掛けたのです。

あかりの誓い - Akari No Chikai / The Oath of Akari - より 

 彼は早速、インドネシアのアニメーター ライニル・コンバンやアメリカ在住のケイレブ・ミルズを招集し、この無謀とも思えるプロジェクトは動き出しました。 すると、デイヴは『さゆみ』のデータを使う事を反対し、新しく作ると言いだす始末。「えええ! 今から?!」って私は思ったのですが、彼は凄い勢いでキャラのモデリングに取り掛かかりました。 そしてMaya使いでまだBlenderに慣れていなかったケイレブも背景となる図書館の内部のモデリングをし始めたんです。 もうそうなると最初の簡単に作るという計画は吹っ飛んで、マジで大変な作業になるわけです。


■ メインキャラクター:早矢仕紗弓(はやしさゆみ)。。。
某市立図書館に勤めるちょっと謎めいた女の子。
「はやし」の別字「林」は、岐阜市の名前ランキングNO1の苗字。
「早矢仕」は福澤諭吉の門人で岐阜県出身の実業家「早矢仕有的」
(はやしゆうてき)から。あの有名「丸善」書店創始者。
ハヤシライスの生みの親。
岐阜排出の才人たくさんいますね!
岐阜市のショッピングモール「マーサ21」に
『丸善岐阜店』がありますが、
きっと何かのご縁ですね(笑)


 私は作業の進捗状況を報告出来る場所としてFacebookグループを作り、そこに彼等を招き入れ、メッセンジャーでチャットしながら作業を進めましたが、実際始めてみるとスタッフが世界中に散らばっていて、しかもそれぞれの国と日本では時差が有るので作業の進捗管理は思った以上に大変でした。
 早朝起きると監督のヴィセンテがアイスランドから、「アレはどうなっている? 図書館の資料が欲しい。手に入れられるか? ここが問題だが……」というメッセージがマシンガンのように届いていて、其れを処理しながら、出社して自分本来の仕事を片付ける。
 会社から帰るとフィリピンのデイヴから進捗のデザインやデータが届いているので確認する。彼等が忙しくて手が付けられない部分や、日本語の文字とかの魔方陣のアニメーション素材などは家族が寝静まった深夜に作成して彼等に送る。
 それ以外にもイベントサイトの記事の更新やスポンサーのバナー作成、SNSでの発信等、イベントのメインの仕事もしなければなりません。
 そんな毎日が一ヶ月間ほど続いたのです。

Here is some Japanese character (kanji).
If you make the magic circle of the first plot, please use these kanjis.
They express a theme and the policy of the library.

知 < chi > intellect; wisdom; cleverness; shrewdness
書 <sho>  book; note;  letter; somebody's writing(s)
連 <ren> bonds; ties
接 <setsu> pastern; connection; connector; thickening
愛 <ai> love
礼 <rei> etiquette; the proprieties; thanks; gratitude
承 <sho> succession; inheritance;  oral tradition; folklore
和 <wa> peace; harmony; japanese style

▲魔法陣の漢字とその意味についてスタッフに説明した内容

 という事で我々のアニメ製作は、途中で監督のヴィセンテのPCが壊れたり、レンダリングサーバーを構築しているフィリピンのデイヴの環境のネット回線が不安定で連絡が取りづらかったりと、様々なアクシデントにみまわれながらも、なんとか乗り越えながら作業は進みました。
 実際我々が採った作業手順は、多分の日本アニメスタジオの方式とは違うかもしれませんが、絵コンテ(プレビズと言うべきかも)をBlenderのグリースペンシルという手描きの描画機能でビセンテが描き込んだものをタイムライン上に並べて、それをアニメーションデータ化したものをベースに、モデリング担当のデイヴやケイレブが製作したデータをインドネシアのライニルがアニメーションを付けて確認しながら、本番のレンダリングデータと取り替えていく地道な作業が繰り返されました。
 音入れはこれも時間がなくて担当したヴィセンテも大変だったと思います。
 主人公の紗弓の声は、AnigoAnimationの紹介ビデオでナレーションを担当したアメリカ在住の声優さんのクリスティーン・マスさんが、とても急なお願いだったのですが、快く引き受けてくださいました。本当に嬉しかったです。紗弓が台詞を話す部分はとても短いシーンでしたが、彼女は素晴らしい仕事をしてくれました。

 そしてようやく出来上がったのがイベント当日の朝。まさにギリギリの完成。
 チェックしてると日本語のテロップの表示タイミングが若干長くて変だと気づきましたが、今更直して再レンダリングしている時間はありません。
 私はダウンロードしたデータをUSBメモリーに入れると妻と娘とイベント会場のメディアコスモスに急ぎました。
 会場には本を並べる為の多くのスタッフと自分たちの手配したインターネット生中継配信クルーの他に、NHKと民放各社のテレビ局のアナウンサーやカメラマン、そして多くの新聞記者達が集まっていました。
 そんな環境下で、緊張しながらギネスチャレンジのスタートの準備をするイベントスタッフの皆さんは半端なく大変だったようです。
 私はオープニングアニメーションのデータを配信スタッフに無事渡すと、それまでピーンと張っていた緊張が一気にとれて、その場に座り込みたくなったのを今でも憶えています。

■アニメーション:本deドミノとは
2015年に岐阜市に新たに建設された新しい市立図書館「みんなの森メディアコスモス」の誕生を記念して、岐阜からも世界記録に挑戦してみようということで古書によるドミノ倒しのイベントが開催されました。
そのイベントのインターネット生中継の際のオープニングアニメとして、私たち兄御アニメーションと、コラボレーターとして私たちががクラウドファンドでチャレンジしたABC of AKARIのコンセプトを引き継いてスピンアウト作品「あかりの誓い」で同じくクラウドファンディングにチャレンジし惜しくも目標額未達に終わったDave Crisostomo Gadrinab率いる「XYGEN CG WORKS」がタッグを組んで完成させた作品です。

■ストーリー
 図書館職員の女性(早矢仕紗弓)は、ちょっと不思議な女の子。閉館後の図書館で彼女が本の整理をしていると突然、本棚の本たちが騒ぎ始めます。そして本たちは本棚を飛び出して、彼女に向かって飛んできまて彼女の背後で整列します。す。彼女が呪文を唱え振り返ると次々と本がドミノ倒しのように倒れていきます。それはまるで人と人とが手をつないでいくように。本に書かれた知識は人々を繋いで未来に希望のあかりを灯します。

■データ
制作スタッフ
AnigoAnimation
監督/VFXスパーバイザー:ビセンテ・カルロ
制作総指揮:玉越正樹
声優(早矢仕紗弓 役):クリスティーン・マス
Xygen CG Works
キャラクターデザイン/モデリング主任:デイヴ・クリストモ・ガドリナブ
リグ/アニメーション:ライニル・コンバン
モデリング:ケイレブ・ミルズ

 とまあ、作業時間がなくてかなり産みの苦しみでしたが、完成した作品には愛着があります。
 今後何かの機会があったらこの主人公の紗弓でなにか、例えば『早矢仕紗弓と魔法図書館』『図書館員 早矢仕紗弓の事件簿』みたいなちゃんとした物語のアニメとかにいつか発展出来たらいいなぁって思います。メディアコスモスさんそういうアイデア如何ですか?欲しくないですか?(笑)

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