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「世間話」というリハビリ

梅雨入りしましたがどうにも肌寒い日が続きます。
気温の変化に注意しつつアジサイの美しさを楽しみたいですね。

今回はとある患者さんの話をしたいと思います。

内臓の病気で手術をされたんですが、なぜか症状が治まらず発熱・解熱を繰り返されていました。

30代の女性でまだ小さなお子さんがいるとのこと。

退院のメドがつかない中で時間が過ぎていき、入院から一ヶ月ほどが経っていました。

先行きが見えない不安となかなか良くならない苛立ちで精神的にもかなり参っている様子。


私は担当ではなかったんですが、ある日担当の代わりとして伺うことになりました。

正直、どういう風に関わればよいのか悩みました。

小さな子どもがいる中でなかなか良くならず、先も見えず…ということの辛さは痛いほど共感できます。

ですが、異性でもあり単なる「共感」というスタンスも今ひとつしっくりこない。
(母親として感じることと自分の感覚は質的な違いがあるように思います)

あれこれ考えつつお部屋に伺うと青白い顔で「熱は下がったんですけど寒気がする…」と言います。

そして「リハビリ…何するんですか?」と。

「ずっと横になっていて身体も辛いと思いますし、少しほぐせたら…と思って伺いました。夕方頃もう一度顔を出すのでもし寒気が治まっていたらその時考えましょう」とお伝えして一旦下がりました。

その時思ったこと。

それは「今日のゴールは『ちょっとでも笑えること』にしよう」ということ。

短時間ですがお話をして、大体の雰囲気がつかめました。

やはり長い入院による焦り、苛立ち、疲れ…を感じましたし、初めて会う私への警戒感も感じられました。

だからこそ少しでも「ほっ」としてもらえたらいいな、と思ったのです。

なのでひたすら「取るに足らない話」をすることにしました。


再訪すると寒気は落ち着いたようです。

「リハビリ、やってみようかな…」というわけで廊下の窓際で軽体操を中心に行ったのですが、ひたすら「取るに足らない話」をし続けました。

いわゆる雑談です。

なかなか食事が食べられなくて…という話から好きな食べ物の話、オススメのお店、回転寿司のおもしろいサービス、ローカルトーク…。

もちろんご本人のペースに合わせてですが話し続けます。

するとみるみるうちに顔が明るくなっていくのが分かります。

ご自分からお子さんの話もしてもらえました。

同じ子育て世代として共感できることが多々あります。

あっという間に時間が過ぎてお別れしました。



その後、順調に発熱頻度は減っていき、元気に退院されました。

発熱が続いた時とは別人のようです。

担当のスタッフから後日、「あの時、なんてことない話ができてとても心が軽くなりました。ありがとうございました。」との言葉をいただいたと教えてもらいました。


身体のトレーニングをすることだけがリハビリではないのです。

何気ない会話が患者さんを癒せることもある、ということを改めて学びました。

もちろん私の関わりはごく一部です。

それでもその方の重荷を少なからず減らすことができたのではないかと思います。

それだけ言葉や会話の力は大きいと思っています。


ただ会話するだけではなく、様々な情報を集めながら治療的効果を意識して会話していく。

「世間話」というリハビリプログラムもあるということです。

思い込みを外してフラットな目を養うといろんなものが見えてきますね。

会話という何気ない日々の行為が持つ力、ぜひ改めて意識してみてください。

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