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家具の修理の現場から

たまには家具修理の様子を。若輩ですが、時折私なりの解説なども挟みました。
写真多めです。どうぞ気楽にご覧下さい。

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今回お客様より、椅子の座面ペーパーコードの張り替え修理依頼を賜りました。ペーパーコードに破れは見受けられませんが、だいぶ汚れています。このペーパーコード、一説には洗うことも出来るらしいのですが試したことがありません。張り替えを依頼頂いたお客様の椅子で試すわけにはいきませんよね。よし張り替えましょう!その前に、ウェグナー?ちょっと判りません

はじめに

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観察&考察をしていきます。
座面を外して裏を見てみると大手インテリアショップが輸入販売元のようです。まあそれはさておき、観察するとなんと結び目が2個しかない。(見えないところに結び目が一つ隠れていたので結び目は計3個でした。後述します)
そして終点はタッカーで留められています。普段私は、このエンベロープ編みの終点は結束して終わらせていて、釘やタッカーを使うこと自体はもちろん何も問題ではないのですが、まぁこれはどちらでも良いか。やり易い方でやろうと思います。問題はそう、結び目の数。結び目が3個しかないというところが大問題…これは真似できないなと思ってしまいました。
というのも、もちろん長いコードを使って巻いていけば物理的には不可能なことではないのですが、とても非効率なんですよ。手間が掛かる。

分かり易い動画をインスタグラムで保存していたので貼ってみます。参考に

動画が始まり、作業をしているお兄さんがフレームにコードを掛けながら手前から椅子の背後へ廻っていきます。そしてそこで”するする”とコードを抜いていくシーンがありますね。一瞬なのでまばたき厳禁です。
長さのあるコードを周回に巻いていくとフレームにコードが絡まって身動きが取れなくなってくるので、一定のタイミングでこのようにコードを送って絡まりを解消していく必要があります。これが、コードが長いその分だけ積もり積もって結構な手間になってくるのです。

ちなみに、私の場合は手のひらにコードをぐるぐると約50回分を巻いた長さに切ってから椅子に巻いていき、足りなくなったら切って結んで巻いて、また切って結んで巻いてを繰り返していきます。
手のひら一周の長さ=短くみても20㎝×50回巻き=約10メートルを1セットとして、例えばYチェア1脚を編み込むのに、なんとこれを10セットほど使います。そう100メートルは使うんですね。
で、100メートルを編むのに結び目がたった3つ、つまり4本のコードだから4で割ると1本約25メートル。プールの長さです。これを絡まらないように”するする”と何度も何度も送っては巻いて、送っては巻いて。もう考えただけで日が暮れるような気がしてきます。

さて、この結び目が少ないことになにか意味があるのかないのか。確認のためにも座面を破ることはせずに逆再生。ほどいていきました。
(ちなみに私はまだまだ経験不足のため、初めての椅子は同じ編み方でも必ずほどくようにしています。逆再生をすることで再生していくイメージを叩き込む。実は注意しないといけないことが、もしかしたら潜んでいるかもしれませんしね。)

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写真右下のぐるぐる巻きが私の手のひら約80巻き。上は40巻きほどでした。参考に。

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始点に到着。始点もタッカーで留められていますね。

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逆再生をした結果、まあ普段通りの編み方で何も問題なさそうでした。なんであんなに長いコードで巻いていたのだろうという疑問だけが残りました。それはそれでたぶん凄いことなのですが。

話は逸れますが、さっきの動画のお兄さんが凄いですよね。作業が早い。私はあの15分の1くらいのスピードだと思います。そしてカールハンセンのTシャツ欲しい。格好良い。
EVERY PIECE COMES WITH A STORY
背中で語るあの感じが良い。ずるい。欲しい。

作業の前に

今回の依頼は座面の張替だけですが、特に座面内部は編み直す前のこのタイミングでしかお掃除出来ません。また、折角新しく張り直しても汚れが移ってしまってはもったいない。ので(もちろん事前にお客様に許可をとって)綺麗にしていきます。

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ビフォー。コーナーの黒光りが汚れです。

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アフター。材や塗装を傷めないように表面の汚れだけ落としました。

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こんな感じで座面全体を綺麗に整えておきます。汚れを落とした後に蜜蝋ワックスで木部の保湿ケアだけして、乾燥させている間に、本体のお手入れもしていきましょう。

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特にアームの下など、手で触れるポジションは汚れています。ビフォー

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アフター。

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反対側も。

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アフター。

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座面の横も結構触るんですよね。

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アフター。

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普段は目につかないけどよく触るところ。背凭れの裏側やアームの裏側。

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アフター。(しつこくてすみません)

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で全体落とせる範囲の汚れを落として、こちらもワックスだけかけておきました。汚れの量はウェスを見れば一目瞭然。

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折角なので後ろ姿。綺麗になると気持ちが良いです。

作業開始

座面が乾いたところで、ようやく作業を開始。編みはじめます。

実はYチェアのように座面が椅子本体と一体になったタイプしかこれまで作業をしたことが無く、座面がこのように独立したタイプは初めて。
この場合、座面を固定するような治具を用意したほうが良いのでしょうか?
最初、この座面を抑えながら編むことに力の入れ加減が判らず、4周目くらいで握力が馬鹿になりました。編み方が気に入らなかったので一度解いてから仕切り直し。コツが判ってきました。

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1セット巻きオワリマシタ
オモテ

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ウラ
ちなみに左にある結び目がコードの始点です。FDBモブラーの昔の椅子なんかではこのようにフロントにコードを巻いて結び目を作って固定し、始点にしているんですよね。ヴィンテージ家具を扱っていると、常に手本が目の前にあるので勉強になります。先人たちから常に色々なことを教えてもらえる。これが何よりも楽しいのです。

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仕上がり後に目立たない位置で、コードを結んでいき、作業再開。

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コード4セット使い終わったところ。だいぶ形が出来てきました。

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話がまた逸れますが、この革手袋はこの2年の間で既に3代目なのですが指先はもう破れています。黄色い建築用のマスキングテープで補強してずっとごまかしていたのですが、今回から下に軍手を着用。二重手袋は最強です。とても作業がし易かった。でもそろそろ買い換えよう。

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横方向の編み込みは終わりました。

またまた余談ですが、座面を周回に巻いていくこのエンベロープ編みという技法は、辺の長さによって編み終わりのデザインが変わります。
縦横4辺の長さが同じ正方形の座面であれば周回数が等しくなるため、対角の編み目ラインが最後は中心で交差して『X』の形になります。
こちらは縦巾よりも横巾の方が長い長方形のため『>ー<』こんな感じになります。顔文字みたいですね >-<

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ウラの編み目もガタツキがないか、時折確認することが大切です。

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で最後は前から後ろ、後ろから前、と縦方向に編んでいきます。中心に段々とこんな風に『-』が出来ていきます。

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あと少しなのに、長さが足りなかった。コードをちょっと追加。

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で完成です。

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ウラ。終点は結束して終わらせました。ノータッカーノー釘仕上げです。
左の結び目が少し目立ってしまいましたが、他はうまく隠せたと思います。

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座面をセッティング

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最初の写真と比べると格段に綺麗になりました◎

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後ろ姿。あまり意味はないのですが折角なので。

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このコードとの際の部分が、編み直した後ではお手入れも難しいので、やはり最初に木部を綺麗にしておいてよかったです◎

最初にコードを解いていくところから、合間合間の作業で2日。実際の作業自体はおよそ5時間ほどで終わりました。
お付き合いいただきありがとうございました。お疲れ様でした。

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早速お客様にも連絡をして引き取りに来ていただきました。仕上がりや座り心地にも納得頂けたようで一安心。そして追加の椅子が到着です(右)
全部で4脚あるそうなので、週1脚ペースで入れ替えながらコツコツと進めてまいります。

以上、家具の修理の現場から、作業の様子をお届けしました。