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新作映画『ジャングル・クルーズ』レビュー

皆さんは、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)を初めて映画館で観たときの興奮を覚えているだろうか。大海原を駆け巡る海賊たちの大冒険、そしてキャプテン・ジャック・スパロウやキャプテン・バルボッサをはじめとする魅力的なキャラクターたち。さらにはディズニーランドの名作アトラクションが原作ということで、牢屋で鍵を加えた犬や「ヨーホーヨーホー」のあの曲など、アトラクションの名場面が散りばめられた夢のような映画であった。あれから18年、またもやディズニーランドの名作アトラクションのひとつジャングル・クルーズから生まれたアドベンチャー大作がここに誕生した!


【ストーリー】

ロンドンに住む植物博士のリリー(エミリー・ブラント)は、アマゾンの奥深くに眠る不老不死の力を持った奇跡の花を追いかけている。英国冒険協会をはじめほとんどの人には"そんなもの伝説だ"と笑われ、しかも20世紀初頭の社会においては女性の学者というだけでまともに話しも聞いてくれない。孤立無援な中、持ち前の知恵とスキル、そして弟のマクレガー(ジャック・ホワイトホール)の協力を得てリリーは重要な手がかりを手に入れる。そのまま弟と共にブラジルへと渡り、奇跡の花を求めてアマゾンの川を探検するガイドとして観光クルーズ船の船長フランク(ドウェイン・ジョンソン)を雇うことになる。しかしリリーには、世界を支配するために奇跡の花を欲しているドイツ帝国の王子ヨアヒム(ジェシー・プレモンス)、そして大昔に奇跡の花を求めた結果ジャングルの呪いにかけられた不死の男アギーレらの魔の手が迫っているのだった。


【レビュー】

夏休みにふさわしい、笑いながらも手に汗握るアクション・アドベンチャー大作。主人公リリーがとにかくかっこよく魅力的。立ちはだかる恐ろしい悪役たちもいるし、相棒には制服がピチピチなドウェイン・ジョンソンがいる。ジャングルの奥深くに隠された奇跡の花というロマン、その壮大さに謙虚にならざるを得ない大自然の脅威。迫力の映像と、冒険心を盛り上げる音楽。娯楽作としての要素をもれなく詰め込んだ快作だ。

監督を務めたのはジャウム・コレット・セラ。これまでに『フライト・ゲーム』(2014)、『トレイン・ミッション』(2018)をはじめリーアム・ニーソンと4度もタッグを組んだり、ブレイク・ライブラリーを主演に迎え『ロスト・バケーション』(2016)を撮ったアクション・スリラー映画の名手だ。ファミリー向けなディズニー映画への抜擢は意外に思えたが、テンポの良いアクションシーンは過去作を思わせる。次回作は、再びドウェイン・ジョンソンとDCコミックの『ブラック・アダム』で組むということなので、今後の注目監督であることは間違いない。

アクションについて触れると、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズを意識したところが何箇所か見受けられる。躍動感とユーモアが合わさり、身体を張ったアクションがとにかく楽しい。かと思いきやドイツの潜水艦とのバトルシーンという、元のアトラクションからは考えつかないような奇想天外な見せ場まで取り入れてくるから、目が離せない。ドウェイン・ジョンソンは他の出演作ほどの大暴れはしないが、エミリー・ブラントのパンチを喰らう場面が最高だった。そう、本作においてドウェイン・ジョンソンはアクションも演技も受けに徹しており、主人公リリーを輝かせるというなかなかに良い仕事をしている

主人公リリーを演じるのは、エミリー・ブラント。ディズニーの世界にはすでにメリー・ポピンズとして登場済みだが(『メリー・ポピンズ リターンズ』2018)、ディズニーの最強の切り札であるアトラクションの実写化で再びお声がかかるということは、今やハリウッドで1番のスター女優である証勇敢で前向き、知恵とスキルでピンチをくぐり抜けるヒロイン役を期待以上の好演。イギリス人らしいシニカルなエッセンスも加えつつ、茶目っ気たっぷりに演じており、まさに大成功のキャスティングだ。

キャストでもう1名、紹介しておきたいのがヨアヒム王子だ。

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演じているのはジェシー・プレモンス。なんとまだ33歳でありながら、近年幾多の名監督らに重宝されている名バイプレイヤーなのだ。ポール・トーマス・アンダーソン監督『ザ・マスター』(2012)では、本当に親子なのかと思うほど外見がそっくりなフィリップ・シーモア・ホフマンの息子役で強烈な印象を残している。昨年はチャーリー・カウフマン監督・脚本『もう終わりにしよう』(2020)で主演を務め話題になった。そんなアート作品からメジャー大作までこなしてきた彼が、なんとディズニー映画で気が狂ったドイツ帝国の王子というクセのある役柄で実力発揮。きちがいすぎて大爆笑ものなので、ぜひ本作をきっかけに名前と顔を覚えてもらいたい。ちなみにマット・デイモンのそっくりさんとも呼ばれている。


ディズニーランドのアトラクションの実写化ということで、そこからの引用もたっぷり楽しむことができる。まずは何と言っても、フランク船長のクルーズ案内シーン。アトラクションの名物と言える船長さんのダジャレ混じりのトークをドウェイン・ジョンソンが再現してくれる。あの滝の裏側まで登場してくるのでお見逃しなく。そして先住民のセールスマン・サムも、映画のストーリーに合わせた設定で登場。さらには後半の洞窟に進んでいく場面も、まさにアトラクションのクライマックスと同じ雰囲気を醸し出しており、アトラクションへのリスペクトが全編を通して感じられる

音楽を担当しているのは名匠ジェームズ・ニュートン・ハワード。存命の映画音楽家の中で一番の職人だと筆者は思っているのだが、本作に提供しているスコアもとにかく素晴らしい。ハンス・ジマーが作った『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマ曲のように、誰もが口ずさむようなキャッチーさはないかもしれない。しかし、映画の世界観を演出する効果は抜群で、サントラを聴くとまるでクラシック音楽のようにクオリティが高い。音楽が先走るのではなく、映像と合わさって世界観を構築したり、登場人物に寄り添うのが映画音楽の醍醐味なんだということをいつも教えてくれる。ぜひ映画館の音響で聴いてほしい音楽だ。


最後に、今回製作も兼任しているドウェイン・ジョンソンの本作品にかける思いについてご紹介したい。元々ディズニーランドの大ファンであった彼は、パークのアトラクションに対してかなり愛着があったようだ。ディズニーが初めてアトラクションを実写化した『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の公開が2003年。映画館で鑑賞したドウェイン・ジョンソンはとても感動したらしい。プロレスラーから俳優業に転身し、初主演を務めた映画『スコーピオン・キング』の公開が前年の2002年。彼は、これから着実にキャリアを積んで努力を怠らなければ、いつか自分も憧れのディズニーのアトラクションの実写化作品に出演することができるかもしれないと、密かに夢を抱き続けた。その後のハリウッドスターとしての活躍はご承知の通り。そして2015年、ディズニーが本作の製作を発表しドウェイン・ジョンソンが主演に就任する。子どもの頃からの憧れ、そして俳優業に転身したばかりの頃に観た『パイレーツ・オブ・カリビアン』に影響を受けずっと目標にしてきた夢を実現させたのだ。彼ぐらいの知名度があれば、我々からしたら簡単なことに思うかもしれない。しかし自分への約束を果たしたことは尊敬に値するし、見習うべきことだろう。おそらくディズニーとの関係を良好にするために、プライベートのスキャンダルや騒動にも気を使ってきたに違いない。そしてつい最近、『ジャングル・クルーズ』の続編製作にGOサインが出たというニュースが飛び込んできた。ぜひ今後の動向に期待したい。


【おすすめしたい人】

ディズニーランド好き

ディズニーランドに行った気分になりたい

アドベンチャー映画が好き

現実を離れて映画の世界に飛び込みたい

かっこいいヒロインの活躍が見たい


トップ画像引用:<a href="https://pixabay.com/ja/users/heibe-1753551/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=1417102">Heiko Behn</a>による<a href="https://pixabay.com/ja/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=1417102">Pixabay</a>からの画像

文中画像引用:https://www.ramascreen.com/new-posters-and-dueling-trailers-for-disneys-jungle-cruise-starring-emily-blunt-and-dwayne-johnson/jungle-cruise-jesse-plemons-2/

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