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〔翻訳考〕 山崎豊子『二つの祖国』より

〔翻訳考〕 山崎豊子『二つの祖国』より

山崎豊子さんの小説に『二つの祖国』という作品がある。太平洋戦争の際に収容所に収容された日系米国人たちの悲惨な処遇、日米開戦から日本進駐、東京裁判までの運命を描いた作品である。

この作品の主人公・天羽賢治(あまは けんじ)は米日言語間の通訳を行う語学兵として太平洋戦線に従軍し、日本の降伏後は東京に駐在して極東軍事裁判の「言語調整官」という役職を務めることになる。これは、裁判を通して裁判官、検察官、

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〔読書評〕パウロ・コエーリョ 『アルケミスト ー夢を旅した少年』

〔読書評〕パウロ・コエーリョ 『アルケミスト ー夢を旅した少年』

ブラジル作家パウロ・コエーリョの冒険記。スペイン・アンダルシアの羊飼いは何度も夢をみた。はるかエジプトのピラミッドの元に隠された宝があると。ジブラルタル海峡を超えた羊飼いはアラブ人たちの世界へと入り込む。クリスタル商人の元で住込奉公し、隊商に加わって砂漠を越え、オアシスでは長引く部族間抗争に巻き込まれ、ついにエジプトへ。
西欧文化圏の人が異国趣味で書いた作品かと思いきや、マグリブやイスラムの書き込

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〔読書評〕水上勉 『雁の寺・越前竹人形』

〔読書評〕水上勉 『雁の寺・越前竹人形』

京都の相国寺を散歩していたら境内に瑞春院という支院がありました。
ここは作家の水上勉(みずかみ・つとむ)が修行をしたお寺です。

表題作の『雁の寺』は水上自身の瑞春院での修行生活を元にした作品とされているようです。
禅寺の厳しい作務(さむ)と、お坊さん(昔の京都弁では独特のアクセントで「おっさん」と呼んだようです)たちの堕落が描かれています。
少年僧・慈念の猟奇的な自虐や恩讐が凄まじい一方で、それ

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〔読書評〕水上勉 「越後つついし親知らず・はなれ瞽女おりん」

〔読書評〕水上勉 「越後つついし親知らず・はなれ瞽女おりん」

この短編小説集は鮮烈だった。

表題作「越後つついし親不知」は新潟から京都に出稼ぎに出た労働者たちの物語。
生の淵源を突きつけるような迫力が胸に迫る。
けれども何か温かい感情が湧きつづける不思議な作品...

「桑の子」は作品名からは想像もできないくらい凄絶だ。
牧歌的ながらまったく牧歌的ではない残酷な農村生活の一面が描かれている。

この作品が"妙"なのは語り部を「桑の子」の幼馴染にしていること

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〔読書評〕海音寺潮五郎 『蒙古来たる(上・下)』

〔読書評〕海音寺潮五郎 『蒙古来たる(上・下)』

海音寺潮五郎 『蒙古来たる(上・下)』

これは鎌倉時代の元寇のお話です。
この作品が普通の(?)元寇の話と違うのは、異国のキャラクターや地誌がふんだんに登場するところです。
元に滅ぼされたホラズム王国(現イラン)の王妃とその家臣団が日本に潜伏しているとか、
ロマ(ジプシー)の旅芸人たちが京都や東海道でも活躍していたという設定です。
また元の内情を探るために御家人たちが中国の寧波港に渡るシーンでは

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