見出し画像

夢の終点

1(夢)

最近、同じ夢を見る。同じ光景、同じ匂い、同じ空間、見慣れた空間、そうだ、ここはバスだ。バスの車内。私が普段、学校への通学に利用する市営のバスだ。やけに薄暗いのは夢だからだろうか。毎日毎日、壊れたビデオテープが繰り返し再生されるのを眺めるような退屈を過ごさねばならない、通学時の私の陰鬱が投影されでもしているのだろうか。

現実世界で利用するバスはいつでもうんざりするほど混んでいるが、夢の中では常に乗客は少ない。私を含めても6人、その顔ぶれも変わらない。どこにでもいるような中年男性、サラリーマンや学生らしき女性、車椅子に乗ってる人もいる。

席は空いているのに誰も座ろうとしない。誰も目を合わそうとしない。スマホを触るでも、音楽を聴くでもなく、ただじっと立っている。ただ静かに揺られている。夢というのは何故こうも不気味で異様な光景なのだろうか。せっかく夢の世界なら明るくキラキラした魔法の世界にでも連れて行ってくれればいいのに。

2(現実)

その日は隣町まで来ていた。好きな作家の新著の発売日だが地元の小さな書店では取り扱っていなかった。目当ての本を買うついでに、目を引くタイトルや鮮やかな表紙の本を手に取りパラパラとめくる。何度か電子書籍も購入したが、左手の指先に触れる頁数が少なくなっていくにしたがって物語がクライマックスに向かっていく、結末に向かって行く、その手触りが離れがたく、未だに本は紙のものを買うことが多い。最近は服も本もネットで買うことが多いが、たまにこうして書店に足を運ぶと思いがけず自分好みの本と巡り会うことがある。

この日もそんな出会いを期待しながら、淡いブルーの表紙に溶け込んでしまいそうな白字でタイトルが刷られた文庫本を手にした時だ。視界の端に1人の女性の顔が映った。見覚えのある顔だ。だがすぐ視線を手元の本に戻した。元々、外出先で知り合いとエンカウントするのは嫌いだ。相手が気付いていなければ、気づかれる前に身を隠す性分だ。だがこの時は違った。妙に気になった。どうやら相手は自分を気にしてはいない。詩集らしき本に熱心な視線を注いでいる。違う本を物色する風を装い、本を棚に戻しながらそっと彼女の顔を窺った。

思い出せない。たしかに見た顔だ。それも最近見た顔だ。長い黒髪、色白な肌、印象的な黒縁の眼鏡はかなり度が強いのだろう、レンズ越しに見える本棚の枠は大きく歪んで見えた。

まじまじと観察し過ぎたか、視線に気付いたように彼女は顔を上げた。ひやりとしたが一瞬だけ不可解そうに眉毛を傾けただけですぐに視線は戻された。彼女は私を知らないようだ。

不意に思い出した。バスだ。夢の中のバス。あの薄暗いバスの車中で私は彼女を見た。同じ顔だ。間違いない。どうして夢の登場人物が現実世界にいるのかはわからないが間違いなく私の夢の中のバスで、項垂れるように立ってる乗客の一人と全く同じ顔の女性が今私の前にいる。

3(現実)

気付けば「安藤」と表札の掛かった家の前に私は立っていた。強烈な押し止めようのない好奇心が私を動かしていた。人生初の尾行は存外簡単だった。思えば他人に無関心な今の世の中だ。誰しもが移動する時には無駄に高いノイズキャンセリングのイヤホンを装着して外界との交流を拒んでいる。まさか自分が尾行されているなんて、夢にも思わないだろう。

4(現実)

安藤という女性の尾行を始めてから1週間が経った。とはいえ、一日中彼女を見張っていられる訳ではない。平日の日中は学校があるし、毎晩家族の目を盗んで家を抜け出すのも容易ではない。1週間を費やして得られた情報は彼女の名前が安藤小百合であること、出版社に勤めていること、非常に規則正しい生活を送っていること、程度の事だった。今夜も特に変わった動きはない。好奇心に突き動かされ、こうして彼女の様子を探ってきたが、何故会ったこともない人物が夢に出てくるのか未だにわからない。しかしそれでもこれは偶然ではないと私の直感が語りかけている。必ず何か意味がある。

5(夢)

その夜、また夢を見た。同じ夢。同じバス、同じ顔ぶれ、変わらない光景。ただ静かにバスに揺られるだけの無の時間、いつもと同じように夢が覚めるのを漠然と待っていたその時、聞き慣れた音が静寂を裂いた。ピンポーン、と。目を上げると安藤小百合が「次、停まります」のボタンを押していた。そして一瞬だけ私の方を見た。私はバスの前方へ目を向けた。現実のバスでは次の停車駅が表示される電光掲示板には「安藤小百合」と書かれた文字が鈍く光っていた。

私は目を覚ました。背中にはじっとりと汗をかいている。枕元に置いていたスマホのボタンを押すと見慣れたホーム画面には2:51と数字が表示されていた。嫌な予感はしたが、所詮夢だ。そう言い聞かせ無理矢理に目を閉じた。しかし眠気が再び訪れることはなかった。

6(現実)

私は再び「安藤」という表札の前に立っていた。インターホンに手を伸ばし、躊躇う。時刻は既に3時半を過ぎている。もし、何事もなく寝ていたとして、私のインターホンで目を覚まし、彼女が出てきたら私は何と言い訳をしたら良いのか皆目検討もつかない。彼女は私の顔も名前も知らないのだ。やはり明日、改めて様子を見に来よう、そう思い直し踵を返したその時、かすかに、ほんの微かに水音が聞こえた。

玄関の右奥からだ。彼女を張り込んでいた時、覗きまがいな事をしながら確認した彼女の家の間取りを頭の中で思い浮かべていた。浴室だ。音は確かに浴室のある方から聞こえる。お風呂に入っているのだろうか。有り得ないことではない。しかし規則正しい彼女の生活を思えば違和感を拭えない。嫌な予感はほとんど確信に変わっていた。私は音を立てないようにそっと玄関の右奥へと回った。僅かに空いた浴室の窓から明かりが漏れ、微かに湯気が立ち上っている。今度は躊躇わなかった。窓を開けて中を伺うと紅く染まった浴槽の中に右腕を浸した安藤小百合がそこにいた。彼女の左手にはカッターが握られていた。

7(現実)

幸い発見が早かったおかげで、すぐにでも退院ができるということだった。私は病室で安藤小百合と向かい合っていた。彼女は何も話さなかった。私がどこの誰なのか。何故、あの時間あの場に私がいたのか、聞こうとはしなかった。ただしばらく私の顔を眺めた後、窓の外をじっと見つめているだけだった。

どのくらいそうしていただろう、お互いが沈黙し合うだけの時間は実際よりも長く感じられた。立ち上がり、その場を離れようとした時だった。彼女は窓の外に目を向けたまま口を開いた。

「裏切られたの。」

答えに窮し、沈黙していると、彼女は続けた。

「結婚の約束もしてたのにね。急にいなくなっちゃった。」

どうやら自殺の動機は恋人との別れらしい。だが私にかけられる言葉などない。将来を誓い合う恋仲など私にはいないし、生に絶望した人に説く希望も私は知らない。

私は黙って病室を出た。

8(夢)

見渡す限りの草原。その向こうには海が広がっている。潮風が心地いい。気の向くまま歩を進めると色鮮やかな薔薇が咲き乱れる庭園が見えた。赤、桃色、淡い橙色、花弁の先と根元で美しいグラデーションを描いているのも目を引く。しばらく歩いていると青いベンチが見えた。少し休もうと思い近づくと先客がいた。5,6歳だろうか。あどけないが美しい顔立ちをした少女が座っていた。

「隣、座ってもいい?」私が声をかける。少女は私を見るとにっこり笑って頷き、少し横に詰めてくれた。「どこから来たの?」少女は答えない。「パパとママは?」聞くと彼女は少し悲しそうに微笑んだ。

「助けてあげて」

「え?」聞き間違いかと思い、もう一度彼女の言葉を促した。

「助けてあげて」少女は言った。

「誰を?誰を助けたらいいの?」少女は儚げな微笑みを浮かべたまま答えない。もう一度彼女に問いかけようとするが、私の声は何かに掻き消されて届かない。さざ波が大きな波にのまれて消えるように、けたたましい何かが私の声をかき消してしまう。

私は目を覚ました。枕元で鳴るスマートフォンのアラームは普段よりも騒々しく思えた。

9(現実)

放課後に安藤小百合を訪ねた。もう退院してるかと思ったが、安藤小百合はいた。詳しい事はわからないが、カウンセリングなどを受ける必要があってとどまっているのかもしれない。何を話したらいいのか、あるいは何を話すべきなのか分からないままに訪ねた。彼女は静かに寝息を立てていた。見舞いに果物を買ってきていたのでそれだけ置いて帰ろうと思った。窓際の彼女のベッドの脇には薄型テレビが載った小さな勉強机のようなものが設置されていたのでそこに置こうと近寄った。

机の上には彼女のものと思われるケータイが乗っていた。端に寄せて果物籠を置こうとケータイに触れた時だった。彼女のケータイが震えて画面が明るくなった。何かの通知が来たのだろう。覗き見るつもりなどなかったが、丁度触れようとした時だったので、画面が目に入った。別れた恋人とのツーショットらしき写真が待ち受けに設定されており、余計に見るべきではないと目を逸らした。だが何かが引っかかった。

−既視感。そう、既視感だ。

今度は意図的に彼女のケータイを見た。仲睦まじそうに顔を寄せ合っている男女。女性はもちろん安藤小百合だ。その左にはよく日焼けした血色の良いスポーツマンタイプの男性が写ってる。やや茶色い短髪が体育会系の雰囲気を醸している。

そして、やはり私はこの男を知っている。
この背中を走る戦慄は初めてではない。二度目だ。私はこの男と全く同じ顔をほとんど毎晩夢の中で見ているのだ。

10(現実)

目を覚ました安藤小百合は私を見ると少し驚いたようだった。私は見舞いに果物を持ってきたので良かったら食べて欲しい、というような事を伝え、それに対し彼女は小さくありがとう、と呟いた。何をどこから切り出したものか思案していた。夢の話など信じてもらえるだろうか。私は逡巡し、意を決して彼女の目を見て言った。

「貴女の恋人を探せるかもしれない」

彼女のケータイに映ってる男は快活そうで見るからにスポーツマン、という印象だった。しかし、私が夢で見る彼は車椅子に乗っているのだ。写真よりも痩せ細り、額や腕に包帯を巻いている。そしてよくよく思い返してみれば、夢を見始めた頃よりも、最近の方が彼を覆う包帯やガーゼの数が少なくなってるような気がするのだ。夢の世界と現実世界の彼の状況がリンクしているとすれば、彼は今病院で治療を受けている、そう私は推測した。

私は彼女に全てを話した。繰り返し見る夢。その夢を見ていたから彼女の自殺未遂に気付き、止めることができたこと。その夢のバスには彼女の恋人も乗っていること。その状況から最近事故か何かにあって病院に入院しているのではないか、と推測した事。話を聞く彼女の表情からは信じてもらえてるかどうかを読み取ることができなかった。しかし、恋人を探すほんの僅かな光明を見つけたようだった。

12(現実)

病室のネームプレートには「金井順也」と書かれていた。安藤小百合の恋人を見つけるのは思いの外、時間がかかった。最近あった事故を調べた上で全身を負傷している入院患者を調べる、名前も分かっているのだから、そんなに時間はかからないとたかを括っていたが、県を3つ跨いだ小さな病院で彼を発見できたのは彼女とともに探し始めてから4週間後だった。それでも4週間で見つけられたのは運が良かったと言わざるを得ない。彼はやはり意図的に安藤小百合に見つからないようにしていたのだろう。

最初に病室に入ってくる安藤小百合を見た時金井順也の目は大きく見開かれ愕然としていたが、事情を飲み込んだらしく彼女と私に椅子をすすめてきた。二人が腰掛けると金井は観念したように訥々と話し始めた。

事故は金井の不注意から起きた自損事故だった。サーフィンを愛する彼はその日も一人で海へ向かう途中だったが、次に彼が目を覚ましたのは真っ白い病室の中だった。そして彼の両足の感覚はなくなっていた。彼は絶望した。彼は満足に歩くこともできなくなった自らの姿を晒すことも、介護という重荷を背負わすことも耐え切れずに安藤小百合に何も告げずに姿をくらませた。

重い沈黙が流れた。「死んだ方がまし」話の中で彼は何度かその言葉を使った。話を聞きながら私は夢のバスの事を思い出していた。あのバスは「死」へ向かっている。それも自らの意思で「死」を望む者たちがあのバスへ乗車してくる、私はそう悟っていた。

13(夢)

気付くと再び薔薇の庭園に私は立っていた。青いベンチにはやはりあの少女が座っている。私はまた少女の横に腰掛け、声をかけた。

「こんにちは」

「こんにちは」

「何してるの?」

「遊んでるの」

「あなたひとりで遊んでるの?」

「うん」

「他には誰もいないの?」

「だれもいない」

「ねえ、ここは夢の世界なんでしょう?もしかしてあなたも現実世界にも存在してるの?」

難しくて分からない、そう言いたげに困ったように少女は眉毛を傾げた。

「ごめんごめん、わからないよね。」そう謝りながらふと思うことがあった。この少女、似ている。

「あなた、お名前は何ていうの?」

14(現実)

私は再び金井の病室に来ていた。室内には既に安藤小百合も来ていたが、話が弾んでいる様子はない。この部屋だけ空気の重量が他よりも重たく感じる。金井は私を見ると露骨に鬱陶しそうな顔をした。

「またおかしな夢の話でもしに来たのか?」

私は彼にも全てを話していた。しかし彼は到底信じる気にはなれないようだった。安藤小百合の自殺を未遂に防げたのも金井を見つけ出せたことも偶然だと断じている。

「私は2人に死んで欲しくないと思ってる」

2人は何の反応も示さない。

「でもだからと言って『死ぬのなんて間違ってる。生きてたらきっと良いことがある』なんて無責任な事はいいたくない。ただ、」

私は一呼吸置いて、安藤小百合、金井順也の顔を見据えた。

「ただ、ひまりちゃんに2人を助けて欲しいってお願いされたから」

2人は一瞬時間が止まったように動かなかったが、呆然としながらも安藤小百合が口を開いた。

「どうして、陽茉莉の名前を…」

私は夢で出会った、2人によく似た顔立ちの少女の話をした。2人と少女の関係性は不明だが無関係でないことは直感していた。話してる間、安藤小百合は涙を流していたが、金井順也は口元を固く結んだまま、まっすぐに病室の白い壁を睨んでいた。話を終え、これ以上私から語ることもないので部屋を出ようとした時に金井順也が固く結んだ口を開いた。

「陽茉莉は」

「陽茉莉は君の夢の中で元気にしてたかな」

彼の声は震えていた。後日、安藤小百合から数年前に出産を目前に流産してしまった女の子がいたことを聞いた。

15(夢)

同じ夢。同じ光景、同じ匂い、同じバスの車内だ。しかし今日はいつもと少し違う。私を含めて6人いた乗客の中に安藤小百合と金井順也の姿はなかった。彼らは無事「途中下車」したのだ。私は胸を撫で下ろした。普段は陰鬱な気分になるだけの夢だが、今日は揺られる足元からじわじわと達成感が上ってくるようだ。安堵感に包まれながらバスに揺られ目覚めの瞬間を待っていた時、

ピンポーン

その音はまた車内に無慈悲に響き渡った。見るとサラリーマン風の中年男性が「次、停まります」のボタンを押していた。男は一瞬、私の方を見た。

その目は私に助けを求めている、私にはそう思えてならなかった。

16(夢)

安藤小百合と金井順也との一件から1年2ヶ月が経った。

6人乗っていた乗客は私以外誰もいなくなっていた。

「間もなく終点、終点でございます」

今まで一度も聞くことのなかったアナウンスが響いた。私はやり遂げたのだ。5人の自殺志願者を救い、遂に終着駅へと辿り着いたのだ。闇の中を延々と走り続けた夢のバスは遂に終わりを告げた。現実世界でもこのバスに乗るのは明日が最後になる。

明日は卒業式だ。

17 夢現(ゆめうつつ)

遠のく意識の中でニュースを読み上げる声が聞こえる。事故があったらしい。市営バスが対向車線に侵入し大型トラックと衝突したようだ。

眠る時、無音だと嫌なことばかり考えてしまうから、テレビやラジオを付けっぱなしにして寝るいつもの癖を今回も無意識にしていた様だ。枕元に置いてあるはずのリモコンを取ろうとしたが思うように身体が動かない。

バスは回送中で乗客はおらず、命を落としたのはバスの運転手だけでトラックの運転手も軽症で済んだとニュースキャスターが伝えている。

「調べによりますと、バスの運転手の胸ポケットからは遺書らしきものが発見された、ということです」

事務的に語る声が耳に届いた。ああ、そういえばあの夢のバスには乗客だけじゃなくて運転手もいたんだったなあ。ごめんよ、力になれなくて。「ごめんね」そう言葉にしようとしたが空になった睡眠薬の瓶が手から零れ、床に落ちる音だけが虚しく部屋に響いた。



補足

今回の物語は令和4年1月14日の朝に私が実際に見た「夢」を物語に書き直したものである。ただでさえ「夢」という曖昧模糊さ、加えて私の拙筆さも相まって理解できない話の展開も多かったのではないか、という危惧からこのような形で補足することとする。

物語を書くにあたって、私は非常に安易な発想だが「意外な結末」を用意したいと考えた。物語の中心は不思議なバスの夢を見る高校生である「私」がバスの乗客は皆自殺志願者であることに気付き、それを食い止める為に奔走する、というものである。その結末として「私」自身もまた、バスの乗客の一人であった、即ち「私」も自殺志願者の一人であった、というオチを用意した。それに合わせ、バスに乗っていたのは乗客だけではなくバスを運転する「運転手」もまた乗客の一人だった、というのも意外性があるのではないか、と考えた。

この物語は自殺志願者である乗客を「途中下車」させる、という目的で話が展開するが、実は「途中乗車」する客が登場する展開も考えていた。主人公である「私」は見ず知らずの人たちを死から救う為に奮闘するが、ある日初めて人が「乗車」してくる夢を見る。しかもそれは初めての「顔見知り」の乗客だった。悩みを抱える「私」の数少ない理解者である友人がある日「死」へ向かうバスへと足を踏み入れてしまった。何故、友人は自ら死を選択するに至ったのか、友人を救う為にもがく「私」の章を入れようとしていたが、風呂敷を広げすぎると収拾がつかなくなるか、完結させる前に私が飽きてしまう可能性があったので、今回はとにかく物語を完結させることを優先し、割愛することにした。

物語のタイトルは最初「夢幻」としていた。題名通り、私が見た夢がベースとなっているからだ。そして「次、停まります」と「夢の終点」で迷った末にこのタイトルに着地した。最終章「夢現(ゆめうつつ)」は音読みすると初期タイトルと同じく「むげん」と読める。

物語の主人公である「私」に関する描写はほとんどない。どんな容姿なのか、どんな性格なのか、名前も性別すらも明らかにされていない。これは私が普段夢を見る時、周りにどんな人物が登場していたかは覚えていても、どんな「私」だったかはあまり鮮明には覚えていないことから得た着眼点である。「覚えていない」というよりも「無頓着」と言い換えた方が適切かもしれない。夢を見る時、現実世界と全く同じ「私」として夢を見る場合も多いが、現実の自分とは全く違う見た目、年齢、国籍や人種が違う場合もあるだろう、人ではないかもしれない。しかし夢を見ている間はどんな私も「私」としてしか認識していない。

夢の中の自分が子供であろうが、違う性別であろうが、魚だろうが、夢を見てる時自身に疑問を抱かない。ただあるがままの私を「私」として認識して夢の世界を享受している。目を覚まして脳が活動を始めて初めて、今朝の夢、そういえば自分学生だったなとか、めちゃくちゃ巨人だったな、とか振り返って気付くものだ。その観点から今回の物語は主人公である「私」のフォーカスを可能な限りぼかしている。

以上が今回の物語の補足である。拙筆ゆえに理解できない展開や、無理のある展開があったと思うがご容赦願いたい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?