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韃靼そばに教わった、モチベーション持続の鍵

蕎麦店主のひとり語り・3


生麺の急成長に、経営者がついていけない

店ではしぶとく韃靼そばを提供し続け、わずかずつだが韃靼そばの認知度が高まり始めた。そして2001年、工業技術センターと研究を初めて1年後に生麺の賞味期限を5日に延長した商品が完成。これでお持ち帰りの対応ができるようになり、通信販売や郵便局のふるさと小包もスタートした。2002年には北海道新技術新製品開発奨励賞を受賞。メディア露出が増え、そのうち全国区のテレビ番組に取り上げられ、ふるさと小包の受注がグッと増えた。

しかし、韃靼そばは店舗営業の傍らで製造していたのでとても対応しきれない。この時私は、韃靼そばの為に人を雇い投資するのはリスクが大きすぎると判断し、通販受注を減らした。当時は突然の受注増加に戸惑いが大きかったし、大中山出店のため相当の借り入れがあった。埼玉から呼んだ父を路頭に迷わすことはできないという気持ちが強く、やむを得ない判断だった。だが今考えれば、自分の中に将来を描き切れていなかったことが背景にあったと思う。

続けられたのは、あるご夫婦のおかげ

それでも韃靼そばを止めなかった理由は、店のお客様の存在だ。通販受注の急増と同じ頃、毎週土曜に韃靼そばを食べに来られるご夫妻がいた。定期的に通ってくださる方がいると、作ることに迷いがなくなる。このお客様のおかげで、そばを廃棄することもなくメニューを継続できた。お元気だろうかと今も思い出している。

さらに1年後、賞味期限2週間の生麺開発にも取り組んだが、味わいは店でお出しするものとはどうしても違う。その上、前回書いたように店舗と通販商品の両立に課題があって、この麺はとうとう日の目を見ずに終わってしまった。 

 


長く続く商いのモチベーションとは

開発ストーリーからちょっと寄り道して、「諦めずに続ける」ことについて少し考えてみた。続けられたのは、もちろんお客様の存在があったから。そしてもうひとつ、私が短期的利益を追わなかったからだ。通販の注文が急増した時に売り上げを追っていたら、身体も心も持たなかったし、細く長く続ける気持ちにもならなかっただろう。自分に嘘をつけない、他人の評価を気にしない、お金は後からついてくると思っている所がある。このしぶとさは私の性格的なものだ。だから、華々しさはないがしぶとく商売を続けていられるのだ。

20年間の韃靼そば事業をトータルすれば、まだ赤字。けれど一歩一歩前進しているのが目に見えるし、今では私自身を語る上で欠かせないライフワークだ。売り上げ以外に、ひとつ自分のテーマがある事は、仕事を続ける支えになっていた。もしかしたら、お金には代えられないものを手に入れたのかもしれない。

そば屋を営んでから、私は自分軸で生きることを少しずつ学んできた。自分軸で生きるには、自分を理解することだ。自分一人で出来る事はたかが知れている。それを知るほど他人を尊重したいと感じるようになり、自分自身も強くなれたように思う。感謝を言葉で表すのは下手だったと思うけれど、関わる人たちを幸せにしたいと思いながら仕事を続けてきた。これが自分のためだけなら、とても続かなかっただろう。 


「千乃家」は地域密着のそば店で、マニアックな韃靼そば専門店ではないが、旧店ではできなかった工夫もしている。少しでも多くの方に召し上がって頂けるよう、「ごまそばと韃靼そばの二色そば」。そして知らない方にも興味を持って頂けるよう、「韃靼そばの甘味セット(ぜんざい・アイス・そばチップス)」。少しずつご注文が増えるのを楽しみに、これからも続けていくつもりだ

次回はいよいよ、冷凍生麺韃靼そばの開発について書きます。
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