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STRANGE STORIES

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奇妙だったり 不思議だったりする物語のコレクションです
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#ショートショート

ショートショート 「ナタデココ」

最後の晩餐の 最後に食べるのはデザートのナタデココだ。これを食べ終えたら殺される。そんな思いでいたから、ステーキも味がしなかった。そして、ナタデココ。味は感じるだろうか だが食べようとしたところで、後ろにいた黒い服の男が強力な腕力で 俺の頭をテーブルに押し付けてきた。 う 思わず声が漏れる なぜだ まだ食べ終えていないのに 屈強な男は俺の首の後ろに指をぐいいいと押し付けると、近くにいるひょろっとした若造に命令した。 「鉈でここを切れ」 「え?」 若造はよそ見をしていたようだが

ショートショート 拷問

人生で初めての坊主頭を慣れないと思い、地肌を触って待っていると、 目の前に立った男から名前を確認され 書類を出すように言われた。急いで召喚状や必要な身分証明書をカウンター越しに提示する。 大人しく出すと、疑わしそうな目で見られる。 しばらく待たされた後、しぶしぶ頷いた男についてくるよう言われたので、後を歩いていく。 男は狭い階段を上がっていく。この建物で仕事をしている人間がちらちらとこちらに物言いたげな視線を送ってくる。心細くなってわたしは仲間はいないだろうかと探す。わたしの

ショートショート「人事」

「何に喜びを感じますか?」 「今まで嬉しかったことは何ですか?」 「やりがいを感じることは何ですか?」 きっちりしたスーツで来た入試の偏差値が高い大学の学生の履歴書を見る。履歴書のアピールはすごいが、 「全然だめだな」 「どうしてですか」 「個性を観るために私服で来るように言ったのに、それがわかっていない」 カジュアルでいいと言われて 僕が私服で受けた会社はすべて落ちたのに。まったく就職活動というのは腹の探り合いだ。 「やりがいを感じることは何ですか?」 「特にありません

ショートショート「気持ちはわかる」

都会の人って優しくないよねー 都会って人が多くてほんといや と事あるごとに言っていたら、出入り禁止にされてしまった。 「本自治体の市民に対する名誉棄損で、(中略)貴殿の入境を禁じます。」 こうした際の定型文の末尾に、東京都、大阪府、京都市、名古屋市、福岡市の署名があった。 どうしよう。 これじゃ仕事にも行けない ライブもいけない ああどうしよう 友達だと思っていた人に連絡すると 「はっ あたりまえだよ。前から思ってたんだよね。あんた嫌いって言うなら都会にくんなよ。あんたが都会

ショートショート「じゅじゅつかいせん」

じゅじゅつかいせん という言葉を探してみてくださいね。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 同じ中学からこの高校に入ったのは里村だけで こいつはもう部活を決めたらしい。 「柔道部に入ったんだっけ?」 「柔道部でなくって、柔術」 「柔術かい」 「せんせー こいつも柔術部に入りたいって」 大きな声の呼びかけに反応したのか、大柄でジャージを着た人がこっちにのしのしと歩いてきた。 「いや言ってない。俺はサッカー部に入ったんで」 先生と呼ばれた人は残

ショートショート「アンナ カレーニナ」

アンナカレーニナという言葉を探してみてください。 本編 「話聞いてくれる?」 トルストイの「アンナ カレーニナ」を読んでいると、れになが話を聞いてくれというように体を寄せてきた。暑いのだが。 「ええよ」 「あんな、彼にな、告白されたんよ」 「彼 誰?」 泉だと言う。へー 気難しくて真面目そうな あんな彼にな 「陸上部やんなあ」 「うん」 「日曜日でもうちの近くの公園走っとるよ」 私にさえ好きな人がおらんいうのに、恋しとる ストイックな彼がなあ 「そうなん?」 「うん。で、

ショートショート「草々のフリー恋」

拝啓  お久しぶりです。出す当てもないのですが、あなたは読んでくれるだろうと思って、この手紙を書きます。    周囲の人が派遣社員や契約社員にぞんざいな態度を取っている中、あなたは会って早々フリーランスの僕に笑顔で接してくれて、下に観ようともせず、対等にしてくれましたね。最初はそのことが新鮮で それからあなたに興味を持ったんだと思います。  それからお昼を一緒に食べるようになって、仕事以外の話もするようになったんでしたね。他に誘う人がいなかったのか 僕を誘いたかったのか 今

ショートショート「決めずの刃」 

GHQ、日本では連合国軍総司令部と訳される米軍の組織は、戦後すぐに日本人を武装解除する方針を立て、軍刀や室町時代以来の刀を回収した。GHQに回収された刀剣の保管場所は東京都の赤羽にあったことから、こうした刀剣は赤羽刀と総称される。 昭和20年9月29日には「善意の日本人が所有する骨董的価値のある刀剣類は、審査の上で日本人に保管を許す」との覚書がGHQより日本政府に出された。 しかし、この覚書の前には既に日本各地から刀が回収されており、中には名刀も含まれていた。<君津の刃>と言

ショートショート「ぐずりやのひとりごと」

あーやだー やだやだ 私は自分の顔も声も性格も嫌だし、貧乏なところも嫌いだ 受け入れたくない。中卒だけど、高卒だと偽って仕事をしている自分が嫌だ。簡単な掛け算もできないことを必死に隠して あれえ間違えちゃったとか へらへら笑っている自分にもうんざりする。 前の日に「あなたはそのままでいいのよ。そのままの自分を受け容れなさい。自分がまず自分を愛さないと誰もあなたを愛してくれない」と正論のような言葉を聞かされて以来、悶々としている。 そのままでいいって、進歩がないってこと? 何

ショートショート 「誕生日」

その日の最初に「誕生日おめでとう」を言ってほしくて 結局 夜の2時過ぎまで彼と話していたので、端末の命が残り少ない。 朝は眠いし 母は夜勤で起こしてくれないから学校に遅刻しそうだったし それで充電器を持ってくることを思いつかなかった。 なんかまだ頭がぼんやりする。 学校が終わってから充電器を取りに戻る時間もない。どうしよう。 「充電器持ってない?」 ほとんど目をつむりながら美和に訊いてみる。 美和は あっさり首を横に振りながらも 「ない。代わりにこれ。」 なにかを手に押し付け

ショートショート「幸運が降ってくる」

誕生日である2月6日を連ねた02060206の数字を毎週買うことにしてきた。 始めたのは大学生の頃だった。 大学で知り合った友人が自分の誕生日を選んだら、その週で唯一の当選者となり、2億円が当たったと言うのがきっかけだった。 本当かどうかは知らないが、彼女はその後すぐに大学をやめた。 それ以来わたしも必ず誕生日と同じ番号を選び、金曜日の2時6分に有楽町の決まった売り場で日の昇る東側のブースで、東側となる左手で支払いと、ゲンを担いだ。 毎週の結果発表がある日曜日の午後  まだ当