ショートショート 拷問
人生で初めての坊主頭を慣れないと思い、地肌を触って待っていると、
目の前に立った男から名前を確認され 書類を出すように言われた。急いで召喚状や必要な身分証明書をカウンター越しに提示する。
大人しく出すと、疑わしそうな目で見られる。
しばらく待たされた後、しぶしぶ頷いた男についてくるよう言われたので、後を歩いていく。
男は狭い階段を上がっていく。この建物で仕事をしている人間がちらちらとこちらに物言いたげな視線を送ってくる。心細くなってわたしは仲間はいないだろうかと探す。わたしのほかにも裸足にさせられた人間が不安そうな表情で並んでいた。
数分歩いたところで、壁際の 他の人間からは見えないように仕切られた狭い空間に入るよう指示された。大丈夫だろうか。
立つ場所まで指定されたが、裸足では冷たくて立っていられない。
顔をしかめていると、急に脳天に固い板を打ち付けられた。
う 思わず声が出た。
担当の人間が怪訝そうにこちらを窺った。
この程度でもう苦痛に感じているのか情けない奴だと思っているのだろう。
仕切りから出ると、またしても隣の狭い空間に一つきり置かれたみすぼらしい椅子に座るように指示された。体重を乗せると椅子が揺れる。脚がガタついているようだ。
指示された通りに腕を突き出すとギュウウウッと思い切り腕を締め付けられる。思わずまた声が漏れてしまう。血の気が引いて、頭が痛くなってきた。
仲間の名前は言わんぞ、と強く念じて何とか耐えた。
拷問はまだ終わらない。
次は半裸にされて、大きな洗濯ばさみのようなものを手首足首、さらに腹や胸にも取り付けてくる。俺は痛みに強い。こんなものには負けない。
次は冷酷そうな女が現れて、いっそう暗い部屋に入れと言う。
ほとんど何も見えず、椅子に脛をぶつけてしまった。
く 痛い。予想していない痛みは本当に痛い。
女は絶対に目を閉じるんじゃないと言ってくる。
ふん たいしたことはあるまいと高をくくっていると
強烈な光を浴びせられた。
くわ まぶしい
思わず涙が零れてくる。
うう
まるで中世の拷問じゃないか。
「次が最後」
女がぼそっと言うのが聞こえた。
この拷問にも耐えた俺はとうとう最後の拷問にかけられる。
これで何も言わなければ殺されるということだろう。
どんな拷問かと思っていると、なんと身体から血を抜き取られるらしい。
さすがの俺もそんなことをされたら死んでしまう。仲間を売るしかない。
「名前を言います。」
「名前?」
その必要はなく、すでに知っているという。そんな馬鹿な。
女は無慈悲にも俺の腕に注射針を突き立てると、どんどん俺の身体から血を吸い取っていく。ああ あ 力が失われていく。
針を抜くと女は言った。
「今年の健康診断は終わりです。」
この国では毎年こんな拷問が行われているのだ。
家に帰ると妻が意外そうな顔をしていた。
「あら 今年は早かったわね。採血の後いつも気分悪くって寝ているんでしょ?お昼用意してないけど、大丈夫だったの?」
「ああ 拷問の妄想をしていたら案外大丈夫だった。仲間の名前も吐かなかった」
「なにそれ」
解題
怖ろしい国ですね。尿や便を見せろと言って羞恥心を刺激する拷問もあったり、罰ゲームのように大量の白いガムを強制的に飲ませられたり、「念入りに取り調べをする必要がありそうだ」と言われて、帰ってこられないかもしれない不安に慄きながらも、別の施設に行くように指示されたりする人もいるそうです。
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