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ショートショート 「誕生日」

その日の最初に「誕生日おめでとう」を言ってほしくて 結局 夜の2時過ぎまで彼と話していたので、端末の命が残り少ない。
朝は眠いし 母は夜勤で起こしてくれないから学校に遅刻しそうだったし
それで充電器を持ってくることを思いつかなかった。
なんかまだ頭がぼんやりする。
学校が終わってから充電器を取りに戻る時間もない。どうしよう。
「充電器持ってない?」
ほとんど目をつむりながら美和に訊いてみる。
美和は あっさり首を横に振りながらも
「ない。代わりにこれ。」
なにかを手に押し付けてきた。
「誕生日おめでとう。十六歳いいなー。また一歳差だよ」
ん?なんだろ。眠いながらも細く目を開けると、リボンの掛かった小さな箱だった。
「こないだ言ってたアイライナーだよ」
「おお ありがとう 嬉しー」
目は眠ったままで顔いっぱいに笑う
「出た。ビリケンさん顔」
「へへ」
「いやあ 朝連絡しようと思ったけど、彼氏より先じゃ悪いからさ。」
「さすが美和殿は わかってらっしゃる。うちの母上と同じですな。」
「ビリケンさんに褒められた。」
美和は嬉しそうだ。
「そのビリケンさんは今困ってる」
「何に?」
「誕生日デートに」
「ああ 今年も彼氏と誕生日デートか 羨ましいなあ」
「うん。なんだけどさ」
はあ 思わず溜息が出てしまう。
「言ってなかったけど、今日すごい日なんだよ」
だんだん頭が冴えてきた。
「なにが。あ 浮気を追及する?」
「いやぜんぜん違う。法律変わったじゃん。五歳差までじゃないと法律違反になるってやつ」
「ん?どゆこと?」
「だからー 私の年齢だと五歳差ならセックスしていいの。で、今日 私 誕生日で 十六歳になったでしょ。」
「うん。そいで?」
「明日、彼の誕生日なの はあああ」
盛大な溜息をついてみせる。
「意味わからんけど?」
「彼、明日、二十二歳に、なるの。」
「あれ?そんなに離れてたっけ」
「うん 健くん大学四年だもん」
「ん?で?」
「だから、今日は五歳差で、明日は六歳差になるの。今日しかセックスできないの!」
「ええ?まじヤバいじゃん」
声が大きい。
「ったく誰だよ変な法律作ったの マジ死ね」
「ちゃんと守ってるんだ」
「だって 健くん逮捕させたくないもん」
「彼氏よく我慢したな」
美和が感心した風に腕を組んで頷いている。感心したのはそっちか。
「で今日しかないのに 充電がないから心配」
「にゃるほど」


ようやく学校が終わった。
「デート楽しんでねー」という美和に見送られて 学校を出る。
「ああ もう本当に充電がー」
ピルロン あ 健介からだ

-今日場所変えていい?
-いいよ
-決まったら連絡する
-うん

えー 決まったらあ?時間おんなじだから家帰れないし
カフェで待機かな そんなに遠いとこじゃないといいけど


チェーンのカフェに入って30分も待っている。その間何もすることがなくて 本当に暇だ。音楽も聴けないし 動画も観られない。けど、端末の画面を確認だけはしてしまう。
目覚ましをオフにしたら少し違うかなと思ってオフにする。他の通知も切っとくかと思ってどんどんオフにする。この作業ってどのくらい電池使うんだろ。
ああ 電池が たぶんあと一回だな
頼むー 健介からの連絡あるまでもってくれー 念を送って端末を握りしめる。

ピルロン
来たー どこで待ち合わせ?

-誕生日おめでとう 母より




解題
タイトルは「お節介」「良かれと思って」「おめでとう」など考えたんですが、「誕生日」がすべてをひっくるめた言葉だから いいかなと思いました。
結局、二人、会えたんですかね。



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