秋浦赬霞

野生の詩人です。 つれづれに文章を書いていこうと存じます。 お付き合いいただければ幸い…

秋浦赬霞

野生の詩人です。 つれづれに文章を書いていこうと存じます。 お付き合いいただければ幸いです。

最近の記事

POLYPHARMACY

薬を便器に流してやった 早番の鈍重な頭で、叱責を恐れて 雨に牡丹が溶けてゆく朝だったよ 橡色の玉暖簾をかき分け 低気圧の誮しい弦楽団の奏でる 『弦楽四重奏のための緩徐楽章』の幻聴が 耳にじっと湿気みたいに付き纏っていた それと、地殻が揺籃をゆらし 棄民たちを慌てふためかせていたっけ 正直言ってさ、老い先短いの命なんてのは おれの面子と比べたら屁でもないんだよ だから誤薬の証拠を揉み消すため、流してやったんだ あんなにも脆い分包紙を裂いて、……黒洞洞の、 すべての汚濁を無かった

    • The City of Bloodshed

      σὺ υἱὲ ἀνθρώπου, εἰ κρινεῖς τὴν πόλιν τῶν αἱμάτων; 災いだ、流血の都 熱せられた瓦礫が泡を吹いて気絶し 覆われず露わな、遺体の血が裸となった街をひた走る 六芒星の刻まれた砲弾は「シャローム」と言い 無慈悲に主の息の通い道をこしらえる ΚΑΤΕΣΘΟΥΣΑ ΑΝΘΡΩΠΟΥΣ ΕΙ (You devour people) かつて誰かがそう言った シオン、流血の都よ、どうだ人間は旨いか? 何一つ変わらないのだな、おまえは τ

      • 破落戸

        路肩の石ころほどにも値打ちのない 鼻つまみ者の足が、興奮し、 靴底に発汗の溜池をつくりつつ 獲物を漁ってerection direction?——金貯め込んだクソババアの家 election?——ガチャ回すほうがまだおもしろいわ 押し入って、ぐるぐる巻きにして、縛って、 殴って、脅して、在処を吐かせて、ふんだくって逃げる 多少の傷は仕方ない、殺しちゃってもやむをえない 生きることがおれたちを急かす そうさ、おれたち成らず者 一戸もつくれない落ちこぼれ すべてがままならないなら

        • 虹(幻)

          君主の死! 循環器に鉛がしみこむ 彼方の国の大獅子が斃れたと聞き 影の慟哭が身に降り頻る おれは建て上げられたものを心底尊敬していた 天よ、愍み給え! この魂は可憐で、屈強で、抜け目なかった 渦中にあって、くじけず契約の履行をなしつづけた バッキンガムとテムズ川に掛かる二重の虹が 彼女の威光を天へと運ぶ しかし虹の彼方から すれ違いにおりてくるものを見た それは無頭の獅子と 鎖を解かれた一角獣 それから転げ落ちる 一輪の菖蒲 それは病んでいて、 なかば萎み、なかば食

          M. K.

          かっぽじったか 耳の穴 喇叭が散らす優渥な綸旨 „Alle Menschen sind zum Soldat geboren“ 聞こえただろ 俺もお前も一兵卒 万歳、吶喊、玉砕 独り遅れて恥かくなだと „Vergiß nicht Levée en masse!“ 見ろ 色とりどりの背囊担いだ小さな軍人たちを  下士顔負けの、鉄火場の修羅たちが、M4両手に戦地に赴いてるぜ 起きろよ お前もあの長靴の流れに身を委せ 軍用道を堂々歩け 公堂での陰湿な当てこすり いいじゃんか、それも

          錯落の花嫁

          Ⅰ 錯落——Chimère とShemale、 音の雫に溶け合う陰陽。 泰一の旌幟、韻の燠火は、 夕闇に砕かれた因果の砂子。 鏤められて逶迤に、川藻ゆらめく律動を、 湎みつつ偽りの百合が流れてゆく。 暮の微風に听いつづける彼女の額に、 やさしい蘆や柳が、憐みと親しみをこめて接吻ける 引き裂かれた魂を扃扉するようなその笑み、 ああ、いたわしくも、不器用に哽咽しているのが、わからないのか…… 哂いに暮れる花嫁の、谽谺たる、魂の遙曳を……      Ⅱ 圉圉、滑石のかたい乳房

          錯落の花嫁

          送り神

          「汗」を「乳酸の薔薇」と——彼は記した。 そのとき彼の脚の傍らで、日射に倦んだ椅子の猫足が丸まり佇んでいたのを覚えている。黒い制服の裾の裏側から、みずみずしい脚がちらついて見えた。後刻の苛酷な熱をはじいて産毛は麦色に熟し、その根元は華奢ではあったが、それでも躍り上がらんばかりの野太い生命の凝縮を犇々と伝えてくる、錦鯉の脚であった。 彼を知ったのは四年前だった。彼の母親が、彼を私のもとに連れてきた。母親は酷く羸れ、精気の無い頭髪が荻のように項垂れ、大気の毒牙に晒されていた。

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          紫陽花尽

          紫陽花尽

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          轡形団雪扇

          響かふは呪わしき執と欲、ゆめもふくらに 頸巻く毛の温み、真白なるほだしの環 そがうへに我ぞ聴く、沈丁花たぎる畑を、 堪へがたき夏の灯を、狂おしき甘きひびきを。                     白秋散人、「沈丁花」  巷間の曰く、有為転変は世の習い、其の運動は繯(わ)のよう……と。されど、其の謂いは真のこと乎(か)。げに傍(はた)ゆ見遣れば、営みは標本化され、幾度も廻(めぐ)り、時空を折り返すひずみを現す……しかし、世の円環が色境の映しとすれば、作麼生。  回答の一

          轡形団雪扇