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錯落の花嫁
Ⅰ
錯落——Chimère とShemale、
音の雫に溶け合う陰陽。
泰一の旌幟、韻の燠火は、
夕闇に砕かれた因果の砂子。
鏤められて逶迤に、川藻ゆらめく律動を、
湎みつつ偽りの百合が流れてゆく。
暮の微風に听いつづける彼女の額に、
やさしい蘆や柳が、憐みと親しみをこめて接吻ける
引き裂かれた魂を扃扉するようなその笑み、
ああ、いたわしくも、不器用に哽咽しているのが、わからないのか……
哂いに暮れる花嫁の、谽谺たる、魂の遙曳を……
Ⅱ
圉圉、滑石のかたい乳房を嘬る、生臭い吐息の数々。
こわばった圜土をほぐすように、こねた唾液は生暖かく、
冉冉、嬾い火箸が胸をこじ開け、
そのたびに陽根が龥天する——
「ああ、神さま、ぼくを助けて。この哀れなぼくを!
この頽廃と行きずりの悦楽の地獄から!
罪の突風がぼくを押し流して、
死人の手が、藻草のように身体に纏つき、
菌糸のように腐らせるのです。
思い遣りを装った、身勝手な鋏の尖端が、
傷口を嗆み、そのとき熔岩のように、旋律の火が濆くのです。
ぼくはすべての男の花嫁、扃鎖の破れ、
男そのものに股坐をあけ渡してしまった、
恥知らずで、従順な鶏。
ああ、晨は、晨はまだ来ない。
きっとぼくには二度と来ないなあ。
ぼくが鳴くのは、粘ついた夜を告げるため。
偽りの百合、贏れた鶏、虹色の膿で詰まってしまった、
朽木のようなぼくの脳髄……ぼくの子嚢、幸福の酒の皮袋、
ぼくの担子器、愛らしくさえずる雛……
ああ、眠い、眠い……この河の幽香は、
水飴のような眠りを、鼻孔に覆いかぶせるんだ……
ああ、ぼくは、白白した死に濡れて、窒息しそうだ!」
それでも、糖化した血糊の
「堕ちなよ」という甘言に很忤して、
磐峙する矜持、生理と精神の日挟み、
この股座に、八咫烏は留まるのだ。
Ⅲ
凈凈、死せる海の狂乱より
浼浼、生ける血の韻律に、
百合よ、望みを置け
お前は数多の汐の喘ぎを、
冷たさのうちに浪費し、弄ばれた
今こそその大輪の隅々に、
韻の温もりを送り込んで
蘇生せよ——爾は美々しいのだから。
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