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錯落の花嫁

錯落——Chimère とShemale、
音の雫に溶け合う陰陽。
泰一の旌幟、韻の燠火は、
夕闇に砕かれた因果の砂子。
鏤められて逶迤に、川藻ゆらめく律動を、
湎みつつ偽りの百合が流れてゆく。
暮の微風に听いつづける彼女の額に、
やさしい蘆や柳が、憐みと親しみをこめて接吻ける
引き裂かれた魂を扃扉するようなその笑み、
ああ、いたわしくも、不器用に哽咽しているのが、わからないのか……
哂いに暮れる花嫁の、谽谺たる、魂の遙曳を……     

圉圉、滑石のかたい乳房を嘬る、生臭い吐息の数々。
こわばった圜土をほぐすように、こねた唾液は生暖かく、
冉冉、嬾い火箸が胸をこじ開け、
そのたびに陽根が龥天する——
「ああ、神さま、ぼくを助けて。この哀れなぼくを!
この頽廃と行きずりの悦楽の地獄から!
罪の突風がぼくを押し流して、
死人の手が、藻草のように身体に纏つき、
菌糸のように腐らせるのです。
思い遣りを装った、身勝手な鋏の尖端が、
傷口を嗆み、そのとき熔岩のように、旋律の火が濆くのです。
ぼくはすべての男の花嫁、扃鎖の破れ、
男そのものに股坐をあけ渡してしまった、
恥知らずで、従順な鶏。
ああ、晨は、晨はまだ来ない。
きっとぼくには二度と来ないなあ。
ぼくが鳴くのは、粘ついた夜を告げるため。
偽りの百合、贏れた鶏、虹色の膿で詰まってしまった、
朽木のようなぼくの脳髄……ぼくの子嚢、幸福の酒の皮袋、
ぼくの担子器、愛らしくさえずる雛……
ああ、眠い、眠い……この河の幽香は、
水飴のような眠りを、鼻孔に覆いかぶせるんだ……
ああ、ぼくは、白白した死に濡れて、窒息しそうだ!」

それでも、糖化した血糊の
「堕ちなよ」という甘言に很忤して、
磐峙する矜持、生理と精神の日挟み、
この股座に、八咫烏は留まるのだ。  

凈凈、死せる海の狂乱より
浼浼、生ける血の韻律に、
百合よ、望みを置け
お前は数多の汐の喘ぎを、
冷たさのうちに浪費し、弄ばれた
今こそその大輪の隅々に、
韻の温もりを送り込んで
蘇生せよ——爾は美々しいのだから。

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