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隠し味の話

隠し味って、隠さないからこそ活きるんだ。

って、しみじみ思った輝かしい思い出を共有したい。

僕は中学高校と一貫校に通っていた。その6年間、ずっと吹奏楽部に所属していた。
厳格な上下関係があり、大会・演奏会に向けた真剣な練習をするし、高学年になると部全体の運営を同期たちで共に行っていく事になる。

そんな苦楽を6年間も共にすると、人間の内側まで全てをさらけ出さざるを得ない。殴り合ったあと河川敷に倒れて笑いあう不良少年のごとく、僕らは仲間になっていった。

そんなわけで、当時の吹部同期たちとは今後一生続いていくのではないかと思えるほどの、強固な絆で結ばれている。
卒業後も定期的に集まり、旅行や食事など、それはそれは多くの思い出を作ってきた。

いつものように皆で集まり、レンタルスペースを借りてダラダラと近況報告などをする会の途中だった。
お好み焼きでも作るかということになり、具材を揃えて粉を開封したところだった。

「水、どうする?」

別に水道水でも良い。東京の水は世界でも有数の綺麗さを誇るだろう。また、仲間内に神経質なやつなどいない。
でも、なんとなくみんな、天然水があるならそっちの方がいいよね、というマインドは共有していた。

酒を割るために買った炭酸水だけがそこにあった。誰が言い出したか、「炭酸水で作った方がむしろ美味いのでは?」のアイデアが飛び出した。

一度思い立ったら止まらないのがこの仲間の良いところ、または悪いところ。僕らは「炭酸水でお好み焼きを作る」ことに夢中になってしまった。シュワシュワの水で混ぜられるお好み焼き粉は、なぜかフワッフワに仕上がることしか想起されなかった。科学的根拠なんて誰も持ってないのに、「空気が多く含まれるから!!これ絶対美味いはず!!!」と信じて疑わなかった。

出来上がったクソデカサイズのお好み焼きを全員で食べた時、全員が口にした。

「フワッフワだ!!!!」

多分思い込みである。自分たちのアイデアで作ったから、良い方向に転ばないはずがないとみんなが思ってただけだ。まあ実際、本当に美味しいお好み焼きだったけど。

ここで途中から参加したメンバーが到着。
当然食べてもらうが、僕らはもうウキウキしながら聞いてしまう。「やけにフワフワしてない?実はこれ、隠し味があるんだよね。」

作ったところを見てない彼らにはわかるはずもない。フワフワしてるというのもただのゴリ押しだ。というか、炭酸水で作ったというのは「隠し味」ではないじゃないか。
それでも、炭酸水のヒミツを打ち明けると彼らは「確かに美味いかも!」とノってくれた。実際美味いのだし、もう会うだけでハイテンションになるような仲間なのだから、本当のことはどうでもいいのだが。

ただ、ここで強く実感した。隠し味は、本当に隠してたら意味がない。そして、言ったもん勝ち。

みなさんも、ちょっと料理がうまくいったら、そしてそれを人に振る舞う時はこのフレーズを使ってほしい。言う時は、ゴリ押しでもなんでもいい。

「美味いでしょ?実はこれ、隠し味があるんだよね。」

この発言自体が隠し味。なんか美味いかも、の思い込みを引き出すトリガーだ。隠さないことで活きる隠し味、素敵で手軽な魔法のパラドックスだ。

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