お母さん

お前は醜い
お前はなんて醜いんだろう
口あるごとにそう言われ続けて育ってきたという
自分は存在してはいけないんだ
幼い少女がそう思い至るようになるまで
そう時間はかからなかった
少女は信仰へと逃げた
母親の目を盗んでは教会へと通い詰めた
でも神様は何もしてくれない
わかっていたけど祈るほかなかった
耳の不自由だった母親は
どこに行くにも少女を補聴器代わりに連れ歩いた
お前のような醜い子を傍に置くのは恥ずかしくて仕方ないと
嫌というほど愚痴をこぼしながら
少女には兄がいた
母親から守ってくれるどころか
母親と結託して少女を貶めるような真似を笑いながら行った
何度も何度も
日常的に
頭のよかった兄が東大にストレートで入り
大人になった彼女も優秀な大学へ進学したが
母親は兄ばかりを贔屓して
お前は頭が足りないと罵った
彼女にも恋の季節がやってくる
見るからに誠実で優し気な男性から
短期留学土産だという言い訳で
美しいペンダントをもらった
同級生たちは自分たちはお菓子しかもらってないのだから
それは告白と同じだよとひやかした
でも自分は存在してはならないと思っている彼女は
それを受け入れることができなかった
どうしてもできなかった
自分にはもったいなさすぎるお誘いだ
そうして彼女は彼をそっと遠ざけた
お母さんその髪の色似合ってんじゃん
お母さんそのメイク可愛いじゃん
お母さんていつまでも若く見えるよね
事あるごとに私は母にそんな言葉をかける
こないだうちに来た友達がお母さん美人だって言ってたよ
マイナス20才って言っても過言じゃないね
人生でこれっぽっちも褒められ慣れてない母は
最初は戸惑った様子だったが
最近では嬉しそうな顔を見せてくれる
私が可愛いのはね、お母さんの子どもだからなんだよ
可愛く産んでくれてありがとう
母は泣いていた
泣きながら笑っていた
これからもいっぱい褒めてあげるからね
幼い頃の傷は簡単には治らないけれど
痛いところを撫でるように
賛辞の雨を降らせてあげる
だってお母さん実際にちっともブスじゃないんだもん
むしろほんとに可愛いんだもん
天国にいるクソババアに中指立てながら
私がお母さんを癒すんだ
そのために生まれてきたっていっても過言じゃないくらい
私の美しい使命は続く

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