村田さん

行きつけのスーパーの店員の村田さんは
ホテルマンのように慇懃で
丁寧で優しい接客術の持ち主
いつも買い物に行くたびに
村田さん今日はいるかなと
その細くて長身でちょっと猫背な姿を探してしまう
眼鏡をかけているところも萌えの一つだ
商品を手にするとき
まるで甘ん坊を抱くような柔らかな手つきで
大切に大切に一つずつを扱う
その心意気たるやお見事
いつかファンです握手して下さいと
告白しようと決めているのだけど
乙女心があまりにも募って
今日も村田さんのレジに並べない
意気地なし
そうつぶやきながらひとり帰る夜道に
吹く風はもう冬の匂いで
あんなに細い村田さんが
ちゃんとあったかくしてご飯をしっかり食べてるかどうか
心配になる
今日は村田さん入ってるかな
店内のどこを見渡してもその愛しい姿はない
それだけでスーパーに来たのが損に感じる
どれだけ好きなんだよ
自分につっこみを入れても事態が変わる訳もなく
愛想の悪いオジサンに会計されて
テメェ少しは村田さんを見習えゴラァと
元ヤンが心の中で蠢いている
まだ若いから大学生なのかフリーターなのか
私は村田さんのことを何も知らない
でもちゃんと見てるよ
誰よりも見てるよ
あなたがどれだけお客様を大事に想っているかを
これはあくまでも夢だけど飲みに誘えたらないいなあ
でもお酒弱そう
すぐ真っ赤になったら超かわいい
そんな妄想を膨らませながら今日もスーパーへ行くと
見つけた!
一番奥のレジに背中だけでもわかる
でも結局今日もあのレジに並ぶ勇気はないんだろうな
私意気地なしだから
でもいつかきっと告白してみせる
どんな顔するかなあ
たぶん壊れた人形みたいにペコペコするんじゃないかな
もったいないお言葉で御座いますと
またホテルマンみたいになって
たぶん冷たい手で握手してもらえたら
次からはずっと村田さんのレジに並んで
ちょっと照れた顔が毎回見られるのを
心待ちにしながら明日もスーパーへレッツゴー

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