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血の池地獄

今月もまた、生理がきた
うつ病で長年、大量の薬を飲んでいる私に子どもは産めない
それでも子宮はそんな私を糾弾するかのように
毎月毎月、血の涙を垂れ流す
早く孫の顔を見せてちょうだい、と
小言を絶やさない姑のようだ
有難いことに現実のお姑さんは私の病気を受け入れてくれている
夫には姉がおり、彼女には息子がいるから
孫の顔の役割分担はお義姉さまにお任せといったところだ
自分で言うのも何だが、私は幼い頃から聡明であり
ガキの分際でガキが大嫌いだった
大人びた私を、同級生たちは羨望の眼差しで慕ってきた
教師たちはどこか私を恐れているようでもあった
だてに虐待されて育ったわけじゃない
人間に失望するのが、他人よりとても早かっただけのことだ
病魔は刻々と私の精神を侵食し続け
高校にはとうとう通えなくなって中退せざるをえなくなった
解離性同一性障害、摂食障害、うつ病
3つの精神疾患を併発していた
自殺未遂の回数は両手でも足りないが
私はある人を愛した
壊れた心でも人は人を愛せるものなのかと自分が一番驚いた
彼もまた、神にすがるかのように私を求めた
そして彼も、重篤に精神を病んでいた
未来のない愛は死を呼び寄せる
それでも心の奥底でひっそり思っていた
彼の子なら産める
ガキが嫌いな者同士、そんな現実離れした話題に
言及したことはなかったが
晴れた日に永遠が垣間見えるように
私は私が私であることを無くしてもいいくらい彼を愛していた
酷い生理痛で嘔吐してしまう私の背中を
泣きそうな顔でさすりながら、彼は何を思っていたのだろう
女に生まれたせいでこんな目に遭って
女に生まれたせいで父親から性的虐待を受けて
そのせいで精神を病んで、それでもまだ、どこかで
いつか女に生まれてよかったと思える日が来るのではないか
その日とは、彼の子をこの腕に抱く日ではないのだろうか
そんな夢を、見た
私は自分で思っているより、はるかに大馬鹿だった
今月も、血の池地獄に堕ちて、彼のことを思い出す
あと数年で、生理は終焉を迎え、本当に子どもは産めなくなる
でもそれはあの時既に諦めたことだ
彼を愛し抜けなかった
この痛みはその罰だろうか
子宮はまだ彼を呼び続けているのだろうか
血の涙はその叫び声だろうか
女に生まれてきてよかった
結局、生まれてこのかた、一度もそう思ったことはない
きっと、これからも、ずっと

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