見出し画像

ソムリエ 【インスタントフィクション #03】

 ワイングラスの縁に鼻を引っ掛けて、彼は香りを楽しんでいるようだった。グラスの中には薄い黄褐色の液体がある。少しだけ口に含むと、すぼめた唇から吸い込んだ空気を、ドゥルドゥルドゥルと音を立てながら液体に絡めた。味覚だけに全神経を集中させるように目を瞑り、舌を上顎にぴちゃぴちゃと打ち付ける。そしてようやく、顎を上げてできた傾斜で液体を喉の奥に流し込んだ。
「甘口ですね。コクがあって、香りがいい」
「ありがとうございます」
「おそらく1990年生まれ、血液型はA型。飲酒、喫煙はなし…」
 彼は、ぶつぶつ言いながらバインダーに挟まった用紙にメモをとっている。
「飲んだだけでわかるんですか?」
「ソムリエですから」
「で、どうですか?」
「味は好みですが、残糖量がかなり多い。糖尿病の疑いがありますので、検査することをおすすめします」

 僕は近くの泌尿器科を紹介してもらい、検査を受けることになった。
 次のヌーヴォーの失禁日には、辛口に仕上げるつもりだ。


(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?