午前の恐竜 【インスタントフィクション #05】

 この幸福の実態を掴まえられないものかと、仰向けに寝転んだまま右手をもたげ、掌を宙でパクパクさせていると
「恐竜?」
 と起き抜けの君が問う。
「恐竜…」
「首の長いやつ?」
 ときどき君は暗号めいた言葉で僕を翻弄してしまう。キョウリュウ、クビノナガイ?ソレハ…ブラキオサウルス?
 そこまで解読できたところで、君は壁を指して
「影絵やってたんでしょ?」
 という。僕はやってない。が、なるほど、窓から侵入してきた朝日に当たって、僕の右手の薄い影が白い壁紙に投影されている。その形が、餌を咀嚼する首の長い恐竜のように見えなくもない。
「じゃあわたしが葉っぱやるね」
 と君は勝手に葉っぱ役をかってでて、僕のブラキオの周りで両の掌をわさわささせると、ブラキオがそれを食べる恰好となる。僕らの手はそのままもつれ合い、壁の中のブラキオも草もそれに呼応して揺れた。

 僕は影絵なんてしてなかったのだが。掌を宙でパクパクさせて掴まえられたのは、君の手だった。

(了)

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