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MET ライブビューイング 「アマゾン川のフロレンシア」鑑賞


今日はニューヨークにある、メトロポリタン歌劇場のシネマライブビューイングを、東銀座の東劇で観てきました。

このライブビューイングシリーズは、15年?ほど前から始まったもので、METでのある作品の上演日の内、1日を全世界の映画館に生中継するというものです。日本だけは遠いからか?、約3ヶ月ほど経ってから日本各地の映画館で上映されます。

私は10年ほど前からこのライブビューイングのファンで、途中から本場のNYに住むことができ、メトロポリタン歌劇場で生の舞台を観ることができています。

現在たまたま日本に帰国していたのでタイミング良く、このオペラを久しぶりに日本のライブビューイングで観ることが出来ました!

ずっと心待ちにしていた、ダニエル・カターン作曲のオペラ「アマゾン川のフロレンシア」。

あらすじは、

ブラジル生まれの歌姫フロレンシアは、20年ぶりに母国の街マナウスの歌劇場で歌うため、アマゾン川をさかのぼる客船「エルドラド号」に乗り込む。だが彼女の本当の目的は、ジャングルに消えた「蝶ハンター」の恋人クリストバルに再会することだった。さまざまな乗客が乗り合わせる船で、フロレンシアは自分の若い頃を思わせるジャーナリストで、彼女の伝記を書きたいと願っているロサルバと出会う。エルドラド号は嵐に揉まれながらもマナウスに近づくが、コレラの流行のために下船が禁じられてしまった。フロレンシアは蝶に姿を変え、その魂を恋人のところへ旅立たせる。

加藤浩子

この物語はノーベル賞作家ガルシア・マルケスの作品にインスピレーションを得て作られました。


カターン氏は1949年から2011年に生きた、偉大なるメキシコ人作曲家で、METではなんと約100年ぶりとなるスペイン語のオペラ上演です。

オペラといえば、イタリア語を始め、ドイツ語、フランス語、ロシア語が主流ですが、スペイン語のオペラは初めて聴きました。

びっくりしたのが、全く違和感を感じなかったことです。たぶんイタリア語と同じラテン系の言語なので、オペラ歌手にとっては歌いやすい言語なのでしょう。

ニューヨークは、人種のるつぼですが、とくにスペイン語を話す国から移住している方が人口の半分以上と聞いたことがあるので、METで長らくスペイン語のオペラが上演されなかったのは不自然でもあります。
確かにスペイン語のオペラは少なく、METという巨大な歌劇場で上演するには、音楽も物語もこの歌劇場でやる意義のあるものでなければ、と思いますが、このオペラはむしろこの歌劇場だからこそできる音楽と物語と一流の歌手陣だったので、作曲家が存命の時に上演をなぜ出来なかったのか、不思議です。


ライブビューイングの良いところは、迫力の歌や舞台装置、衣装をカメラが間近まで迫ってくれてるおかげで、近距離で見ることができます。また、休憩の時間は舞台裏の様子やスタッフや歌手などの方々のインタビューが聞けます。

今回は、インタビュアーがメキシコ出身の歌手、ロランド・ヴィラゾンで、彼は作曲家と親交があったため、スペイン語を混えながら、情熱的にこの作品のことを語っていて聞いてて楽しかったです。


登場人物が主役である歌姫の他に、謎の人物(実は川の精霊)、女性作家、倦怠期の熟年夫婦、船長と彼の甥など、乗客の人間模様を描きながら、船は終着地マナウスを目指して進んでいくというもので、物語的には、なんかよく映画やドラマにありそうな設定です。でも船が嵐に遭って、女流作家と船長の甥が恋に落ち、倦怠期の熟年夫婦が愛を取り戻すところは、"吊り橋効果"とでもいいますか、やはり困難を共に乗り越えると絆が深まるらしいですね。

歌手であるフロレンシアは、昔船の上で蝶ハンターであるクリストバルという男と恋に落ち、それ以降全くお互いに会っておらず、フロレンシアは歌手として名声を獲得したわけですが、彼女にしてみれば、歌が心から歌えるようになったのは彼のおかげで、また彼に会いたい一心でこの船に乗り込んだわけです。しかし彼は数年前に行方不明になったと船長から聞かされます。
冒頭から彼女のその心境をアリア(感情を表現するソロ曲のこと)で歌ってみせています。

このフロレンシア役は、これまたメキシコ系移民のアメリカ人である、アイリーン・ペレスが見事に演じ歌っていました。もう感動感動。
リリック・ソプラノである彼女のことは、5年以上前から様々な作品で拝見しており、中でもMETでの彼女のミミ(ラ・ボエーム)は軍を抜いて、表現、歌唱共に素晴らしかったのは今でも覚えています。
この作品は彼女の母国語でもあり、久々のスペイン語オペラをMETで!ということで、全身全霊で歌っていて、鳥肌が立ちました。インタビューの中でもメキシコの方々に向けてメッセージを!と言われ、話してる最中から感極まって涙ぐみながら話しているのが印象的でした。

今回のプロダクションの演出は素晴らかった!!ライオンキングを思わせるような大掛かり、かつ工夫を凝らしたセットや演出で、見応えたっぷりでした。演出を手がけたメアリー・ジマーマンは他にもブロードウェイの演出や、映画監督もなさっているそうで、この演出にも使われた人形使いも彼女と縁がある方が出演されたとのこと。

別撮りのインタビューの中で彼女は、「誰でも何かや誰かを失くした経験があると思います。それは別の何かで埋められることもあれば、埋められない心の穴もある。それをこの作品を通じて感じて頂ければと」。正確には覚えてないのですが、このようなメッセージをおっしゃっていて、たしかにフロレンシアは最後、彼が生きているのかどうかも分からないけど、歌い続ける、と言って最後には蝶になるという、解釈が観客に委ねられているような作品となっています。

音楽も本当にメロディアスで、指揮者のヤニック・ネゼ・セガンも普段オペラには登場しない楽器が使われていたり、とても壮大で神秘的で美しい作品と言っていました。

ぜひ一度METのライブビューイングで素晴らしいオペラ体験をしてみてはいかがでしょう?

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