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震災を機に新聞記者を辞めてバー経営者へ「お金以外のストレスはなくなった」

熊本の繁華街の近く、人通りの少ない路地にあるバー「69spirits(ロックスピリッツ)」。お店の売りは、熊本県南部の人吉球磨(ひとよしくま)地域でとれた米と水で作られる「球磨焼酎」です。店長は、元熊本日日新聞記者の星原克也さん(49)。朝まで働くこともある新聞社の仕事を辞め、自分の裁量で働けるフリーランスに。元同僚からは「顔が優しくなった」と言われているそうです。

熊本城から歩いて10分ほど。繁華街の地下の入り口に見落としそうな小さな看板が見えます。古いビルの階段を降りると、外観とは変わって明るく、バーと言うよりはきれいなカフェの雰囲気。しかし、壁一面の焼酎の瓶が圧倒します。そこで、にっこり迎えてくれるのが店長の星原さん。「会社を辞めたことは後悔することはないですね。決断してよかった」。オープンから1年がたとうとしています。

※この記事は2018年5月23日、ひとりを楽しむメディア「DANRO」で公開されました。

子どもといる時間より、大事な仕事ってあるのかな

新聞社を辞める転機となったのは、2016年4月の熊本地震。何度も余震が続くなか、最大震度7を記録した「本震」の日は、星原さんの誕生日でもありました。

星原さんの当時の仕事は紙面の編集者。記者が書いた原稿を紙面のどこに載せるのかを判断したり、見出しをつけたりする部署でした。仕事が終わるのは、深夜0時過ぎ。帰宅途中の車が大きく揺れ、街全体が停電したといいます。「会社に戻った方がいいだろうな」。新聞社では震災や大事件が起きた際は、会社に戻るルール。現場に駆けつけたり、号外発行の準備をしたりするためです。

号外を発行し、仕事が終わったころにはもう昼前になっていました。その後も余震が何度も続いたこともあり、会社に泊まり込む日もありました。妻の実家に避難していた子どもたちには、10日間、会うことはできませんでした。

「いつ帰ってくるの?」

そんな時、子どもからの一本の電話が退職への大きなきっかけになったといいます。「完全に吹っ切れましたね。子どもといる時間より、大事な仕事ってあるのかなと。元から、定年まで働くつもりはなかったので、じゃあいつやめるのかって考えると、このタイミングなのかなと思いました」

熊本市内でバー「69spirits」を経営する星原克也さん

退職の条件は「食いっぱぐれないこと」

新聞社をやめた後にやることは決まっていました。「もとからお酒が大好きなので、バーをやりたかった」。最初は大好きなウイスキーのお店にしようかと考えましたが、断念しました。「ウイスキーのお店ならたくさんありますしね。なにより、スコットランドの言葉がわからないから、作り手の思いを知ることができない。自分がわからないものを売りたくないな、と思っていたので」

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