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小説「つないで~イエスかノーか半分か番外編4~」 *20/08/19

読書記録:
一穂ミチ/「つないで」~イエスかノーか半分か番外編4~

大好きなシリーズの最新刊。待ちに待っていました。
ディアプラス文庫はもう10年以上新刊を確認し続けているので、8月10日発売日と言ったら、発売日より前の8日か9日のお盆前には都心の書店に並んでいるというのがいつも流れだったので、9日にあると疑わずにアニメイトに行き、店員さんにまで聞いてしまいました。そうしたら「12日に入荷します」と言われて愕然…。ショックで近くの大型書店にも行きましたが、そこにもなく。。Twitter上では8日時点で既に手にしていた方もいたので、コロナでどこも無理をしない運営になっているのでしょうか?
それか、私が珍しく本で買う理由には「協力書店応援ペーパー」というものがあるのですが、その特典SSペーパー(ショート小説ペーパー…でいいんですよね?)の配布店だけ、準備に時間がかかっていたのでしょうか。


…こう考えると、あらためて、BL小説の世界ってめちゃめちゃ旧式ですよね。10年前から特典の紙1枚に結構翻弄されています。とはいえ、最近は電子書籍のBL小説や漫画にも、特典SSや漫画が付いてることも多くなりました。
でも、先日本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんは、逆にこのBL小説界のやり方をうまく使って、特定書店での購入限定で、「書店購入特典ペーパー」を作られていましたね。そう考えると、ある意味、小説業界では最先端かな…?

BL小説界は、一時期、それこそBLCDの最盛期とともにも勢いがありましたが、今は若者の活字離れが進み、どんどん売り上げが縮小されています。また、いろんな本が絶版しています。ぜひ他の出版社で再発行してほしい名作がほかにもたくさんあります…!(↓のエントリでも触れています)

「イエスノー」シリーズについて

この「イエスかノーか半分か」シリーズは、1作目が今年の冬に劇場アニメ化されます。あわせて、ドラマCD化も1作目でのみ止まっていたものが、また動き出すという…。また、ファンブック2冊目も出るようで。
1巻目発売の2014年冬頃に読んでから、それからここまで追い続けていて、今までで1番メディアミックスが激しいです。ファン歴が長いので映画化はちょっと怖いところもありますが、とても嬉しく、楽しみです。

今回改めて調べて、この「イエスノー」シリーズは、短編集も含めると全9巻もあることがわかりました。そんなに出てたんだなー!
このお話は「旭テレビ」というテレビ局が舞台のお話です。「ザ・ニュース」という夜の報道番組が中心に物語がすすむのですが、結果的にカップルが3組も成立し、みんな集まってくるんだから、すごい番組ですよね…。
合計3カップリングは、以下のような組み合わせです。書き出すと改めてすごい番組だ。
 ①アニメーター×報道アナウンサー
 ②スポーツアナウンサー×報道番組AD
 ③ゼネラルプロデューサー×チーフプロデューサー
今回は3つ目の一番大人なカップリングのお話です。

「お仕事小説」としての確立

シリーズ全体に言えることですが、読み応え十分なで社会性のある「お仕事もの」になっていて、毎回圧倒されます。

一穂さんの小説は何作も拝読しているのですが、いつもちょっと独特なお仕事ものが多いです。国会の速記者(「ステノグラフィカ」)とか、毛糸工場(「甘い手、長い腕」)とか、家電製品の取扱説明書を在宅で作る仕事もありました(たしか「青を抱く」)。それがどれも、本当によく調べられているのです。さすがに上記のお仕事ものはどこまでリアリティがあるかは判別としませんが、今回のテレビ局などは、家族が近い仕事をしているので、かなりリアルだな〜と舌を巻きます。
さらに、この「イエスノー」シリーズは、テレビ局という大企業を描くことで、現場の人間と上の権力層の対立であったり、企業にはよくある理不尽についての描写もあり、それがこの長いシリーズ化に裏付けされるように、多くの人に共感される要素になっていると思っています。
私も、1巻目から本当に助けられました。仕事で理不尽な待遇を受けると、毎回泣きながら読んで、「私も頑張ろう」と復活していました。

今回の「つないで」は、番外編3「ふさいで」と同じ、③のカップリングのお話。ゼネラルプロデューサーという番組のトップは1作目から登場していました。大企業の上層部の権力に近い人たちのお話です。でも、それは1作目の主人公の、アナウンサーの計から見たらの話で、実際のところはただの中間管理職であり、かつて若手社員だった頃にはやはり理不尽な事件に巻き込まれていた、というような物語が見えてきます。

あまりネタバレはしたくないですが、今回は「ドキュメンタリーのおける"やらせ"問題→演出と嘘の狭間について」と「災害時の報道」というテーマで、NYまで飛んでみたり、広島で仕事をしていたりします。また、Twitterというメディアや、テレビと配信(Netflixのような)についても触れていたりして、本当にどこからそのネタ拾ってくるのかしら?というような、最新の社会問題が論じられているので、本当に毎回楽しいです。

そういった最新時事を取り入れた社会派なテーマと、キャラクターたちの軽いかけあい、そしてちゃんと恋愛もいい塩梅でまとめられていて、本当に毎回「うわぁ、今回もすごかったな…」と口に出してしまうシリーズです。読み応えはかなりありました。
BLに抵抗がない人で、テレビ業界の話に興味がある方には、是非とも見てほしいなと思います。初心者の人や、お仕事ものを読みたい方にも、おすすめです。

今作も番外編とはいえ、1作目の主役のアナウンサーの計が物語の核心のような大事なことを言っていますし、まさか番外編2「恋敵と虹彩」の恵くんまで出てくるとは思いませんでした。ファンに取っても、期待を裏切らない新刊でした。
劇場アニメ化、少し恐れながらも、楽しみにしています。

ちなみに、この作品が好きな方は、一穂ミチさんの「新聞社シリーズ」もおすすめです。こちらは新聞社のお仕事もので、4カップリング出てきます。こちらはもっとワールドワイドなお話で、香港の描写も出てきます。この小説で九龍に憧れて、いつか行きたいと思いながらも、いまなかなか様々な事情から行けなさそうで残念です…。





さらに、余談ですが…
シリーズの中で、やっぱり1作目から始まる主人公カップルの家とコマ撮りアニメーション(粘土の人形、花火、チョークアートなど)にまつわるお話も大好きですが、いまだわすれられないのは、今回の「つないで」のカップル③のチーフプロデューサーの栄が元々いた番組で作った企画のお話。

元々、栄は若手お笑い芸人が出る深夜のお笑い番組のプロデューサーでした。②のカップリングの番組ADの深も、元々は栄の元でお笑い番組で働いていたADで、深は気難しい栄の一番の子分として、報道に車でひたむきに仕事をしていました。その深夜のお笑い番組が元々大好きだから制作会社に就職をしたくらいで、深が大好きだった企画を話すシーンが番外編1の「横顔と虹彩」にあります。(P146)←自分のためのメモ

その企画は、若いピン芸人の元にいきなり知らないおじさんがくるというもの。知らないおじさんと急に一緒に暮らすことになり、ご飯を食べ、銭湯に行ったりするものの、おじさんは一言も喋らない。芸人は最初はうざったいのだけれど、一緒に生活するうちにどんどん愛着が湧いてしまう。でも実は、あらかじめキーワードが決められていて、それを言ったらおっさんは消える。キーワードは「俺ら、ほんまの親子みたいやな。」…ついに芸人はキーワードを言ってしまって、目が覚めたらおっさんは消えている…という少し寂しいVTRのはなし。

これ、読んだときに鳥肌がたって、全力で観たい…!と思ったんですよね。誰か撮らない?!似たような企画が昔あったの?!とも。

アニメーターの潮の作品もそうですが、ほかにも報道番組、お笑い番組等々、いくつも「これも見てみたい!」と思う映像の描写が多くて、
特に潮の作品のアニメーションに関しては、劇場アニメ化でもきっと一部は作られるはず…というのを、内心非常に楽しみにしています。




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