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NHKの庵野監督は本当にパワハラか?

NHKのBSで『シン仮面ライダー』の撮影風景を追ったドキュメンタリー番組が放送され、そこでの庵野監督の振る舞いがパワハラだとSNSで騒ぎになっている。違和感があるので少し書いてみる。ただし、最後に気になることも書く。

まず1に、「ドキュメンタリー番組は面白いところを使いがち」だから注意が必要なのだ。「対立」とか劇的な場面で構成するので、実際より大げさに見えることがある。当たり前だが、本当のところはわからないのだ。平穏な時間ももっとあったかもしれないし、逆に更にヤバいハラスメントがあったかもしれない。でも、わからない。だから番組の印象だけで批判するのはどうかと思う。

(追記 下の公式メイキングがYouTubeで公開され始めた。こちらではまた印象が変わる。つまりドキュメンタリーとは現実の切り抜きである以上、ある側面が強調されがち)

その2。「スタッフやキャスト、関係者の誰かが庵野監督のパワハラを訴えたわけではない」。そんな事実は今のところ出ていない。出たら非難すればいいと思う。だから今は落ち着いた方がいいのではないか。番組を見た視聴者の一部が言い出したことが、SNSを通じて大ごとに膨れ上がってるのは見ててハラハラする。

以上の2点は基本的なことです。
そして以下は個人的な見解です。

まず、見てて思ったのが、撮影日数がしっかり取られているなということ。予算に余裕があるから、現場でも「一旦、考える」「立ち止まって悩む」という時間が作れる。一見停滞するので「地獄のような現場」と書かれていたが、むしろ創作における一つのやり方として大いにありえる。普段、ドラマなどの撮影風景だと、時間の制限があるから極端に言えば「A案かB案のどっちか選ぶ」みたいな効率の中でのクリエイティブな選択で現場は進んでいく。サクサク気持ちよく進む感じだが、そうじゃないやり方もある。特にメジャー映画の場合、監督・スタッフ・役者それぞれの個性のための時間が作れる余裕がある。

それと、一般の方の中に誤解があると思ったのが、監督はなんでも説明するわけではない。中にはいろんな人がいるが、説明をしすぎないことで自分のイメージを押し付けず、スタッフや役者から出てきたものを貪欲に集めて、取捨選択する人もいる。会社組織だと変に思われるかもだけど、「一つの正解」がない芸術分野では多々見られること(たしかイーストウッドも役者に演技について特に言わなかったと思う)。庵野監督の場合は自分が脚本を書いているので、まず前提として庵野監督のビジョン(脚本執筆時のイメージ)はすでにある。そこからプラスαは俳優部やスタッフから取り込みたいという気持ちは理解できる。「庵野にイメージがないから丸投げ」みたいな批判を目にしたが、監督で脚本も書いてる人間にイメージが無いわけがない。ただ、そのイメージよりももっと上を、という貪欲さを持つ監督はあの手この手を考える。時に心理戦みたいなこともする。

もう一つ。庵野監督は俳優部やスタッフに「お前」みたいな暴言は吐いてない。常にほぼ敬語で「お願いします」と言う。わりと不機嫌そうだし、もちろん意見の対立時は感情的になったりする。しかし、これも誤解されてそうだが、アクション監督も俳優部も監督の部下ではない。庵野監督が「帰れ」「やめろ」とか言ってたら本当にヤバいが、ドキュメンタリーを見る限り、こだわりたいところは時間があるなら粘る、粘るから対等に相手に求める、という感じ。ラストのアクションで俳優3人が立ち回りを考えるという場面があったが、出来上がった形を一回壊してみる作業というのは、演技でもやったりするし、アクション監督やアクションコーディネーターがいる現場だから、本番で危険なことはさせない判断があってやってることだと思う。

あと、念の為書いておくが、田淵アクション監督や読み合わせを提案した森山未來さんは、何も間違っていないし、初めてやる監督がどういうやり方をする人なのか、いろいろ試して探るのがプロだと思うので、一見無駄になったことも無駄ではないと思う。「可哀想」というのも違うと思う。勝手な想像だが、そう思われたくないんじゃないかな。あと、よく名コンビみたいに言われる監督とカメラマンや俳優が、最初の一作目は喧嘩腰だった、みたいな話はごまんとある。

まだいろいろあるだろうけど、この辺で。
個人的には、特に庵野監督の大ファンというわけではない。
苦手な作品もある。ドキュメンタリーを見て、自分がスタッフだったら胃に穴が開くな、とも思った。しかし、ドキュメンタリーに描かれてない心の交流もあったはずだ。そう思いたい。

で、最後に気になったこと。
アクションのリアルを求める上で、決まりごとの「殺陣(たて)」から脱して、何かヤバい暴力を撮りたい気持ちはわからなくはない。しかし、決まりごとの「殺陣(たて)」はアクション部と俳優、さらにはまわりのスタッフの安全のために行われる。役者がテンション上がって「やります」という時、けっこう怪我のもとだったりする。アクション監督としては、怪我の可能性があるならやらせる訳にはいかないだろう。こういう時、どちらの気持ちもわかる。「ここまでいける」という正解の線引きはないのだろう(ハリウッドでも怪我してるしね)けど、いろいろ考えるね。


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