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全ての俳優を輝かせる傑作『あつい胸さわぎ』(動画あり)

「心が動く」瞬間をいかに映画的に描けるか?

映像という「映す」メディアには「映らない」要素がいくつかあります。例えば「フレームの外」は映らないのでそこにスタッフがいても観客の映画への没入感には影響しません。映ってないので。
そして映像に「映らない」大きな要素の一つが「心」です。
心の中を書ける小説のような文章のメディアとの大きな違いが、映ってる人物の心が映らないので、心を表現しなくてはなりません。
そのやり方としてオーソドックスなのが
・セリフで言う
・芝居で演じる
・編集で説明する
・カメラの動きで感じさせる
・効果音や音楽で感じさせる
・場所、背景で感じさせる
などかと思います。

これは演出という仕事のひとつの肝であり、
この「心を見せる」「心が動く」やり方に演出家の個性やセンス、大袈裟に言えば「才能」が見えると思います。わかりやすく説明するか、品を持って感じさせるか。

で、この 『あつい胸さわぎ』なんですが、観る前は「メロドラマかな〜」くらいに思ってました。すみません。見終わって、「いや〜めちゃくちゃ演出がすごい映画だった!」とただただ感服しました。
ここでさりげなく寝転ぶの上手い! ここで長回し! こんな派手な場面で目線のさりげない行き違い! こういう劇的な場面をこんな狭い路地で!
と観た人ならわかってくれると思います。 

和歌山の雑賀崎の港町を舞台に、関西弁のユーモラスで自然な会話の応酬が心地よく、そこで油断してると実は用意周到に「心が動く」瞬間がやってきて、それが「映画的に」描かれます。それが物語の要所要所にあって、何度も「おお、上手い!すごい!」と思わせる。まぁ僕も演出家目線なんで世間的には地味なのかもしれませんが、きっと映画好きなら「わ、このシーンすごい」ってなると思います。
役者の演技が上手いのはもちろんなんですが、感情が動く舞台装置を準備してるのは監督かなと思います。シチュエーション、なにげないロケ地、役者とカメラの動き、ほんとうに唸りました。うま!って。

主演の吉田美月喜さんの表情と声の素晴らしさ、常盤貴子さんの「関西の中年女性」のリアリティ、前田敦子さんの30代女性の生々しさ、と出てくる俳優すべて「この役者のこんな面、あまり見たことないかも!」という新たな魅力を引き出してて、特に驚いたのが佐藤緋美さんはクレジット見るまで「これ誰?」って感じで分かりませんでした!浅野忠信さんを父にCHARAさんを母に持ち、HIMI名義でミュージシャンとしても活躍する「おしゃれな人」というイメージだった緋美さんが、知的発達障害をもつ青年を演じ、それが原作にないオリジナルと知って衝撃でした。この役、やりすぎちゃうとダサくなるのに絶妙なバランスなんだよな!すご。

この映画、乳がんの疑いから始まる様々な年代の女性たちの青春のモヤモヤを描いた傑作で、これを男性監督が撮ったの?!という驚きでした。

↓まつむら監督に感服のテンションでインタビューしました。

まつむらしんご 監督の映画の作り方

大阪のミニシアター、第七藝術劇場とシアターセブンのYouTubeチャンネルでまつむら監督にネタバレなしで1時間半お話を伺いました。監督志望の人はぜったい観たほうがいい内容となりました(特に後半)


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