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ヒトの視覚は絵画をどう見ている?:アートを科学で紐解く

 絵画は、私たちが見ている3次元の空間を2次元に落とし込んだ物です。2次元にする際、古今東西あらゆる技術を使い表現してきました。遠近感が現実に近い物を編み出したり、光の捉え方を工夫したり、心象を写し出したりと様々です。このような取り組みの中、本記事では、「ヒトの視覚に近い絵画とは何か」科学的に迫っていきます。

 ヒトが何かを見ようとする時、その対象物以外の周辺視野はぼやけているのです。試してみてください。例えば、2mほど先にある対象物を凝視していると、その周りの視野はくっきりとしていません。「何を当然のことを言っているのだ」と思うかもしれません。しかし、この視覚特性こそが、2次元に落とし込まれた図像に違和感を感じる原因なのだと考えます。今回は、ヒトの視覚がなぜ対象物に対する解像度が高く、それ以外の周辺視野の解像度が低いか、説明した後、私たちの視覚に近い作品を紹介したいと思います。

[2種類の細胞が網膜に存在する]

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 上の図、右側は眼の構造です。網膜には錐体(すいたい)細胞、桿体(かんたい)細胞という2種類の細胞が存在しており、外からの光を受け、神経を介して、その情報を脳へと送ってます。

 錐体細胞は色への感度が高く、桿体細胞は光の強弱への感度が高い細胞です。

 網膜の中心窩(ちゅうしんか)に、錐体細胞が密に集まっているのが上の図、左側です。この錐体細胞が網膜の中心に集まっているため、ピントを合わせた対象物の色を鋭く識別できるのです!

 さらに左の図でわかるのは、網膜の周縁部(中心から離れる)にいくにつれ、錐体細胞の密度が低くなってます。その為、周縁部で捉えた像は解像度が低下し、この辺りから伝わる視覚はぼんやりとしているわけです。言い換えると、対象物にピントが合うとくっきりと見えるのは、錐体細胞が集まっている点で像を捉えているからです。それ以外の像がぼやけて見えるのは、錐体細胞の密度が低い為なのです。

[ヒトの視覚に近い絵画]

 ピントが合った対象物がくっきり、それ以外の像がぼやけている。そんな絵画がヒトの視覚に近いという前提で、作品を紹介します。

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ハンス・マカルト《メッサリナの役に扮する女優シャーロット・ヴォルター》

 実物はかなり大きな作品(たしか150×250cmくらい)で、正面でポーズをとる女優にまず目がいきます。彼女は煌びやかな装飾品と上質なシルクで身を纏い、それらに負けない堂々とした佇まいでいらっしゃいます。窓越しの遠景には民衆の蜂起でしょうか。なにやら炎が立ち上がり、人だかりができているのが見受けられます。奥には大きな建物も描写されていますね。

 お分かりでしょうか。近景の人物は写実的にはっきりと描かれているのに対し、遠景の群衆や建物は解像度が低くく描かれています。まさに、ヒトの視覚に近い画面ではないでしょうか。僕はこの作品を目にした際、立体的な女性と遠景に奥行きを感じ、とても感動しました。

 このように、科学を通して作品を観ると、また違った楽しみ方ができます。私たちが触れている世界は科学で説明できますし、私たちヒトも科学で説明でき、科学で認知したり、行動を起こすのです。

 「世界を認識するのに科学を使うと、普段と違った”世界”が見えてきますね」



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